Final Audio Design社より、同社のハイエンドイヤホンシリーズ、Piano Forte Ⅹ-Ⅷの一つ、Piano Forte Ⅸ(FI-DC1602SS)をいただきました。
本日、商品が到着しましたので所感なぞ、記しておきたいと思います。 当ブログにおいてご紹介するファイナルオーディオデザイン社のイヤフォンは、これで、3つ目となります。2010年12月3日発売のPiano ForteⅡ、同年12月14日発売の「ヘッドフォンブック2011」に付属したPiano Forte(無印)、そして本機、2011年4月22日発売のPiano ForteⅨです。 ピアノフォルテとは、楽器のピアノの本来の名前です。打弦楽器としてのピアノは、1709年イタリアのクリストフォーリにより発明されました。この楽器は他の楽器に比しても、弱い音(=ピアノ)から強い音(=フォルテ)まで、圧倒的に広い音域をカヴァーすることができ、それが故に、Clavicembalo col piano e forte(強い音から弱い音まで出せるチェンバロ)、チェンバロを省略してピアノフォルテと呼ばれたのです。現在では、これを更に略してピアノと呼ぶのが主流ですが、機能からすればピアノフォルテの方が正確な呼び名と言えましょう。 斯くの如き由縁をもつPiano Forteの名を与えられたイヤホンは、如何なる音を奏できたでしょうか。Piano Forte2は、価格帯を飛び越えた広い音場と艷めきを持った中域の音色でもって、市場に一石を投じました。Piano Forte(無印)は高域と低域の充実でもって瑞々しい音を提供し、ファイナルオーディオの追求するダイナミック型イヤホンの可能性の一つを見せてくれました。 オーディオの世界、その中でも、同社の追求する「ポータブルオーディオにおけるホーン型スピーカーの実現」は、そのコンセプト、機器の特異な形状、イヤホンの常識を超越した価格設定などで大きな光芒を放ち、時に批判され、時に熱烈な支持を集めて来ました。 初号機FI-DC1601シリーズの投入から、1年7ヶ月。同社が再び投入するフラグシップイヤホンFI-DC1602シリーズ(Piano Forte Ⅹ-Ⅷ)は、さらなる高みに達するのか。今回のレビューは一回完結でなく、複数回でお送りします。 初回となる今回は外観を主に、見ていくことにします。 縦20cm、横11cm、高さ7cmの箱はスリーブと丈夫な被せ貼箱で構成され、被せ貼箱には、銀の箔押しで製造社名「final audio design」が記されています。流石は市場価格¥98,000、しっかりとした作りです。 スリーブの表紙には商品名「PIANO FORTE Ⅸ」に続いて、「hi-fi audio earphone」の文字が。この辺りはPianoForte2とも共通していますが、15.5mmだった同機よりも更に大型化した16mm超大口径振動板を反映してか、「large driver system」の文字が配置され、ステンレス金属切削筐体を指し示す「shaved stainless steel」も追加されています。 スリーブの裏にはPiano Forte Ⅸの特徴が五つのポイントと共に提示され、性能諸元も記されています。Piano ForteⅡとは異なり生産国表示はありませんが、どこなのでしょうか、気になる処です。 ※2011.8.7追記 音楽出版社「ヘッドフォンブック2011 Summer」によりますと筐体製造は日本で行われています。 アセンブリー(最終組み立て)が何処で行われるかは分かりませんが、わざわざ組み立てだけ海外でやるとも思えず、 まず日本製と考えて問題ないかと思われます。 諸元を見ますと、108db(インピーダンス16Ω)と非常に能率の良い数値です。重量はイヤホンにしてはずっしりとした38g。とはいえ、ヘッドホンでしたら300g超もざらに有りますから、取り立てて重い!とか言ったものではありません。 むしろこの重量で気になるのは、断線の問題ですが、これについてはFAD社が3年の断線保証をしていますので、そこまで神経質になる必要はないでしょう。 中を開きますと、「final」の文字で装飾された厚紙の間に、銀のステンレス筐体が鎮座しています。光沢の具合も、マット過ぎず、かといって輝き過ぎるのでもなく、適度な具合です。本機は金属を磨き出して鏡面仕上げにしているそうですが、そのせいか品のある色合いになっています。 内容品は、本体、保証書の他、キャリングケースがあります。キャリングケースにも「final」の金属プレートが奢られ所有の満足感がある仕上がりです。 外観について、本機を含むDC-1602シリーズは、イヤーパッドまで金属から削り出し、筐体と組み合わせる一体切削加工を採用しています。そこで採用されている金属は真鍮、ステンレス、クロム銅ですが、この金属筐体、特にステンレスには如何なる利点があるのでしょうか。 ステンレスとは合金の一つで、その名の通り、stain-less(錆び-ない)steel(鋼鉄)です。ステンレスは、鉄とクロム、或いはそれに加えてニッケルを掛けあわせて製造するのが一般的ですが、この掛けあわせにより、ステンレスは不動態皮膜という、一種のコーティングを得る事になります。この不動態皮膜、非常に優れたコーティングでして、もし何らかの事情で膜が剥がれても、空気中の酸素に触れることで自動的に再生する機能を有しています。こうして、ステンレスは単に錆びないだけでなく、耐熱や強度にも優れた素材になりました。 強度に優れたというのは、大きなポイントです。オーディオ機器において大敵の一つが、筐体の不要振動、つまり共振現象ですが、筐体が強ければ強いほど、これを抑制することが出来ます。すると、音に妙な負荷がかかることがなくなり、振動板が奏でる空気振動そのものを楽しめる様になります。 理論的には、筐体に重く強い金属を用いれば用いるほど、素直な音が楽しめると言えましょう。でも、現実には、ピュアオーディオの世界はともかく、ハイエンドポータブルオーディオの世界では、金属筐体が登場することは殆ど有りませんでした。考えても見てください、全てが金属のヘッドフォンがあったらどうでしょう?重くて付けられたものでは有りません。しかも、耳あてには金属以外の素材を使わざるを得ず、それらの不要共振を取り除くべく配慮しなくてはなりません。 そこでオーディオ各社は、趣向をこらし、木のハウジングだったり、チタンのハウジングだったり、筐体全体ではなく一部であるハウジング(ドライバーユニットの固定側)に注力することで、重量を軽減しつつ、筐体の制動を実現させようとしました。 しかし、ヘッドホンなら無理でも、イヤホンならどうでしょう。これならば金属筐体を実現できるのではないか。そんなブレイクスルーを考える人々が現れました。他ならぬファイナルオーディオ社です。 同社は800kg/1chのステンレス筐体スピーカー、「opus 204」を製造しており、金属加工にも手馴れておりました。そこで、その技術を応用して、金属筐体を採用したFI-DC1601シリーズを市場に投入しました。但し、FI-DC1601もまた、金属以外のイヤーピースを接続する余地を残した筐体であり、完全には不要共振から無縁ではいられませんでした。 それから1年と半年あまり。FI-DC1602シリーズはイヤーパッドを含め、筐体を一体化して金属にすることを成し遂げ、これをもって不要共振を消滅させることを企図している様に思えます。特にステンレスの場合、不動態皮膜があるため、表面の状態が一定に保たれ、よりリニアな特性が期待できることでしょう。 こういった経緯から考えると、Piano ForteⅨの音は、音色を忠実に再現する原音再生型だといえます。 現在、聞き始めて3時間ほどですが、その性質が感じ取れる音色です。 脚色なく、しかし乾いた音でもなく、うっすらと紅をさした様な色気のある音、まだまだ発展途上でしょうが、これからが楽しみな第一声です。 関連リンク: 第一弾レビュー【外観編】(本頁) 第二弾レビュー【ダイナミック型と音の制動編】 第三弾レビュー【対決! ピアノフォルテ編】
by katukiemusubu
| 2011-05-24 00:30
| Piano Forteシリーズ
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