弾劾裁判へ行って来ました。

時は、クリスマスイブ。
こんな日は、裁判に限ります(意味不明)。
ということで、平成20年訴追第一号事件、下山芳晴判事の弾劾裁判を傍聴して参りました。



弾劾裁判とは、憲法78条に定めのある裁判官を罷免するための裁判です。
裁判官(正確には裁判員)や訴追委員は、国会議員で構成されます。
ご存知の通り、憲法は立法権を国会に、行政権を内閣に、司法権を裁判所に与える権力分立制度を採用しています。
ところが、弾劾裁判は人を裁く司法権を、立法府たる国会の議員に与えています。
そのため、弾劾裁判は権力分立制度に対する例外だというわけです。

さて、この弾劾裁判所、どこにあるかと言いますと、国会議事堂の道を挟んだ真向かい、参議院第二別館の9Fに置かれています。
最寄りの駅は、永田町です。

一般的に、多数の傍聴希望が予測される裁判の傍聴には、整理券が配られ、その後に抽選で傍聴できる人を決めるのが習わしです。
今回もそうでした。
整理券配布は、午前11時30分〜45分。傍聴可能定員は38人です。
混んでしまって、整理券がもらえないと悲劇なので、少し早めに到着しておきます。
参院第二別館に11時10分頃着。
先に並んでいる人は、20人程度でした。

弾劾裁判は10年に一度程度しか見る事のできないもの(当たり前ですが・・・裁判官がバンバン犯罪を起こしたら、それこそモラルハザードです)なので、100人程度いることを覚悟していましたが、少なくて安心です。
結局、配布終了までに集まった傍聴希望者が、定員を下回ったため抽選無しで傍聴券をもらえました。

開廷時間は当初の予定では、13時。
ただ、昨今の政局の影響か、本会議の都合で一時間半ばかり開廷が遅れました。
国会が終わった直後に、裁判に参加ですから、議員の方々もご苦労なことです。

14時20分ごろ、法廷へ関係者が入って来ました。
裁判員に先だって、訴追委員(検察官のような役割を果たします)が入廷しました。
裁判員のメンバーについてはあらかじめチェックしていたのですが、訴追委員のメンバーについては未チェックでした。
入ってくる人々をみて、びっくり。
自民党最大級の派閥、津島派の領袖である津島雄二氏や、名古屋の名物議員、河村たかし氏など、錚々たる面々です。
彼らは、司法試験の受験経験があったりしますから、適任なのでしょう。

次に弁護人、続いて下山判事が入廷します。
下山判事を実物でみるのは初めてでしたが、なかなか堂々としています。
(彼は20年以上裁判官であっただけあって)風格があるというか。
ストーカー事件を起こしたとされる人ですから、もっと精神的に弱そうな人を想像していましたから、かなり思っていた感じとは異なりました。
追いつめられたからとはいえ、まがりなりにも自首しただけのことはあるのかも知れません。

とはいえ、そういった社会的地位も信頼もある人物が、罪を犯したからこそ弾劾の対象となっているのです。
私としても、批判的な心持ちを失う訳にも参りません。

さて、弁護・訴追側両者が入廷し、すこし時間が経ったところで裁判員14名が入廷します。
いよいよ開廷です。
私たち傍聴員や報道機関各社(30人程度いました)などを含め、すべての廷内の人々が起立して迎えます。
裁判長が、席を占めると一斉に一礼。
弾劾裁判所に対し、敬意を表します。

着席すると、判決言い渡しの前に3分間の撮影タイム。
テレビクルーやカメラマンが入って、法廷内を撮影していきます。
彼らとしても、通常の裁判所とは異なる弾劾裁判所の構造に、戸惑いつつも工夫をこらしていたようです。
なんでも弾劾裁判所の法廷は、旧最高裁判所(枢密院庁舎)の大法廷を参考にしたものだとか。

3分経つと廷史が促して、カメラなどの撮影陣を退廷させ、判決言い渡しが始まりました。
まずは、被訴追人たる下山判事が座っていた席から立ち、松田岩夫裁判長の前に来ます。

判決主文「被訴追人を罷免する」。
その言葉と共に、報道陣の空気が一変、半分ほどの人々がすぐさま法廷を出て行きました。
下山(この時点をもって、元判事)氏は、一度大きく頷きます。

通常裁判においては、主文の後の理由の言い渡しの間は、(言い渡しが長時間にわたるため)被告人を着席させます。
が、松田裁判長は一顧だにせず、理由の朗読をはじめました。
やはり、それだけ社会に与えた害悪が大きいと思われる事件だったのでしょう。
折しも、裁判員制度開始の準備中に、司法への信頼を損なってしまったわけですから。

理由の朗読が続きます。
まず、認定した事実と、その証拠について。
そして、認定した事実をもとにどのような法的構成に基づき判決を決定したかについて。
さすがに第一審にして最終審であるらしく、既存判例の維持や条文解釈の明示が次々に行われていきます。

法律上の構成としては、
1.裁判所法46条における失官の効果発生時の問題→平成13年判例を維持(刑事裁判に置いて禁錮以上の刑をうけた裁判官であっても、弾劾裁判なくしては失官しない)。

2.裁判官弾劾法2条2項「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」の解釈→本件事例へあてはめ→同条項に該当する→よって、罷免(2条本文)する。
といったものでした。

裁判長の言葉の一つ一つに事実を確定させ、法的拘束力をもたせる能力があると考えると、当事者ではない傍聴員の私でも、緊張し身がひきしまる思いでした。

こうして、30分程度で判決の言い渡しが終了します。
松田裁判長は、下山氏を見つめた後、一拍を置いて閉廷を宣言しました。
開廷の際とおなじく、全員が起立して礼をし、裁判員の退廷を見送ります。

そうして、裁判が終わりました。
下山氏はといいますと、判決言い渡し時と同じく起立したまま、佇んでいます。
訴追委員の面々が、目の前を通り過ぎるごとに深々と頭をたれていました。
訴追委員の人々は、無視するか軽く会釈するくらいなものでした。
ただ、河村たかし氏だけは立ち止まり、下山氏に一言、声をかけていました。
私の位置からは、いまいち聞き取れなかったのですが、耳が拾った感じですと「もう、するなよ」と言っていたように思います。
河村氏に声をかけられた、下山氏はハッとしたように頷いていました。


・・・以上、弾劾裁判のレポートでした。
私は、法学部生であることも手伝って、ときおり裁判の傍聴に行きます。
裁判に行くたびに痛感するのは、裁判を傍聴するという事も、一つの国民の権利であるということです。

裁判を傍聴する事で、法廷にも国民の目を持ち込む。
このことは、裁判官にとっても公平な判断を下す上で重要なことですし、
私たちにとっても、裁判の実態を知り、賞賛や批判といった感想を持つ事で、法律の世界への興味を持つ事ができます。
Win-Winの関係に立てますし、この権利はいくら行使しても義務を伴いません。

ぜひ、一度使ってみてはいかがでしょうか。
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by katukiemusubu | 2008-12-24 23:26 | 法律系 | Comments(2)
Commented by ほーむぶちょー at 2008-12-26 15:55 x
 こんにちは。

 私も12月24日に、この弾劾裁判を傍聴しました。冷たい風にさらされての傍聴券待ち、お互いがんばりましたね(^^;;)。

 詳細に、わかりやすく、当日の様子をまとめてくださり、ありがとうございます。

 私も、最後に河村議員が被訴追人に何と声を掛けていたのか、気になっていたところです。
 私は、「体に、気ぃ付けてな。」と言ったのではないかと、勝手に想像していましたが(笑)。

 自分の犯した罪の大きさゆえ自業自得ではありますが、クリスマス・イヴの日に全てを失うというのも哀しいものがありますね…。
 道のりは長くて険しいですが、しっかり罪を償って、再び赦される日が来ることを願っています。
 
Commented by katukiemusubu at 2008-12-26 18:37
>>ほーむぶちょー様

コメントありがとうございます。
24日は、本当にビル風が強くて大変でしたね(苦笑)。

河村議員の発言についてなのですが、私も半ば想像で補って書いています。
ただ、発言に対する下山氏の反応が、どちらかというと議員に感謝しているような感じでしたから、ほーむぶちょーさんの考えの方が、実際に近いかも知れません。

いままで弾劾裁判で罷免を下された6人の裁判官のうち、法曹資格の回復を赦されたのは、半分の3人です。
下山氏も報道陣に出したコメントの通り、しっかりと反省したうえで、これからの生活を全うしていって欲しいと思います。

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