ファイナルオーディオデザイン Piano Forte Ⅱ (FI-DC1550M1)レビュー

昨日発売されました、Final Audio Design社の新型イヤフォン、Piano ForteⅡことFI-DC1550M1を購入しましたので、所感を記しておきます。
ご参考までに、どうぞ。



ファイナルオーディオデザイン事務所は、日本のメーカーで、5千万円のオールホーン型スピーカー「opus 204」や、最高20万円のイヤホンシリーズ「DC-1601」で知られる、ハイエンドオーディオメーカーです。
最も安い価格の製品にしても1万円を下らない価格帯のイヤホンで、高級機の製造を主としておりました。

そのメーカーが、市場価格3,280円で投入した廉価版イヤホンが、今回のPiano Forte2です。
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箱はこのような具合で、端正にまとまっています。
BGMとしてでなく「音楽と対峙して聴く大人と演奏家のためのイヤホン」、という煽り文句もなかなかに格好よろしい。
購入色はご覧のとおり、ブラウンです。
この他、黒の筐体にブルーの金属板が張られたブラックがあります。

製品生産国はフィリピン。
まぁ、このメーカーは中堅機DC-1350イヤホンもフィリピンで生産していますし、精度的な面で信頼できる工場があちらにあるのでしょう。
SONYのインドネシア・マレーシア工場みたいなものでしょうか。

さて、ピアノフォルテⅡです。
このイヤホン、ホーンスピーカーの理論を応用したものだと報知されています。
ホーンスピーカーとは何か。
ホーン型スピーカーとは、大きくフロントロードホーン型とバックロードホーン型の二つに分かれますが、ごく単純にいえば、スピーカーの振動板に管をつけることで音を増幅させる方式のスピーカーの事を言います。
通常のスピーカーは、ダイナミック式であれエレクトロスタティック方式であれ、振動板(膜)が揺れることで、周辺の空気を押出し、音を出力します。
これに対して、ホーン型は、振動板の前または後ろにホルンのような管を取り付けることで、振動板の揺れ+管によって増幅された空気振動を出力します。

この利点は何かといいますと、まず単純に能率が上るということです。
振動板の揺れを管で増幅させるために、いままで1の入力で1の出力しか得られなかったものを、1.5~2の出力に増加させることができます。
CDプレーヤーやアンプなどの入力機器の力がそこまで無くとも、手軽に大音量が得られるのです。
ですから、この方式は高出力を得にくい真空管アンプの時代に全盛を迎えました。

また、ホルンをイメージしていただければ分かるように、特に中低音域の音が量感豊かになり、メリハリのある音となります。
やりすぎると所謂、ドンシャリ(低音の存在感が強すぎて全体としてのバランスを欠いた)音になりかねませんが、その匙加減はエンジニアの腕の見せ所です。

さらにはドライバーユニット(振動板とこれを駆動させる磁石)の性能を十二分に引き出すことができ、ユニットの個性に応じた音が楽しまます。
ユニットを良い物にすればする程、良い音がでるということですね。

ただ、欠点も当然に御座いまして、その最大のものが、開発・製造費用がかかりすぎるという点です。
特に後ろに管を配置するバックロードホーン型は、管を長大なものにしなければならず、管の長さは最大3mにもおよびました。
身体の中にある腸をイメージしていただくと分かりやすいのですが、あの様な具合に管をスピーカー筐体内に折り込むのです。(B&W エンファシスの如きむき出しのものも有りますが)
当然加工に手間がかかるし、楽器製造なみの精密さが要求されます。
つまり、ホーン型スピーカーというのは、コストがかかり過ぎ大量生産には向かないのです。
そのため、現在、ホーン型スピーカーをつくるメーカーは、一部の高級機メーカーに限られています。(一部、オーディオテクニカ AT-SP30BLHなどの例外有)

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本機、ピアノフォルテ2(FI-DC1550)はそのホーン型を応用したと言っています。
どういう事でしょうか。
その答えは、上の写真にあります。
筐体に沿って規則的に穴が開けられていることが見受けられるかと思います。
この「穴」に秘密があるのです。
どんなイヤホンであれ、前に音を出すための穴があるのは当然ですが、後ろに穴があるものはそんなに存在しません。
これは何かといいますと、空気圧を調整するための穴なんですね。

イヤホンは狭い筐体の中で、振動板が揺れることで音を出します。
しかし、振動板にかかる圧力は巨大なもので、必然として振動板には負荷がかかります。
とくに、通常のイヤホンは片側にのみ穴が空いているので、かかる負荷には片寄りが出ます。
そうしますと振動板は当然に歪みます。板が歪みますと、当然に音にもまた歪みが出ます。
ところが、前後に穴を開ければどうでしょう。
振動板の前後共に空気の循環が起こることになり、筐体内の空気圧が均等に保たれるようになります。
そうしますと、妙な歪み(片寄り)がなくなり、ドライバーユニット本来の音を出力することが可能になります。

他社でも、この類の歪み低減は行われていますが、それはドライバーユニットへの改造という形で行われるのが多いのが実情です。(例えば、ガスケットの設置)
ファイナルオーディオ社としては、ホーン型の経験から、空気そのものを操ることで、振動板への負荷を取り除こうとしたのでしょう。

2010/12/18追記
「ヘッドフォンブック2011」によりますと、ホーン型技術を応用しているのは、空気穴だけではなく、ドライバーユニットに施されたプレッシャーリングもであるとのことでした。
プレッシャーリングの詳細は特許出願中のため、不明との事ですが、同ムックのp.135の図、FI-DC1601の説明を見ますと、空気穴と相乗して、振動板の歪みを防ぐものの様です。

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その事もあってか、非常に能率のよいのが本機です。
感度は実に108db(インピーダンス16Ω)にも達します。
そのため、初めの出力時は、音量を最小まで絞ってそれから上げていくほうが、耳にやさしい事でしょう。

肝心要の音質ですが、一言でいえば面白い。
ファイナルオーディオ社のDC-1601シリーズは以前、試聴会へ出かけて聞いたことがあるのですが、大変響きに優れたイヤホンだったという印象があります。
本機ピアノフォルテⅡ/DC-1550M1は、この性質を受け継ぎ、響きに優れたイヤホンです。
「響きに優れた」とはどういうことか。
それは、音の定位に優れていると言い換えても良いかも知れません。
ライブ音源での楽器の配置、DTM音源でのエフェクトのかかり具合、製作者の意図した音場に近しいものが感じ取られます。

イヤホン内ではBA(バランスド・アーマチュア)方式を存分に活かした解像度の高いもの(例えば、ER-4)、DC(ダイナミック)方式を活かした低音域の量感に優れたもの(例えば、Audio-Technica Solid bass)、などは有りますが、ここまで音場に気を使ったイヤホンも珍しいでしょう。

流石に、解像感はそこまで良いものではなく、ピアノの曲を再生して打鍵感まで伝わってくるかというと、そうではありません。
ですが、教会におけるオルガンコンサートの上から振り落ちてくるような音の共鳴、ふわりと消えていくリバーブは見事に再生されます。音の定位が良いため、立体的というか、ステレオ感が豊かなのです。
また、流石に15.5mm大口径ユニットだけあって、全音域に渡って余裕があり、低音も高音も詰まっている感じがしません。おそらく、このあたりも本機特有の音場感の源でしょう。
特にドライバーユニットの余裕は、大編成の曲を聞いていると良く感じ取れます。非常に見通しが良い音です。

ホーン型スピーカーは、設置に気を使いますし、管によって音を増幅させるため、部屋の大きさにもシビアに左右されます。そのため、ホーン型をつくるメーカーは何よりも「空気」に意識を向けてきました。その「空気を操る」技術が見事に生かされたのが、本機をはじめとしたFAD社のイヤホン群といえましょう。

イヤホンが操るべき「空気」とは耳孔内の空気です。耳孔内ならば、部屋と違って空気の量も個人差が殆どありません。ならば、ホーン型で培った「空気を操る」技術を惜しみなく継ぎ込めるし、コストを下げられ量産も可能になる。そうして量産を行った結果、ついに民生的な価格帯のPiano ForteⅡにまで到達した。個人的には、本機がでた所以をそう想像しています。

本機の音色についてですが、色付けが少なく、しかしほのかに艷めいた印象をうけます。弦楽器などとは非常に相性がよろしい。一番近い音を出すイヤホンはSONY MDR-E888だと思うのですが、本機が実売3,280円に対して、E888は実売8,000円くらいです。E888のが解像度の点で一歩先んじてるとは思いますが、それでもピアノフォルテⅡの音場は魅力的です。というよりも、本機の如き広い音場を持ったイヤホンは、4桁円の価格帯では出会ったことがありません。本機は、非常にお買い得なモデルと言えましょう。

20万のイヤホンはちょっと・・・と思っても本機ならば手が出せます。
いわば本機は「ファイナルオーディオ DCコンセプト」とでも称すべきイヤホンでした。
つくりもしっかりしていて、長く付き合えるイヤホンだと思います。

それでは、また。

追記その1:ヘッドフォンブック付録のPIANO FORTEと製品版のPIANO FORTE Ⅱ との比較レビューをUPしました。よろしければ、こちらもどうぞ。

追記その2:PianoForteシリーズの上位機種・PianoForteⅨ(市場価格10万円)のレビューも書いております。当機との比較も御座いますので、ご興味有りましたらご覧下さい。

関連記事:ファイナルオーディオデザイン Piano Forteが雑誌付録に?
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by katukiemusubu | 2010-12-04 10:36 | Piano Forteシリーズ | Comments(0)
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