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ポータブルヘッドホンアンプ Bialbero レビュー「細密の音、練達の音、そして高駆動の音」

WAGNUS.&Toneflake共同開発のポータブルヘッドホンアンプ、Bialbero PROTO1(ビアルベロ プロト・ワン)を入手致しました。
Bialbero PROTO1はその名の通りプロトタイプで、製品版の発売が2012年秋から冬頃に予定されています。
今回の試作機制作は限定20台で、2012年5月17日に予約が開始され半日も経たずに完売しました。価格は39,800円。
私のもとには6月3日に到着。本記事の当時で、バーンインは50時間を経過しております。



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Bialberoは、プロオーディオ、特にカスタムエンジニア・マスタリングエンジニアとして高名なToneflakeの佐藤俊雄氏と、同じくプロオーディオ、特にケーブル制作者として名を馳せるWAGNUS.の久米春如氏の共同開発で製作されました。
ご両者ともプロオーディオが本業ですので、当然、今回のBialberoが初のコンシュマー市場向けヘッドフォンアンプとなります。
その開発コンセプトは「音楽制作現場、生演奏のサウンド」の投影。「プロ機材のサウンド」をポータブルという枠内で再現するという事にありました。

単三乾電池2本で駆動し、アルカリ電池での平均的な持ちは10時間程度。
オペアンプ(バーブラウンOPA2134)を利用した回路設計で、これだけですと一般的なコンシュマーアンプにもよく見かける構成です。
しかし、内部線材にはソ連の中距離弾道ミサイルSS-10(RSD-10)で用いられたものと同様のテフロン被覆銅線を線材として使用し、20台全てを佐藤氏が手作り・チューニングするなど、相当な手間と丹精が込められています。
佐藤俊雄(シュガースペクター)氏の名前でオーディオ界隈を見てみると、カスタム品のコンプレッサーやイコライザー、オリジナル制作のルビジウムクロックなど様々な製品が見受けられます。
一番安価な製品でも20万円、高価な製品では100万円に達しようかというものも有ります。
もちろんヘッドホンアンプとコンプレッサーやイコライザーでは部品も異なる部分が有りますし、一概に値段での比較は出来ませんが、ともあれプロオーディオ市場で定評を得ているエンジニアの手になる製品が一桁万円で手に入るという今回の企画、それ自体がコンシュマー市場の人間にとっては非常に興味深いことです。

わが家には6月3日(日)の18時ごろに到着。
はじめに、届いた直後に一聴してみると、かなりソリッドな印象。
工学的な意味での「遊び」の少ないハンドルのごとく、音の流れに対し忠実に追随するのですが、ある意味では忠実に過ぎ、余裕が無いようにも感じられました。
この時点で解像感は相当なもの。定位も非常に綺麗に決まっておりました。
私は音響機器の試聴において、オーケストラの第一・第二バイオリンと打楽器の距離感をもって定位を把握します。
何故この方法を取るかというと、管弦楽団において第一、第二、打楽器はほぼ真っ直ぐ縦に並ぶからです。この距離感をみてやれば、だいたいの定位の正確性が見えるといった寸法です。
ラフマニノフ・ピアノ協奏曲2番では第三楽章に入ってシンバルが現れますが、Bialberoでは、この出音がしっかり最後方に位置づけられており、弦楽器群の後ろから現れる様子が綺麗に把握できます。
出し初めの時点では、音場はそこまで広くはなく、ヘッドホン祭り当時に視聴した際とは少し傾向が違うのかな、とも思われました。

とはいえ、オーディオ機器というものはある程度の暖機運転というのか、エージングが必要です。
6月2日、佐藤・久米両氏がBialberoについて生放送を行うとの事で、それを視聴していました。
そこでご両者が仰るには、予め10時間はセンターボリュームでのエージングを行なって欲しいとの事。それを思い出して早速エージングを開始しました。
なんでも始めの10時間、このバーンインの音源次第で、ある程度音の傾向が変わるそうなのです。
それならば良い音で聴いてみたい音源を用いようということでCDを選択。
ラフマニノフ・ピアノ協奏曲2番の収録されたCDを5種類、2回通しで再生しました。
再生したCDの種類は以下の通り。
①アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団&アシュケナージ(1995)、②マリインスキー劇場管弦楽団&ランラン(2007)、③フィラデルフィア管弦楽団&ラフマニノフ(自作自演、1929)、④フィルハーモニア管弦楽団&エレーヌ・グリモー(2001)、⑤シカゴ交響楽団&ルービンシュタイン(1956)。
再生機材には、ポータブル同士という事で、SONYのフラッグシップ・ポータブルCDプレーヤーD-E01(1999)を使用。
D-E01のラインアウトからSAEC・MM-803(ミニミニ・ケーブル)にてBialberoに接続しました。
最後のルービンシュタインだけ寝落ちしていたため、都合5回の再生になりました。

ともあれ12時間のバーンインを終え、本格視聴開始です。
バーンイン中はあえて音を聞かないようにしていたので、12時間ぶりにBialberoを聴きました。
バーンイン中はヘッドフォンとしてSONY PFR-V1(正確にはヘッドフォンでなくパーソナルフィールドスピーカー)を接続していましたが、これも変更して、はじめの視聴時と同じくAudio Technica ATH-W2002を接続。
一先ずは同じ音源を用いようと考え、②のランラン盤で第三楽章を視聴しました。
一聴して一言、「何という事です、これは!」。
驚きのあまり、思わず声に出してしまいました。何となれば、音場の領域がはっきりと拡大しているのです。
ATH-W2002はオーディオテクニカ密閉型の例に漏れず、比較的狭い音場の中に音響を満たすヘッドフォンです。それがバーンイン後のBialberoを通して聴くと開放型と聴き紛う、いいえ、一聴した時には開放型だと思ってしまう程に広い音場を持ち得ています。
この音場の広さは、KH-08Nを通じてATH-W2002を聴いたときの感覚と同様です。
音場が広がることでボケてしまい易いはずの音像も明確に定まっており、それどころか一音一音の輪郭がはっきりとして、研ぎ澄まされた刀の様なキレすら感じさせます。
心底びっくりして、何故この様に聴こえるか、少し分析的に聴いて見ることにしました。

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まず、感じられるのは解像感の高さ。
音のセパレーションが明確で、弦楽器パート毎の聞き分けは勿論、その弦の揺れ、ビブラートの細かいところまで一つ一つの音を丁寧に拾っています。それが一音、一音聴き分けられる程度に分離しているために、楽器音の組成が感覚され、大変な高解像に聴こえるのです。
解像感の良さは、音の見通しの良さに繋がります。一音一音が聴き分けられなくては、音楽全体にヴェールがかかった様になり、どうにも見通しが悪くなりますが、ここまで解像感が高いと綺麗に晴れ渡った様な見通しの良さが実現されます。

次に感じられるのが、中音域における僅かなピーク。
Bialberoは弦楽器や鍵盤楽器の倍音成分、女性ボーカルの音において、ほんの僅かですがピークがある(音を盛り上げて)ように聴こえます。とはいえ、このピークは一聴して分かるほどに強調されてはおらず、何種かの音源を繰り返し比較試聴している際に感じられる程度のものです。
Bialberoは低域はもちろんのこと、高域においても再生可能周波数帯域が広く、試作段階で100kHz越えが確認されています。この超広帯域の中で、少しく感じられる中音域のピークは、沈み込む重低音・翔け上る超高音のそれぞれにメリハリを与え、結果として、広い周波数特性を感覚させるのに役立っています。
そうで無いにしても、Bialberoの中音域は魅力的で先述の高解像と相俟り、ヴォーカルの表現において官能的なタッチを残しています。

そして、何よりも感じられるのはBialberoのアンプとしての駆動力の高さです。
一般的に鳴らしにくいとされるLCDシリーズやYH-5Mのごとき平面駆動式に対しても、センタークリップ(ボリューム12時)に行くまでもなく鳴らしてしまう駆動力の強さ。殆どのダイナミック型でしたらボリューム9時もあれば十分ですし、BA型の中でもインピーダンスの高いER-4Sに対した時さえ、センタークリップまで行きませんでした。とても電池二本で駆動するアンプには思えません。
アンプにおいてその駆動力の高さは、畢竟、昇圧系統を含む電源部の強靭さ・良質さを意味します。オーディオ機器の再生が電気信号の増幅を持ってして行われる以上、根幹と成るべきは電気そのものです。その電気をどの程度まで昇圧し、そして過負荷なく動かせるか、そこは製作者の腕の見せ所というべき部分ですが、Bialberoはその要求に見事なまでに応えています。というよりも、電池二本(1本1.5V)からこれだけの駆動力を引き出す昇圧を行いながら、ノイズも歪みも無いというBIalberoの現状は、それ自体で驚くべき技術の賜物です。
Bialberoとはイタリア語で双つの軸を意味し、そのツインカムを採用した伊・アバルト社の一連のカスタムカー、そしてそれに搭載されたエンジンユニットの名前でもあります。Bialberoユニットはサイズを超えた高出力を有する優れた駆動系をもってアバルト社に最優秀製造者賞をもたらしましたが、ヘッドフォンアンプBialberoはその名に恥じないエンジン(=駆動系統=電源系統)を有した機械と言えましょう。

これら、細密画を思わせる高解像感・中音域の仄かなピークから伺われるチューニングの妙・そして「Bialbero」を思わせる強力な駆動系。それぞれ単品でも音場の広さの説明にはなりますが、個人的にはこれら三位一体の効果こそが、Bialbero Proto1にヘッドホンの限界を試すかのような広大な音場を与えている要因であると思われました。
解像感・定位・音場・ダイナミックレンジの何れにしても非常に高いレベルで纏まっており、大変良質なヘッドホンアンプです。試作版は既に完売となってしまいましたが、どこかでお見かけになったら一度試聴なさって見る事をお勧めします。
聞くところによりますと、製品版(6万円から10万円のレンジを予定)では、オペアンプを用いないディスクリート構成や、アンプ部・電源部を分けた2ユニット構成も検討されているとか。
製品版Bialberoへも期待していきたい処です。
→2012年秋、ディスクリート構成の製品版Bialbero Epsilon Sが発表されました。価格は99,750円。秋のヘッドホン祭り2012にて試聴して参りました。
試聴レビューは秋のヘッドホン祭り2012長文雑感の記事後半に記しております。

〈余話〉
さて、この音場感、精細感であれば、さぞかし他のヘッドホンでも面白かろうと思って、手持ちの各種ヘッドホン・イヤホンで試聴を行なってみました。
その中でも感興をそそられたのが、Final Audio Desgin Piano ForteⅨとの組み合わせ。知る人ぞ知る金属切削筐体の10万円イヤフォンです。
ピアノフォルテⅨはイヤホン離れした広大な音場を有する機種ですが、これとBialberoを掛けあわせてはどうだろうか、と思ったところ、大当たり。通常でさえ「持ち運べるリスニングルームではないか」と感じていた同機の音場がいよいよ広大になり、何と言うべきか、映画館か何かかと感じてしまう様な大きさに感じられました。
ギルティクラウンOST(作曲:澤野弘之)などは大変な好例で、音数の多い序曲「βios」にしてからに刻みこむ低音の数々を解像感豊かに描き分け、しかもそれを広い音場中に配置するため、音に包みこまれる様な心地にさせられます。
良質なステレオはサラウンドをも凌駕するとは言いますが、それをスピーカーではなくヘッドホン、しかもインナーイヤー・ヘッドホンで感じられるとは驚きでした。

〈電池の話〉
ところでBialberoは、乾電池式ですので電池の交換が容易です。標準乾電池としてはエネループが推奨されています。では、他の電池ではどうなのか。
そこで、ここ20時間ばかり様々な電池を比較してみました。これについても記し置きます。
ご存知、エネループは日本製、三洋により開発されパナソニックによって販売されているニッケル水素充電池です。内部抵抗値が小さく、しかも安定的であるため、大電流にも適合的な製品と言えます。そのせいか、今回比べた電池の中でもっとも中間的な印象。以降、エネループとの比較で各電池の印象を記します。

エネループに続いて試したのはパナソニック・EVOLTA。これまたご存知、アルカリ電池の代表選手です。初期電圧はエネループより0.3V高く1.5V。エネループに比べると、中低域に豊かな印象があり、音の張り出しもそこそこに強く感じられました。
この音が張り出す、クリアになるという印象はアルカリ電池の電圧がエネループに比べ高いからかも知れません。
お次はPHILIPS・LR6、オランダ・フィリップス社のアルカリ乾電池です。中国製。初期電圧は1.5V。これはEVOLTAより安価な製品ですが音の傾向としてはEVOLTAに近い印象。但し、音の張り出しはそれほどでは有りませんでした。
アルカリ電池はエネループに比べて中低音が豊かになるのかな、と考えて、もう一つ試してみようと用いたのが四番目、東芝・インパルス。初期電圧1.5V、日本製です。こちらはどちらかと言えば中高音が豊かになった印象があります。こちらも、少し音が張り出す印象があります。
ハリを感じる原因は電圧かもしれないと書きましたが、以前、初期電圧1.7Vを誇るオキシライド電池(ニッケル電池)が発売されていた当時もオキシライドで音がクリアになった、という話が人口に膾炙していました。やはり、それと同様、電圧が要因かも知れません。

初期電圧の高さと言えば、現在ではオキシライドを超える初期電圧を持った乾電池も存在します。パナソニックエナジー社のリチウム乾電池FR6SJです。
FRS6Jはエネループの1.5倍という初期電圧1.8Vとその電圧降下の少なさから、アルカリ電池を超える長寿命を誇ります。アメリカ製で、使い切りにしては高価な電池ですが(4本パック1500円程度)、その持ちの良さと耐寒性能からカメラ愛好家御用達の電池です。

早速使ってみようと思ったのですが、FR6Jが売り切れていたため、同じくリチウム乾電池の米国エネジャイザー社・アルティメイトリチウムを購入しました。アルティメイトリチウムはアルカリ電池と同じく初期電圧1.5V、世界最長の持続時間を持つ単三形乾電池です。
圧倒的な電圧降下の少なさを持ち、その持ちの良さはアルカリ電池の実に8倍。オキシライドを凌駕する持続時間により、米州市場においてオキシライドを駆逐せしめ、オキシライドの終焉に一役を演じました。
電池は使用するに従って、初期電圧から電圧が必然的に降下していきます。その電圧が機械を動かすに足りない程度に下がってしまうと、電池は使えなくなりますが、一方、電圧降下の程度が小さければどうでしょうか。電圧は初期電圧に近い状態で保たれ、安定した電力供給が続けられる事になります。
特にアルティメイトリチウムはその面で有利であり、ことアンプに関しては音質の変化が少なく、かつ持続的に楽しめる点で有用です。
エネループに比べて音の分離が少し明確になる印象が有り、かつ帯域バランスの変化は殆ど感じられない為、結局、この記事を書いています現時点ではエネジャイザーを使っています。
by katukiemusubu | 2012-06-06 02:58 | Ecouteur(ヘッドホン)
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