ついに現る!ソニーエンジニアリング「Just ear」:秋のヘッドフォン祭2014長文雑感①

フジヤエービック主催・秋のヘッドフォン祭り2014へ行って参りました。
今回のイベントは出色の製品が多く、数回に分けて感想レポートをお送りします。

第一弾はソニーエンジニアリングのテイラーメイドヘッドホン「Just Ear」。
従来のカスタムIEM(インイヤーモニター)すら凌駕する、新ブランドの登場です。
→追記:H27年4月23日に公式発表されました。詳細は記事後段にて。



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きっかけは一件のツイートでした。
「MDR-EX800ST/EX1000/MA900/1R/XBシリーズの音響設計を手掛けた私ですが、あなたのために世界に一台のヘッドホンをつくると言ったらどのくらいの方が興味があるでしょうか?RTの数次第では、本気で取り組みたいと思います。よろしくお願いいたします。」
ソニーの五代目耳型職人・松尾伴大氏のツイートです。
日付は2014年3月28日。

SONYのエンジニアが、オーダーメイドヘッドホン?
当時は不思議に思ったものです。
単に耳型をとって、それにあったIEMを作るというならば当然可能な事でしょう。
須山歯研(FitEar)など前例は多々あります。
しかし、その後の松尾氏は「あなたに合った音を提案させて頂きます!」とツイートし、一個一個、耳型のみならず音色までもオーダーメイドするヘッドホンを構想中であることを明らかにしました。

音すらも個人の趣向に合わせるヘッドホン。
プロユースならば兎も角、年商7兆円にもなろうとする大企業がコンシュマー相手に出来る話ではありますまい。
いくら有能なエンジニアを沢山抱えるソニーとはいえど、かけるリソースが大き過ぎます。
予め設定された構成をインプレッションに配置していく事とは訳が違うのです。
なにしろ音色を調整しなくてはならない。
エンジニアの拘束費用(タイムチャージ)を考えると、労賃を含めた原価は相当高いものとなりかねず、経済性が見込ぬ様に思われました。
その為、上記のツイートが出回った際、私は「せいぜい、何種類かモデルを用意して、その中から好きな音を選ぶという程度で留まるだろう」と高を括っておりました。

しかし、本日のヘッドホン祭り。
話を訊いてみてビックリです。
ソニーエンジニアリング株式会社は本気でした。
モデルから選ぶ方式も用意するが、一から好みの音色を訊いて作っていく完全受注方式も用意するというのです。
服のオーダーに例えれば、パターンオーダーとフルオーダー、二つの方式を用意するということです。
それぞれの予想価格は前者が20万円代前半、後者が20万円代後半から30万円。
10万円前後の価格差は、フルオーダーにかかる労力を考えるとあながち高価すぎるとは言えないでしょう。
なにしろ、スーツのフルオーダーにおいて世界に一つだけの型紙が作られるのと同様、Justearのフルオーダーにおいても世界に一つだけの機器配置・チューニングがなされるというのです。
それを考える労苦、それを実現する機器設計の改変、その実行を考えれば、値段の高価さも頷けます。

Just earプロジェクトはインナーイヤー型ヘッドホンから始めるという事でしたが、未定ながら、オーバーヘッド型ヘッドホンについても含みをもたせている様子でした。

さて、実機レビューです。
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クリアな筐体を見ると、中には13.5mmのダイナミック型ドライバーとBA(バラスドアーマチュア)ドライバーが各一基。
ダイナミック型には低音域を、BA型には中高音域を担当させ、相乗効果を狙うハイブリッド音響構造が採用されておりました。

ケーブルはMMCX方式での着脱が可能。
コネクタは薄いシリコンで覆われ、堅牢性の向上が伺えます。
印象的なのは、クリアーなイヤーシェルの真ん中に配置されたハウジング。
真鍮製だそうで、金属らしいずっしりとした堅固さを感じさせてくれます。
ハウジングの素材については、目下検討中でアルミなどの異なる素材の採用もありうるとのこと。
しかし、金属ハウジングとすることは確定事項らしく、そうなってみると、ソニーのお家芸たるマグネシウム合金製ハウジングなども期待したいところです。

写真でも色の違いが見ていただけると思いますが、ジャストイヤーIEMのイヤーシェル(耳と触れる部分)は二層構成(ダブルレイヤーフィットシェル)になっています。
耳の外側のシェルは硬質な樹脂ですが、耳道へ入る内側部分(写真の濃い緑の部分)は体温に反応して柔らかくなる特殊樹脂を採用しております。
これにより、口を開けたりしてもフィット感が揺るがず、良好な装着感を維持できるように設計しているとの事でした。

クリアカラーのイヤーシェルに金属のハウジング部分が貫入したデザインが製品全体に強い求心力を与えています。
同時に、重量にも配慮されており、耳につけていて重く感じるということはありませんでした。
松尾伴大氏がデザイナーグループ「参/Mile」として参画したau design projectのデザインケータイ「gem」(2008)を思い起こす、塊感のあるプロダクトデザインです。

では、肝心の音はどうでしょうか。
会場にはMonitor, Listening, Club Soundと題する三つのモデルが置かれ、それぞれの比較が可能になっていました。
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モニター、リスニング、クラブサウンド。
これら三つのモデルはパターンオーダーにおける指標となるモデルで、ヘッドホン祭での比較試聴のアンケート結果をもとに改善をした後、製品版のパターンがつくられるとの事でした。

名は体を現す、ではないですが、クラブサウンドは低域の量感を重視した線の太いバスモデル、モニターは若干ハイ上がりの高域が印象的な高解像度モデル、リスニングは伸びやかな中域が印象的な万能モデルに仕上がっていました。
どのモデルにも共通しているのは、ハイブリッド型であることを感じさせない音のスムースな繋がりと解像感です。
たとえ強大な低音があろうと、澄み切った高音があろうと、全体としてまとまりがないオーディオ機器はつまらないものです。
まとまりを欠いた部分がついつい気になってしまい、音楽に集中できなくなってしまう。
マルチウェイ化やハイブリッド化全盛の様相がある昨今ですが、時折、マルチウェイ化にばかり邁進して、全体としてまとまりを欠く音に仕上がったモデルに出会ってしまい、悲しくなります。
それにひきかえ、流石は設計専門会社というべきでしょうか、ソニーエンジニアリング謹製Justear IEMは非常に纏まりがよく、低域を強調しても、高域を強調しても破綻のない音になっていました。
これはもちろんドライバーそのものの素性の良さもあるのでしょうが、数千もの耳型を集める会社ならではのチューニングの妙もあるのでしょう。

個人的に好みの音に近かったのはモニターモデルでした。
若干ハイ上がり、しかし痛くはない程度に盛り上げられた高音は鮮烈な印象で、それが引き立てるドライバー本来の性能の良さ、解像感の高さが、音楽の隅々まで興味を掻き立ててくれます。
中域も過剰に沈んだドンシャリ状態ではなく、張り出しがあり、すらりとした実在感あるボーカル再現が為されておりました。
欲をいえばもう少し低音の量感がほしく、それが叶えば、非常に好みの音になる様に思われました。

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Just ear IEMは、フルオーダーも可能なヘッドフォンを市場に提示したという意味で、革命的なものだと思います。
このプロジェクトが成功すれば、フルオーダーヘッドホンの普及という、オーディオ業界の新たな発展が望まれることでしょう。

しかし、失敗しては元も子もない。
そのため、一つ提言をしておきたく思います。
パターンオーダー方式については兎も角、フルオーダー方式においては「仮縫い」をなさるべきです。
服飾のフルオーダーにおける「仮縫い」の如く、音色の好みに関するヒアリングをして、それに基づいた仮組みをした後、一度、引渡し前に顧客が音を聴ける機会を設けると良いと思うのです。
これにより、より顧客の嗜好にあった微修正が出来れば、完成品における顧客満足度はいよいよもって高まると考えます。
折角のフルオーダーならば、ぜひ仮縫いを。
制度的にも導入して下されば、これほど有難いことはありません。

ともあれ「Just ear IEM」、期待しております。


追記:2015年4月23日
本日、SONYよりJust earの公式発表がなされ、公式サイトもオープンしました。
4月29日より先行受注開始。
ソニー出身者が起業したヴァーナル・ブラザーズ株式会社東京ヒアリングケアセンター青山店(港区北青山)でのインプレッション(耳型)採取・販売となるそうです。

そのお値段は、
音質カスタムを含めたフルオーダーの音質調整モデル Just ear Model XJE-MH1が税別30万円。
三つの音質バリエーションから選択できる音質プリセットモデル Just ear Model XJE-MH2が税別20万円。
別途、インプレッション採取代金として税別9,000円を要します。
Justear専用器具による耳型採取となるため、他社インプレッションの持ち込みは不可とのこと。

ヘッドホン祭当時との変更点としては、ハウジングの材質変更が見受けられます。
ヘッドホン祭の試作機ハウジングは真鍮でしたが、製品版ではアルミに変更。
音のチューニングそのものも、高音域を中心により磨き上げを図っているそうです。

注文は予約制で、現状のところ、東京ヒアリングケアセンターへ来店した上での試聴および耳型採取となります。
納品までの期間は表記されていませんが、都度お知らせという形になるのでしょうか。
音質調整モデルについては、エンジニアが顧客に直接ヒアリングを行い、音質の提案や調整を行ってくれるとのことでした。
製作は専任マイスターによる手作り。一台一台手作りで為されるそうです。

納品後の無償フィッティング(3ヶ月以内1回)のほか、1年間の商品保証付き。
商品引き渡し時にもエンジニアによる音質調整が付くということで、「仮縫い」に近い形が実現されています(引き渡し後の調整は不可)。
ケーブルは1.2m、1.6mの二種類でMMCX方式、別売りも可能ということでした。

ソニーの製品としてはQUALIA Q010-MDR1(2004年、税別25万円)を追い抜き、MDR-R10(1989年、税別36万円)に次ぐ高位のヘッドホンとなるJust ear IEM。
カスタムIEMの新時代を切り開き、どれくらいのユーザーが獲得できるのか、楽しみなモデルです。
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by katukiemusubu | 2014-10-25 23:36 | Ecouteur(ヘッドホン) | Comments(0)
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