復活のTechnics(テクニクス) リファレンス/プレミアム両システムを聴く(レビュー・雑感)

平成26年(2014)9月、パナソニックはオーディオブランド・Technicsの復活を宣言しました。
DJ機器のデファクトスタンダードSL-1200を開発し、強大なシェアを誇ったブランドです。
家電見本市IFA(ベルリン)では専用カンファレンスが開かれ、復活を盛大にアピール。

復帰第一弾の高級音響機器として、リファレンスシステム R1 Seriesとプレミアムシステム C700 Seriesが発表されました。
Reference Systemは機器一台あたりの価格が100万円を越えるハイエンド、Premium Systemは同じく15万円前後のミドルレンジの価格帯となっています。
今回、国内初の一般向け試聴会が行われるということで行って参りました。
レビュー・雑感を記しおきます。



試聴会でいただいたお土産。
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テクニクスの銘が入った方眼メモに、同じく銘の入ったOHTOセラミックボールペン(市場価格1,000円)、ST-1000とのダブルネームのバインダー、豪華です。
ビックロ内の会場では、各回10人のゲストに対しスタッフが5人以上配置されており、パナソニックの気合が感じられます。

はじめにプレミアムシステムを聴いた後、リファレンスシステムを試聴。
その後、もう一度プレミアムシステムを聴かせてもらいました。


リファレンスシステム・R1シリーズは、SU-R1ネットワークオーディオコントロールプレーヤー(ヘッドホン出力付・838,000円)・SE-R1ステレオパワーアンプ(1,580,000円)・SB-R1スピーカー(一本1,348,000円)で構成される総額500万円ほどのシステム。
SU-R1ネットワークオーディオプレーヤーはUSB-DAC機能を搭載し、SE-R1と接続するためのデジタル出力の他、他のプリアンプ・プリメインアンプと接続するためのアナログ出力を有しています。
SE-R1パワーアンプとのデジタル接続時、SU-R1はボリューム調整機能を持ち、(コントロール)プリアンプとしても機能します。
SE-R1はアナログ・デジタルの両入力を備えますが、デジタル入力は既成の規格ではなく、Technics digital Linkと呼ばれるSU-R1との接続専用規格のみであり、システムとして割り切った構成です。

プレミアムシステム・C700シリーズは、ST-C700ネットワークオーディオプレーヤー(138,000円)、SU-C700インテグレーテッドアンプ(ヘッドホン出力付・158,000円)、SB-C700スピーカー(2本セット158,000円)で構成される総額50万円ほどのシステム。
ST-C700ネットワークオーディオプレーヤーはUSB-DAC機能を有し、デジタル出力のほかアナログ出力が可能です。
面白いのはSU-C700インテグレーテッドアンプで、USB-DAC機能をも有しデジタル・アナログの既成入力に対応、ヘッドホン出力を有するなど、汎用性抜群の構成です。
システムとしての独立性を重視したリファレンス、コンポーネントとしての開放性を重視したプレミアム、それぞれの位置づけが見受けられる設定となっています。

用意された音源はジャズとポップス、そしてクラシック(交響楽)。
交響楽では小澤征爾指揮ラヴェル「道化師の朝の歌」が用いられておりました。
松本でのライブ録音とのことでしたので、「2009年サイトウ・キネン・オーケストラ・フェスティバル」の音源でしょう。

両システムに共通して、素晴らしく思われたのは低音の制動感。
非常に豊かな量感を持ちながら、それがいたずらに残留することなく、素早く展開されていきます。
拡大・収縮のタイミングが適切で、聴いていて気持ちの良い低域です。
出るところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる、グラマラスな音と言うべきか。

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(SU-C700インテグレーテッドアンプ。パンフレットより引用。)

開発者の井谷哲也氏によると、この制動の実現には両システムのアンプに組み込んだ「周波数位相特性平坦化アルゴリズム:LAPC」が関わっているとのことでした。
LAPCとはLoad Adaptive Phase Calibrationの略称で、その名の通り、負荷(Load)を適正化する(Adaptive)位相(Phase)補正(Calibration)の事です。

新生テクニクスのアンプリファイアーは、リファレンスシステムのSE-R1パワーアンプにしても、プレミアムシステムのSU-C700プリメインアンプにしても、フルデジタルアンプJENO Engineを採用しています。
フルデジタルアンプはデジタル信号をDA変換すること無く、増幅まで持って行くことが出来、DA変換を必要とするアナログアンプに比べて、現代のデジタルオーディオに適合的な存在です。

しかしデジタルアンプは、増幅の出力段(パワー)において、LPF(ローパスフィルター)をかけねばなりません。
ローパスフィルターはデジタルの信号であるパルス波形からノイズの周波数を取り除き、オーディオの周波数だけを取り出す働きをします。
これによりフラットな位相が得られるのですが、しかし悲しいかな、出力を受け取るスピーカーの特性はフラットではありません。

フラットではない特性を持つスピーカーに、フラットな信号を入力したらどうでしょう。
シッチャカメッチャカ、バランスの悪い音になってしまいます。
特にスピーカーのインピーダンス特性は、低域における偏りが多く、デジタルアンプを通した再生では「遅い低音」となって認識されることになります。

これを「適切な低音」にする為にはどうしたらよいか。
位相を補正する他ありません。
しかし、相手となるスピーカーは千差万別。一口に補正をするといっても、スピーカーごとに特性が異なります。
あるスピーカーを基準とした補正で出荷しても、別のスピーカーでは不具合を生じ、全く困ったことになってしまいます。
この辺りが、ピュアオーディオの世界で今一歩デジタルアンプが受け入れられない要因なのでしょう。

しかしテクニクスは、このデジタルアンプ最大の弱点を思わぬ形で解決しました。
出来合いの補正回路ではなく、アンプ自身に位相補正を創りだす機能を与えたのです。
それが「LAPC」。接続されたスピーカーの特性をアンプ自身が測定し、個々のスピーカーに合った補正を自動生成するアルゴリズムです。

いわばデジタルアンプ(補正回路)のオーダーメイド。
オーナーの使うスピーカーに合わせて、これにふさわしい補正処理を行い、適切な音響表現を可能とする、仕立屋の如きアルゴリズムです。
キャリブレーションとはよく言ったもの。
まさにこの算法により、ディスプレイ補正と同様のキャリブレーションが、スピーカーにおいても可能となります。

デジタルアンプは数多くあれど、ここまで念の入った補正を行うデジタルアンプを、私は他に一つしか知りません。
それはSONYのS-Master PRO。
低域補正回路DCフェイズリニアライザーと自動音場補正機能D.C.A.Cにより、オーナーの使用環境に合わせた補正を可能としています。

ソニーS-Master PROは空間補正、テクニクスJENO EngineのLAPCは機器補正。
補正の方法論は異なりますが、きめ細やかな処理により、デジタルアンプの弱点をむしろ利点に変えていくのは素晴らしいことです。

LAPCの機器補正効果は、特に大音量の再生において顕著で、まさしく実体感のある音響再現が得られます。
JENO Engineに搭載されたジッター削減回路とPWM変換回路のためか、ノイズも大変少なく、交響楽におけるホールトーンの再現も見事になされておりました。
リファレンスシステムのSE-R1パワーアンプの中身を見せてもらいましたが、15kgもあろうかという巨大なトランスが搭載されており、余裕のある再生が可能そうです。
試聴室全体を覆うような大音量再生でも、そこまで熱くならないのもデジタルアンプならでは。
いずれのアンプも優れた出来栄えです。

一方で、スピーカーはまだ改善の余地がありそうです。

リファレンスシステムのSB-R1は、上部キャビネット(ツィーターとミッドレンジの同軸スピーカーを16cmウーハーで挟み込んだ仮想同軸構成のフルレンジ)に、下部キャビネット(16cmウーハー2つで構成されたサブウーファー)を加えた3.5ウェイスピーカーです。
上部キャビネットと下部キャビネットは中仕切り板で分離され、別筐体となっているわけですが、この繋がりがよろしくない。
バッフルポートが上下キャビネットのウーハーの後ろに設けられており、低音の抜けは素晴らしく、解像感も高く、ストレスを感じさせないものです。
しかし、どうにも音色の繋がりが今一歩な印象です。
低音が比較的ウォームで明るめな音色を持つ一方、同軸スピーカー(特にツィーター)の発する音が同じく高解像度なものの、クールで寒色系の音に感じられ、違和感を感じます。
その違和感はラヴェル「道化師の朝の歌」の様な管弦楽において顕著です。
ふくよかな太鼓の上に重なる、乾いたフルートの音。
なんというか、居心地が悪く感じられます。
他の音源でも、多かれ少なかれ、この特徴が感じられました。

この音色の違いはプレミアムシステムのSB-C700でも見受けられ、リファレンスシステムほどではないにせよ、リッチな低音とクールな高音がミスマッチな印象です。
量感そのものは全帯域に渡って問題なく、音域バランスも問題ないのですが、やはり音色が気になります。
バイアンプ駆動対応であれば、一定の対応も可能でしょうが、ネットワークは筐体内に収納されており難しい塩梅です。
低域と高域の音色の違いを言ってきましたが、この原因はもしかすると、間をつなぐスコーカーの中音にあるのかも知れません(カーボンスキン材・アルミハニカムコア材サンドイッチ構造平板振動板)。

もちろん音色はデータの話ではなく、感性的な問題ですので、違った受け取り方もあろうかと思います。
特に大容量のスピーカーについては部屋の影響もあり、SB-R1に対してビックロの試聴室が小さすぎるかも知れません。
またエージングによる変化もあり得る話ですので、経過観察が必要です。
あくまで、現状でのお話。

テクニクス・リファレンスシステム/プレミアムシステムの両システムは平成27年(2015)2月の国内発売を予定されております。
どちらのシステムのコンポーネントも受注生産品となっており、量販店などで注文をすると、これに応じて製造されるとの事です。
リファレンスシステムは国内生産で手作りであるとの事、プレミアムシステムはパナソニックのマレーシア工場での製作となるとの事でした。

またヘッドホン出力は専用アンプという訳ではなく、通常出力からの分離を行うとの事でした。

今回の試聴会を聴いていて印象的だったのは、「ハイレゾ」への言及でした。
何度も繰り返し言及される「ハイレゾ」対応。
なぜでしょうか。それはオーディオの歴史を鑑みれば、想像できます。

テクニクスが高級オーディオへの参入をやめたのは00年代。
パナソニック(当時は松下電器産業)が次世代オーディオと位置づけていたDVD-AudioがSACDとの競争に破れ、オーディオにおける主導権を失った時期です。
CD、MD、SACDとオーディオの主導権を握り続け、王者として君臨したソニーもアップルの攻勢の前に破れ、オーディオの主流が米国発のダウンロードコンテンツに移った現在。

ストリーミングメディアの波に逼塞していた日本勢は、いま「ハイレゾ」を旗印にオーディオの主導権を奪回しようとしています。

現在「ハイレゾ」と称される規格は、主にPCM(24bit以上)とDSD。
そして24bit以上のPCMとは他ならぬDVD-Audioの規格であり、DSDとはSACDの規格でした。
いずれもCDを越える高音質規格として10年以上前から研究されてきた規格です。
パッケージメディアは敗れたが、中身の規格技術は健在。
ならばこの技術をもってダウンロードメディアのシェアを取れば良い。
かくして「ハイレゾ」ムーブメントは始まり、いまに至ります。

国産オーディオの雄であったテクニクスの復活は、決して偶然ではなく、この流れに位置づけられるものです。
だからこそ新生テクニクスは「ハイレゾ」を十分に満喫しうる広帯域・高解像度を持った製品群として登場したのでしょう。
特にSU-C700は15万円代というミドルレンジでありながら、LAPC搭載のフルデジタルアンプ、DAC、ヘッドホン出力まで備えた、言わば「全部入り」モデルで、新生テクニクスの魅力が詰まったプリメインアンプであると感じられました。
アナログメーターと円筒状のボリュームの配置も端正で美しい。

新生テクニクスの製品群のデリバリーまであと2ヶ月。
オーディオ新時代を切り開くものとして期待したいところです。
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by katukiemusubu | 2014-12-15 00:15 | Ecouteur(ヘッドホン) | Comments(0)
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