ATH-W3000ANVの実力の程は如何? 秋のヘッドホン祭2011雑感

10月29日、フジヤエービック主催のヘッドホン祭りへ行って参りました。
残念ながら到着は15時を過ぎておりましたので特売には参加できませんでしたが、その代わり、ヘッドホンの試聴とヘッドホンアンプの視聴に時間を費やせましたので、感想を記しておこうと思います。
まずは、ATH-W2002とATH-W3000ANVの比較レビューです。
(10月30日にATH-W5000、AH-D7000との比較を加筆しました)



16時頃、オーディオテクニカブースに到着。
同社の50周年記念モデル、ATH-W3000ANVが目的です。
W3000は、越前漆仕上げのアサダ桜心材をハウジングにした美しい筐体のモデルで、同様のハウジングをもった40周年記念のモデル、W2002とスペックも似通っています。
53mmの振動板然り、パーメンジュールを使用した高磁束密度の磁気回路然り、剛性のあるマグネシウムフレーム然り。
一方、変化のある点も存在します。
ケーブルにおいては、純銀線とHi-OFC(無酸素銅)のハイブリッド構造を採用したW2002に対し、無酸素銅のみとなったW3000。
ボイスコイルについて両機共に無酸素銅線を用いますが、その精度はW2002のOFC8N(精度99.9999997%)に対し、W3000ANVは一段下がるOFC-7N。
ヘッドホンは電気信号を振動に変換して音を出力する機械です。その電気を伝えるケーブルやボイスコイルの線材の品質は、そのまま音の精度にかかってきます。
有り体に言ってしまうと、カタログスペックとしてのATH-W3000ANVは、再生可能な周波数帯域が2KHz(5Hz~40KHzから、5Hz-42KHzへ)広がった他は、全ての点でATH-W2002に見劣りするものでした。

では、実際の音はどうなのか。10年間の技術進化はカタログスペックを凌駕出来るのか。
それを検証するため、今回はW2002を持ってヘッドホン祭へ行きました。
ヘッドホン祭でアタッシュケース片手にブースを巡っている者をお見かけになったら、私やも知れません。
オーディオテクニカブースの技術者さんが協力下さり、
全く同じCDを用い、全く同じアンプ(オーディオテクニカAT-HA5000ANV)の2つあるヘッドホン出力から、同時に音を出して、比較することが出来ました。
使用楽曲は三澤秋「夏花の影送り」よりring hollow。女性ボーカルの独唱、ピアノ、ドラム、電子音、弦楽器の旋律を堪能できます。
先にW2002で一回し聴かせてもらい、そのまま巻き戻してW3000で聴きました。

W2002は美音系として知られるヘッドフォンですが、その通り、ボーカルや弦楽器の領域となる高・中音域に一種特有の艶(これは何と表現したら良いのか分からないのですが、音の粒を磨き挙げたようなクリアさです)をのせて、低音域を従えつつ音を出力します。
低音は決して出ない訳ではないのですが、少々立ち上がりが遅い嫌いがありました。ただ、この遅い低音=バックグラウンドで響く低音が、高音・中音の透き通る美しさを際立たせており、W2002特有の音色を支えていたのも事実です。
ring hollowではボーカルが前に出て、弦楽器・ピアノが傍を支え、ドラムと電子音が周囲を綺羅星のように散りばめた音場が展開されました。
音場はあまり広がる訳ではありませんが、耳元を中心に円を描く様に濃密な音空間が展開される具合です。

W3000はこれと似た音色かと言うと、かなり異なります。
まず、低音の立ち上がりが早い。特にドラムでは制動力の差が音色の生々しさに直結しますので、その差が如実に見えてきます。お陰でカタログスペック以上に低音のレンジ感があるように感じました。
一方、中音域ですがこれもかなり異なります。W2002にあった独特の艶は少なくなり、代わりに解像感のある音が提供されます。高音域も似たような傾向。付帯音が少なく、中音域と低音域の一部に少しピークを感じさせつつも、全帯域に渡ってクセのない音の出方です。
モニター的とでも言うのか、音の分離もはっきりしており、濁音を発する時の口を窄める具合などよく描写されておりました。見通しも良く、W2002よりも広い音場を持っているのはまず間違い有りません。一瞬、オープン型ヘッドホンだったかと勘違いする程でした。
オーディオテクニカの音場は比較的狭いと言われていますが、W3000はそれをある程度解決したように見受けられます。

試聴後に、スタッフの方にお話を伺うと、W2002とW3000ANVの大きな違いはドライバーユニットの磁気回路にあり、駆動系たるパーメンジュール、ネオジム磁石それぞれについて見直しを加え、W2002より強力な制動力を得ることに成功したとの事でした。もちろん磁気回路と同じくドライバーユニットの主役となる53mm振動板もW2002の時とは異なるものを採用し、磁気回路とあいまって、音の分離をしっかりと実現する仕様となっているそうです。

音の立ち上がりが早く、広い音場を持ち、分離・解像感に優れるW3000。
耳元に凝縮された音場に、独特の美音を満たす、W2002。
W2002はその性質上ボーカルや管弦楽には無類の魅力を持ちますが、逆にどんな音源も美音に磨き上げてしまう、音響変換器的な側面があり、これが音楽の種類によっては欠点に代わってしまいます。
一方、W3000はその分離の良さをもって、音楽の粗も良さも如実に表現できる性質を有し、どんな音楽にも対応できるバイタリティプレーヤーだと思われます。また密閉型としては広い音場を持っているため、開放感ある音響が楽しめる点でも魅力的です。

カタログスペックは変わらなくても、これだけの変化があるとは驚きでした。
とはいえ、W2002を手放すとかそういう音の傾向ではなく、2008年のATH-A2000X発売以来、「オーディオテクニカXシリーズ」の目指してきた「壮大な自然音の再生」(W1000Xの謳い文句)の系譜に連なる音作りで、歩み続けるAudio Technicaの精神を感じさせる出来栄えのヘッドホンでした。
W3000ANVは2000台限定とのことですが、検討してみても良いかも知れません。

10月30日追記:
ところで、ATH-W3000ANV、従来のフラッグシップATH-W5000との関係が気になる向きもあろうかと思います。
私もその点は気にかかっておりまして、対応して下さったスタッフの方にATH-W3000の位置付けを訊いて見ました。
スタッフの方曰く、「ATH-W3000は旗艦としてのモデルでは無く、あくまでアニバーサリーモデルです。しかし、W5000の発売から6年が経ち、その間に蓄積した技術はW3000に盛り込んでいます」との事でした。
その間に蓄積した技術とは何か、やはり磁気回路の事なのだろうか。
どうにも気にかかりW2002とW3000の比較試聴を終えてから暫くした後、今度はW5000の視聴をさせてもらいました。
W2002との比較とは異なり、今度は同じマランツのCDプレーヤーからAT-HA5000(ANVの兄弟機)を通じての視聴になりました。曲は先ほどと同じく、三澤秋「ring hollow」です。
W5000は黒檀という大変硬い素材をハウジングに用いており、素材が生む歯切れのよい高音が魅力的な機種です。
この機種も磁気回路にパーメンジュール+ネオジム磁石を用いており、大変強い磁束密度を誇ります。
このハウジングと磁気回路の相乗によって生まれる音色は、バランスが良くとれており、時折高音の強調(サ行が刺さるとでも言いますか)が有るものの、全帯域に渡って平滑、音の分離、解像感にも優れたヘッドホンになっています。
流石に女性ボーカルが歌い上げるときの声の振幅や、伸び行く高音の表現などはW3000の追随を許すものではなく、解像感の点でも、W3000より少し上の印象を感じます。特に音場の彼方へ、すぅーと減衰していく声の響きには大変感興をそそられました。
しかし、W3000もさる者、低音域の表現においてはW5000に優越している印象を感じました。
W5000の低域は確かに音が出ているのは間違いなく、レンジ感は有るものの、どうにも躍動感に欠き、低域特有の刻みこむような量感を得にくいものでした。
これに対してW3000はW5000と同様のレンジ感を持ちながら、音の躍動感を実現しています。とはいえ、勿論バスブーストをしたかのような下品な鳴り方では有りません。
この低域の変化こそが、W3000とW5000の間にある6年間の蓄積と思われました。

総評しますに、W5000は殆どピークのない平滑な音をもった万能機です。高い解像度・基本性能を有し、楽曲に掛けられた微かなリバーブ、エフェクトすらも緻密に再現します。しかし万能であるが故に、時として器用貧乏に陥ってしまい、音源の粗を容赦なく書き立てたり、低域に躍動感を欠くなど、融通が利かない面があります。
一方、W3000はW5000に比べれば低域にピークを持っており、高音域の伸び方や、全体域に渡る解像度の実現等の基本性能ではW5000に劣ります。しかし、躍動感のある音を提供して、楽しく聞けるヘッドホンです。また音場についてもW5000より、少し広く感じました。木のヘッドホンシリーズとしてはW1000Xの上位互換といった具合です。
W3000はW2002ともW5000とも異なる「Xシリーズ」の旗艦たる音に思えました。

ところでふと他の木のヘッドホンはどうだろうと思い、ヨドバシカメラ新宿西口店を尋ねて、デノンAH-D7000の試聴をしてみました。楽曲は同じく、ヘッドホンアンプはAT-HA5000です。
AH-D7000はハウジングにこれまた硬い木材であるマホガニーを採用し、DENON特有のアコースティックオプティマイザー機構と相まって、落ち着きのある響きを実現したヘッドホンです。
振動板は50mm。ATH-Wシリーズと同じくマグネシウムフレームを用いています。
同機の響きの成分は特に低音によく現れ、常に音場を低音が支配しています。
とはいえ、歪みはなく見通しは明瞭です。高音の伸びも素晴らしい。その面では、W2002に似通っています。
ただ、低音が前に出てくる分、ボーカルの中域が後退し、少々声が遠くなるのが難点でしょうか。人によってはボワつきを感じるかも知れません。
W3000ANVも低音域に特徴を持つのはこれまで述べてきた通りですが、D7000の低域とはかなり異なります。
D7000 の低域は弾力性をもち、通奏低音的にゆっくりと滞留しますが、W3000の低域はリズムを刻むように現れては消え、現れては消えての変幻を繰り返します。制動力を活かしたスピード感ある音です。
同じ低音にピークを持つといっても、D7000は腰を据えた落ち着きあるもので、W3000は速度のある躍動的なものです。

こういった差異は結局のところ、個々人の好みに帰結しますので、どちらが良いかは人それぞれでしょうが、何れの音作りも大変面白いものです。
素材や回路によって音が次々に変わり行く、ヘッドホン制作の醍醐味を感じました。
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by katukiemusubu | 2011-10-30 03:09 | Ecouteur(ヘッドホン) | Comments(6)
Commented by しんすけ at 2011-10-31 12:48 x

はじめまして、しんすけと申します。オーテクのコーナーでW2002をお借りし、比較視聴をさせていただいた者です。レビュー及び比較記事、拝読させていただきました。特に、D7000との比較は興味深いです。

私も、W3000ANVの低音には驚かされました。W2002に近いハウジングとL3000に近いドライバーユニットを搭載しているという噂を聞いていたので、ある程度低音が出るだろうとは考えていたのですが、オーテクのヘッドホンから(評価は私見ですが)あれほど質の良い低音が聞けるとは思いませんでした。

Commented by しんすけ at 2011-10-31 12:50 x
(続)

L3000をお持ちの方がいらっしゃったのでお借りして、W3000ANVとL3000を比較視聴する機会にも恵まれたのですが、W3000ANVは迫力という点ではL3000に一歩劣るものの、制御力やスピード感という面ではL3000と比べても優れているように感じられました(ここら辺は技術の進歩ということでしょうね)。数分の視聴だったので大まかなことしか分かりませんでしたが、(まみそさん風に言えば)L3000がステージ最前列でコンサートを聞いている感覚をもたらしてくれるHPだとすれば、わたくし的にW3000ANVはそれよりも一歩下がり、しかしかなり前列でコンサートを聞いているような感覚だと思いました。

W3000ANVネタからは逸れますが、W2002にはW3000ANVとは異なる魅力がありますね。やはり高音のクオリティはずばぬけている(10年経った現在でも美しさはトップクラスだと思います)ので、それが低温に埋もれることなく耳に入ってくる点はとても魅力的だと思いました。

長文、失礼いたしました。そして、貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。
Commented by katukiemusubu at 2011-11-01 00:40
しんすけ様 
コメントを有難うございます。
またATH-W3000ANVとATH-L3000の比較レビューまで頂戴し、感謝の至りです。
お陰様で、フラッグシップ同士の比較が出揃い、
ここ10年のオーディオテクニカヘッドホンの歩みを見通すことが出来ました。

ヘッドホン祭りでは、こちらこそお世話になりました。
しんすけさんが聞いて下さったお陰で、技術者の方々との話の輪も広がり、充実した情報が得られました。
W2002は、もう10年も前のヘッドホンですが、今でも同機を顧みて下さる方々が、
技術者の中にも、ヘッドホン愛好家の中にもいらっしゃる事が分かり、持ち主の私としても嬉しくなりました。
ATH-W2002は世界に千人のオーナーがいるはずですが、
この内、私以外にも2人の方をお見かけしたので、ヘッドホン祭りには少なくとも3台のW2002が集結していた寸法になります。
しかし、まさか500台しか存在しないL3000のオーナーの方までいらしゃったとは、驚きました。(続きます)
Commented by katukiemusubu at 2011-11-01 00:41
L3000、私は2003年の発売当初に聴いたきりですが、
しんすけさんが仰るように、迫力のある、全体域に渡って音圧の強い音が印象的でした。
確か当時の謳い文句に、L3000はW2002の低音域の減衰を補正し、中高音域について性能向上を図ったとの言葉があったと思います。
ただ低音域の鳴り方が気難しく、制動が図り辛いといった話も聞かれました。
恐らく中高音での性能について、L3000はW5000と同等かそれ以上の物を持っていると思われますが、
W3000の実現した制動性・スピード感ある音色も、これまた魅力的ですね。
何というか視聴していて、実に現代的な音だと思いました。
現代の音楽では生音の他、打ち込み音源の積極的な利用が行われていますが、
こうした音楽の鑑賞には多層的にミックスされた音を見分けられるだけの解像能と音を自在に切り替えるだけの制動性が必要です。
W3000はこういった要請に結構応えているように感じました。(もう少しだけ続きます)
Commented by katukiemusubu at 2011-11-01 00:42
W2002ですが、やはりこうして様々な機種を聞いてきても、色褪せない魅力がありますね。
あの中高音のクリアさは、何者にも変えがたく、上手いボーカル曲や管弦楽に当たった時などは最高の嵌り役になります。
音場が綺麗に円を描いて、中央部分に中高音が集まりますので、聞いていて疲れがないのも有難い事です。

しんすけさんがお持ちというATH-W1000、私の所有するATH-W2002、
いずれも生産完了となってしまいましたが、00年代初頭を代表する密閉型ヘッドホンの一つ、一つだと思います。
まだまだ木のヘッドホンの進化には期待して行きたいところです。

コメントを有難うございました。
Commented by しんすけ at 2011-11-03 17:42 x
いえ、こちらこそ。

そうですね。期待していきましょう!

それでは、また
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