二つの有機EL搭載HMD、Cinemizer OLEDとHMZ-T1

パーソナル3DビューワーHMZ-T1の発売まで、一ヶ月を切りました。
各量販店でも現在の注文では年内に手に入れるのも難しいという事で、HMD市場も久々に賑やかになってきたようです。
さて、そんなHMZーT1ですが、遠く欧州の地から競合相手が登場しそうな見込みになりました。
その名は Cinemizer 3D plus OLED(シネマイザー スリーディープラス オーガニック-エレクトロルミネッセンス)。ドイツ、カールツァイス社の新製品です。
※記事作成時以降の情報については「→修正」という表記を付して、随時更新しています。




Cinemizer 3Dplus OLED(以下、Cinimizer OLED)は2011年1月、試作品がCES(コンシュマー・エレクトロニクス・ショー、アメリカ最大の家電見本市)にて公開され、米州での2011年12月発売をアナウンスされている製品です。
発売予定がずれ込んでいます。→2012年3月発表:2012年5月発売予定→2012年6月発表:2012年7月発売開始予定
カールツァイス側でも流石に遅れを認識しているらしく、予約ページに、
"Thank you for your trust that we will not disappoint."(意訳:見捨てないでくれて有難う)という表記がなされています。
OLEDの名の通り、本製品も有機ELパネルを搭載し、3D方式に対応したヘッドマウントディスプレイになっています。
解像度はHMZ-T1とこれまた同じく1280×720ピクセル。720pのハイビジョン画質を実現しています。
→修正:ハイビジョンの動画入力にも対応しておりますが、解像度はHMZ-T1の半分程度870×570ピクセルです。

ただ、この製品はカールツァイス本国の公式サイトを見てみても情報が出ておらず、一部のストリーミング動画サイトに試作機のムービーが出ているのが現状の様です。
→修正: 公式サイトが公開されました。
アメリカ、ドイツ、日本何れの通販サイトでもCinemizer OLEDの注文は受け付けておらず、逆に2011年11月発売のHMZ-T1が9月頃から予約を受け付ていたことに比すると、2011年12月発売は難しいのかも知れません。
但し、開発は続いているらしく、マーケティング会社GfKとCarl Zeiss共同のアンケートサイトがオープンしています。※英語サイトです。
このアンケートをやってみますと、Cinemizer OLEDの現状とスペックが分かってきましたので、これを訳しつつHMZ-T1との比較を行いたいと思います。
以下、橙字部分はアンケートサイトの文章を翻訳した箇所です。
ところどころ意訳をしていますが、誤訳御免という事で願います。

”私達は、みなさまに新製品の情報及び写真を示したく思います。
光学・電気光学で知られるドイツZEISS社は、「CinemizerOLED」と呼ばれる新製品を発売予定です。
この製品はカールツァイス社が昨年発売致しましたヘッドマウントディスプレイ「Cinemizerplus」の次世代機となっております。
本機は、ゲームをし、ビデオ、映画を見るために設計されたマルチメディアのビデオ・アイウエアです。
本製品が実現するのは2m先にある45インチの仮想ディスプレイ。
あなた専用のシネマであるかのような、没入感のある経験を提供することでしょう。
さらに、3Dゲーム、3D映画にも対応しております。
言うなれば、Cinemizerはあなた個人のポータブル3Dスクリーンなのです。”


原文:
We would like to show you some descriptions and pictures of a new product and would very much welcome your opinion on it.
 The optical and electro-optical German company ZEISS intends to launch a new product which is called "CinemizerOLED" - the follower of the "Cinemizerplus".
It is a multimedia video eyewear designed for playing games and watching videos.
It creates an immersive viewing experience, like sitting in your private cinema.
 Imagine a virtual 45-inch screen in 2 meters (6 feet) distance.
With this video eyewear you can even play 3D games and watch 3D movies.
In a nutshell, the Cinemizer is your personal portable 3D screen.

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実機を体験したわけではないので有機ELの画質については分かりませんが、
少なくともCinemizer OLEDはスペックの上では、HMZ-T1と同格のハイビジョン解像度を実現しています。
綺麗かどうかはともかく、精細さの点で変わりはない様です。
→修正:HMZ-T1の半分程度の精細感になると考えられます。
さらに3Dの方式についても、HMZ-T1と同様のデュアルパネル3D方式(カールツァイス社はステレオ3D方式と呼称しています)を採用し、クロストークなどの問題を解消、違和感無い3D体験を実現していると思われます。

次に両者の相違点ですが、まずはCinemizerが優越しているポイントから参りましょう。
本機は、上にもありましたように「ポータブルな」3Dディスプレイです。
つまりはバッテリー駆動が出来るのです。バッテリーの駆動可能時間は8時間とアナウンスされています。
一方、HMZ-T1は据え置き使用を前提としており、バッテリー駆動はできません。
接続端子についても、テレビ・PS3などの接続を前提としたHDMI端子を備えていますが、iPhoneその他の携帯機器との接続は想定されず、コンポジットやVGA端子は省かれています。
しかし、HDMIに加え、コンポジット端子・VGA端子を備えたCinemizerはiPhoneや旧世代のパソコンとの接続も可能です。
つまりはHMZ-T1に比べ使い道が広くなります。
またポータブル用途を想定して、cinemizerはバッテリーに加え、ヘッドホンの点でもHMZ-T1と異なります。
HMZ-T1がオープン型ヘッドホンを搭載しているのに対して、Cinemizer OLEDの搭載するのはカナル型イヤホンです。カナル型は耳栓のような形状をしており、遮音性に優れ、何を試聴しているのか他の人には気付かれない他、電車内などで使用しても周りの迷惑になりません。また、イヤホン出力端子があり、他のヘッドホンを使うことも出来ます。
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加えて、Cinemizerは"One fits all"を謳い、イヤホン、ノーズパッドの調整機構のみならずピント調整機構を備えています。ピント調整機能は7段階の度数調整が可能とのことで、眼鏡着用者も眼鏡なしでヘッドマウントディスプレイをつけることが可能になります。
装着にヘッドバンドを必要とせず、眼鏡型ですので、恐らくはHMZ-T1よりも軽量であることが伺えます。
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更にアンケートサイトには表記がなく未確定情報ですが、ヘッドトラッキング機能にも対応している可能性が御座います。
ヘッドトラッキングとは機器の中にジャイロを搭載し、頭の向きに合わせた映像、音を提供する機能です。もしこれが搭載されるとしたらFPSやレーシングなどのゲームをなさる方の没入感は、文字通り目に見えて変わってくることでしょう。

こうしてみるとCinemizerはHMZ-T1を圧倒しているようにも思えます。後発ならではの強みでしょうか。
しかし、HMZ-T1にも利点はあります。今度はHMZ-T1の優越する部分について述べてみましょう。
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まず装着面についてです。弱視者についてもCinemizerは眼鏡を必要としませんが、HMZ-T1は眼鏡着用を要求します。これは欠点にも感じられますがしかし、大振りな筐体によって大概の眼鏡でしたら筐体と干渉することなく視聴できるでしょうから、さしたる問題は生じません。またヘッドバンドをつかった装着は安定感と重量分散に役立ちます。
音質面においても、HMZ-T1の搭載するヘッドホンはただのヘッドホンではありません。5.1chバーチャルサラウンドを実現するサラウンドヘッドホンです。これにより前後左右から迫る音響を立体的に認識できるようになり、映像への没入感が促進されることでしょう。
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しかし、何よりも重要なポイントは仮想画面サイズの差と言えましょう。先日のエントリにも書きましたが、ヘッドマウントディスプレイは小さいパネルを光学レンズで拡大することで、脳に錯覚を起こし、本当は小さいはずの画面を大画面であると認識させる点にその醍醐味があります。
そこで肝心のファクターとなるのが、「視野角」です。
分かりやすい例を挙げましょう。現在この記事をご覧になっているディスプレイの両端に向けて両腕を伸ばしてみてください。ノートパソコンであれば、身体の向きと同じく真っ直ぐか、少し外側に広がる程度でしょう。一方、デスクトップパソコンの大画面でご覧の方は、かなり大きく外側に広がったはずです。
大雑把な言い方になりますが、この両腕と身体が創りだす角度が視野角です。
身体の向きと変化が少なければ少ないほど狭い角度、大きければ大きいほど広い角度となります。カメラをやっていらっしゃる方ならば狭角レンズ、広角レンズの差をイメージしていただければ結構です。
この角度がどれだけ視界一杯に画面が広がるかを指し示す指標となります。

では、手始めにCinemizerOLEDの謳う「2m離れた先にある45インチの画面」を想像してみましょう。・・・思った以上に狭い角度であることが実感され、驚かれたのではないかと思います。本来、肉眼の視界はもっと広いはずです。
視野を狭く限定されると、脳は違和感を感じ、映像を大きく認識するどころか、遠く・小さく感じてしまいます。
これはCinemizerのみならず、これまで発売された殆どのヘッドマウントディスプレイに共通するものでした。
SONYのグラストロン(2m先に52型)、オリンパスのアイトレック(2m先に52インチ)、いずれもその問題を抱えていました。
顔の左右に本を当てていただき内側に狭めてもらえば実感されるとおもうのですが、狭められた視界では遠く・小さく見える事に加え、視界上に映るものに焦点をあてるだけでも一苦労です。
ですから、従来の殆どのHMDは滲みやすいものでした。字幕を読むのも大変です。

これらの問題点を解決するにはどうしたら良いか。視野角を広げ、視界を肉眼同様にするのが最善の方策でした。先程の顔の両方に本をあてる例で言いますと、さっきとは逆に本を大きく外側へ広げると違和感ない視野になっていると思います。こういう事です。
人間の有効視界は200度程度ありますが、このうち集中してみられる実効視界は40~45度と言われています。これを実現できれば良いのです。
そのためには、周到で完成された拡大用の道具、光学レンズが必要となります。コニカミノルタのカメラ部門を買収しカメラメーカー(光学系企業)としても勢いに乗るソニーには格好の舞台だったといえましょう。
SONYがHMZ-T1で実現したのは「20m離れた先にある750インチの画面」、視野角45度の世界です。
まさに映画館の中で画面の両端に両腕を伸ばしたのと同じような視野角、視界で映像を見ることが可能になりました。
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HMZ-T1が発表された8月、その謳い文句に、いままでのヘッドマウントディスプレイとは異なる「20m」の記載があって、怪訝に思われた方もいらっしゃったと思います。特にいままでHMDを使ってきた方ならばなおさらです。
「今までのHMDは軒並み、5m先の画面、2m先の画面などと言っていたのに、20m先の画面とは突然、何事だろう?」と。
その理由こそが視野角なのです。2m先の45インチ、5m先の60インチ、何れでも構いませんが、どれも両腕を伸ばして視野角を図ってみるとその狭さが実感されると思います。
視野角45度とは35mmカメラ換算で焦点距離50mmのレンズ、もっとも肉眼に近しい遠近感を実現する角度です。いままでのヘッドマウントディスプレイは狭い視野角で、言い換えれば望遠鏡で小さな画面を覗き込むように映像を見ていました。だからこそ脳も遠近感に違和感を生じ、謳い文句どおりの画面を認識できはしませんでした。
しかし、HMZ-T1はこれを変えました。肉眼に近しい視野角を保ったまま画面を拡大できたことで初めて、ヘッドマウントディスプレイは謳い文句に違わない仮想画面サイズを実現できるようになったのです。

そこでCinemizerOLEDとHMZ-T1の役割分担が見えてきます。
Cinemizer OLEDは画角についてはともかく、違和感ない3D体験を持ち歩けるという点でHMZ-T1に優越します。そこで同機の役割はポータブル3Dビューワー、「持ち歩ける3D体験」という点にあるでしょう。
一方、HMZ-T1は画角においてCinemizerを圧倒し、また音質面での優位性も存在します。そこで、HMZ-T1の役割は腰を据えて没入できる「個人用映画館(3D対応)」という点にあると言えます。
どちらもそれぞれの点で魅力的ですので、持ち歩きを優先するのか、画面の大きさや音響を優先するのか、個々人の趣向にあわせてお選びになると宜しいかと思います。

なお、Cinemizer OLEDの価格ですが、CESの時点では515ドルとのアナウンスがあった様です。
しかしアンケートページは400~800ドルの枠内で「どの価格なら欲しいか」を尋ねており、まだ確定した価格情報は上がっていない様子です。
アメリカでHMZ-T1が650〜800ドルで有ることを考えると、これより少し下回った価格で出てきそうですね。
以上、ご検討の参考になれば幸いです。

2012年3月12日追記:
2012年3月6日よりOneButtonにて予約が始まりました。
価格は649ユーロ。現行為替で70,480円、HMZ-T1のソニーストア価格(59.800円)より1万円程高い価格設定です。
解像度は870×500ピクセル。精細さの点ではHMZ-T1(ピクセル数2.1倍)やモベリオ(ピクセル数1.2倍)に分があります。
ただし、付属のバッテリー兼アダプターにより720pや1080pの動画入力にも対応しているとのことです。
バッテリー寿命は6時間。充電時間は2.5時間です。持ち歩くには必要十分のスペックと言えましょう。
仮想画面サイズは2m先の40インチ。発表時より視野角が狭くなっています。
重量は120gと、MOVERIO BT-100(240g)の半分、HMZ-T1(420g)の3分の1と圧倒的な軽さです。
モニター解像度と、発表時より狭まった視野角は残念ですが、外部接続端子も備えており、
初の3D対応ポータブル有機ELHMDということで、やはり魅力的な機器かと思います。


※本記事の作成にあたり、Cinemizer OLEDの画像はGfKのアンケート頁から、HMZ-T1の画像はソニーの製品情報頁からの引用をさせていただきました。
※2011年11月にセイコーエプソン社より透過型HMD、Moverio BT-100が発表されました。モベリオのレビューはこちら
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by katukiemusubu | 2011-10-22 13:56 | ヘッドマウントディスプレイ | Comments(0)
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