SONY MDR-1Rシリーズ一斉レビュー (MDR-1R,MDR-1RBT,MDR-1RNC・銀座ソニービル先行展示)

9月中旬、銀座ソニービルへ行って来ました。
10月末に発売が予定されているMDR-1Rシリーズの試聴が目的です。
MDR-1Rシリーズは、ソニーの新たなるHifiヘッドフォン群で、同社の密閉型上位機種MDR-Z1000譲りの液晶ポリマー振動板を採用しており、MDR-1R、MDR-1RBTの二機種については広帯域再生(4Hz~80kHz)に対応したHDドライバーユニットを搭載しています。
最近流行りのハイレゾ音源(High Resolution音源:CDを超える高精度音源の事。可聴領域を超える広帯域の音を収録している)にも対応できるカタログスペックです。




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ヘッドホンやスピーカーの肝となるべき振動板ですが、精緻な音楽再生のためには、この振動板に対して三つの性質が求められます。
すなわち、強力な駆動に耐えられるだけの剛性を持つ事。微弱な信号も逃すことのない軽量性を備える事。そして、これらを邪魔しない響き難さ(内部損失の高さ)を持つ事。
剛性だけで言えば金属が、軽量性だけでいえば紙やポリエチレンが有利です。しかし、大事なのは三者のバランスが取られる事でした。
特に最後の内部損失が厄介なものでして、金属を例に挙げれば、剛性が高いものの同時に大変響きやすく、本来の音に加えて、金属の響き・共鳴音が乗ってしまう為、音を濁らせる要因となっていました。そもそも硬さと響き難さは基本的に両立しないもので、なかなかバランスのとれた素材というものは見つからないものです。

この点、液晶ポリマー(LCP:リキッド・クリスタル・ポリマー)は合成樹脂でありながら金属に迫る硬度を持ち、しかも軽量かつ内部損失が高い、という振動板としては理想的な素材でした。
ただ、唯一にして最大の弱点が、加工の困難さでして、特にヘッドホンの振動板のような大面積の成形には困難が伴いました。素材としての良質さは知られつつも、なかなか利用が進まないのが現状であった訳です。
2010年10月、液晶ポリマー振動板搭載イヤホンMDR-EX1000が登場。翌月にはMDR-Z1000が登場し、ソニーは液晶ポリマー振動板の採用機種をそのラインナップに追加します。
2011年には、ソニー出身のエンジニア山岸亮(アクティブスピーカーの銘機SRS-Z1、通称“OZ”の設計者)氏率いるベンチャー「音茶楽」により、液晶ポリマーを筺体に採用したイヤホンFlat4-粋-が発表され、ポータブルオーディオにおける液晶ポリマーの使用が徐々に進んできていました。
そこへ来ての新たなる液晶ポリマー採用ヘッドホンの発表。MDR-1Rシリーズの登場は満を持してという気も致します。

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肝心の音質はどうでしょうか。
デンマークBang&Olfsen社のデジタルオーディオプレーヤーBeoSound2を用い、アイルランドのトラッドバンドClannad(クラナド)の“Theme From Harry's Game”(1982)を再生。
レクサス初代GSのCMに用いられたことでも有名な楽曲です。リードボーカルはEnyaの姉のモイア・ブレナン。男性ボーカルと女性ボーカルとが多重録音的に絡み合い、霧深い山中で聴こえる木霊にも似た独特の情感があります。

基本となるモデルMDR-1Rは、大変癖がない音で、長時間の視聴にも適した印象。感覚としてはフランスFocal社のSpirit One(レビュー記事)に似ています。
MDR-Z1000にあった少々過多であるくらいに沈み込む低域の量感は無くなったものの、速度感のあるスマートな低域が心地良く、滑らかな中高域への繋がりも見事です。
この辺りの制動感ある低域再生はハウジング上部に設けられた通気孔、ビートレスポンス・コントロールによるものと思われます。
最上位機種のSA5000やZ1000の様に物凄く解像感が高い、という程では有りませんが、男女ボーカルが綺麗に描き分けられ、それぞれの口の動きもかなりの程度で伝わってきます。
Z1000の様なモニター指向のヘッドホンは音の粒立ちのキメ細やかさ、表現力に優れるものの、ともすればそれが刺激になってしまい、長時間の視聴に適しない場合がありました。一方、MDR−1Rでは刺激となるべきピークの音をまろやかに受け止めており、チューニングの妙が伺われます。
しかし、それを退屈にしないだけの十分な解像感を併せ持っており、実にリスニング向きのヘッドホンです。
音の傾向はほんの少し低音寄り。しかし、低音過多でボワつく様な音ではなく、ベースラインを明確にさせることで、音楽への没入感を高めさせてくれます。
音場は密閉型という事もあって、ほどほどの広さです。耳元にボーカルが定位し、周囲に楽器群が拡散していく印象。
ソニーの開放型ヘッドホンMDR-SA5000は、独・ゼンハイザーHD800と並ぶ、大変広大な音場を持っていましたが、同社には、また何時か開放型ヘッドホンも作って欲しい処です。

無線対応モデルMDR-1RBTは、ケーブルを接続して通常のヘッドホンとしても利用できます。
有線時の音質はMDR-1Rと殆ど変化のない印象。それもそのはず、MDR-1RとMDR-1RBTは使用している振動板やドライバーユニットも同じで、有線時にはBluetooth回路をスルーして動作するのです。
つまり、MDR-1RBTは1Rと同じ音質を持った有線ヘッドホンとしても利用でき、一方でBluetooth規格に対応したワイヤレス・ヘッドホンとしても用いる事のできる一石二鳥のモデルです。
無線時にはDAC兼デジタルアンプS-Masterが機能し、少々レンジ感が狭くなるものの、有線時にも迫る解像感をもって音楽を再生してくれました。無線時の音域バランスは有線時に比べて、低域が増している印象です。
一回の充電で30時間の動作が可能という事も魅力的です。
私は4年ほど前からDR-BT50というBluetoothヘッドホンを使っていますが、コードが無くなる開放感は実に爽快なものです。
無線対応の高音質モデルが発表された事は喜ぶべき事と申せましょう。

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ノイズキャンセリング機能付きモデルMDR-1RNCは、1Rや1RBT(40mm振動板)と異なり50mmの大口径振動板を搭載。再生帯域は5Hz~24kHzとHDドライバー搭載の前二機種(~80kHz)と比べると狭い印象ですが、それでもCDの音域を十分にカバーして余り有り、通常の音楽再生には必要十分なモデルです。
MDR-1RNCは99.7%の騒音低減を謳い、ノイズキャンセリングスイッチを入れると非常に静かな空間が広がります。一般に(アクティブ)ノイズキャンセリング・ヘッドホンは騒音をサンプリングし、その逆相の音を再生することで騒音を打ち消しますが、その動作原理上、本来の音楽に加えてノイズキャンセル用の音が乗ることになり、必然的に本来の音楽とは違った音が再生される事になります。
そのためノイズキャンセリング機能動作時の音質を云々するのはナンセンスかも知れませんが、一応レビューしますと、全体的なレンジが狭く、解像感も低い印象。特に高音が伸びきらず抜けが悪いため、天井に頭をぶつけた様な閉塞感があります。残念ながら動作時の音は高音質とは言い難いものです。
一方、ノイズキャンセリング機能オフ時の音質はなかなかどうして、大した出来映えです。
50mm振動板が効いているのかXBシリーズにも似た低域の量感があり、同時に高域の抜けも良くなり、かつ中域も十分に確保されている。伝統的なソニーヘッドホンの音とでも言うべき、良い意味でのドンシャリ(低域と高域にピークを持った熱量のある音の鳴り方)です。
1Rや1RBTのニュートラルな鳴り方とは異なる音の造りですが、これはこれで魅力的。新モデルに敢えて旧来の音質傾向のモデルもラインナップするあたりは、大規模メーカーならではの懐の深さとでも言うべきでしょうか。

またMDR-1Rシリーズ全般に言えることですが、装着感がかなり良好です。
特にイヤーパッドが耳を包み込む様にフィットするエンフォーデング構造が上手く働いており、吸い付くようなフィット感が快適さを演出しています。高気密による音漏れ防止も期待できそうです。

総評するにMDR-1Rシリーズは、今までの少々刺激的なソニーヘッドホンとは異なる音作り(1RNC、ノイズキャンセリングオフ時を除く)を採用しており、音楽を長く聴くためのまろやかさを持ち、これを退屈なものにしないための十分な解像感、制動感を備えた製品群です。
シルバー+ブラウンとブラック+レッドなどカラーリングも新鮮で、日用使いに適した音響機器と言えましょう。
今後の製品群展開(特に開放型やフラッグシップクラスの投入)にも期待したい処です。

※MDR-1Rと同時期にソニーから、初のポータブルヘッドホンアンプPHA-1が発表されました。
その試聴レビュー記事はこちら
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by katukiemusubu | 2012-10-03 23:59 | Ecouteur(ヘッドホン) | Comments(0)
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