14万部を突破したというトマ・ピケティ(フランス)の「21世紀の資本」。
この手の本がこれだけの売上を記録するあたり、読者層の厚みが感じられます。 簡単な要約と感想、日本にどれだけ適用しうるかという試論を記しおきます。 ピケティ(フランス)の「21世紀の資本」要約 従来、資本主義はその発展にともなって、格差を縮小させる方向に働くと考えられてきた。 アメリカの黄金時代(80S)におけるクズネッツの理論・研究がその典型である。 実際、1973年当時、トップ1%の総所得に占める割合は7.7%に過ぎなかった。 全体としても縮小傾向であった。 しかし、クズネッツと同様の理論・手法を現代に当てはめては如何だろう。 80年代後半から此の方、格差は拡大傾向にあり、トップ1%の占める割合は20%に迫っている。 すなわち、所得格差は資本主義の発展にともなって、拡大を続けていることが実証出来る。 すでに格差は1世紀前(1913年)の水準にまで逆戻りしているのだ。 ここ100年でのデータを算出すると、以下の公式が導ける。 r(資本収益率:富の拡大率:平均年4~5%)>g(経済成長率:全体の拡大率:平均年1~2%) ↓ 一方、日本はどうだろう(以下、私論)。 トップ1%の占める割合はアメリカ程大きくはなく、現代でも10%以下(9.5%)である。 1世紀前の格差水準は日米ともに殆ど変わらないので、アメリカの半分程度に抑えられている。 一見、格差が少ない様にも見える。 しかし、トップ10%に目を移してみよう。 日本におけるトップ10%が総所得に占める割合は90Sから上昇を始め、今では40%に迫っている。 同様の割合をアメリカについてみると、30%→48%であり拡大傾向は変わらない。 やはり日本においても、資本主義の発展にともない、格差は拡大しているのだ。 ↓ しかし、日米では格差を拡大している「層」に違いがある。 アメリカで富を集めているのは、上位1%の限られた超富裕層であった。 だが、日本で富を集めているのは上位10%の富裕層全般であるのだ。 ↓ 上位10%が富を占める割合は、日米で9%程度の開きがあった。 この差は日米の上位1%の割合差(日本9.5%・アメリカ19%、その差9.5%)とほぼ同じである。 すなわち、アメリカではトップ1%の躍進が格差拡大の原動力となったが、日本ではそうではない。 日本において格差拡大の原動力となったのはトップ2~10%の高所得者層(富裕層全般)なのだ。 日本が直面しているのは、人口比において「層の厚い」格差拡大と言える。 ↓ これを実証する数値がある。 厚生労働省の「国民生活基礎調査」を見てみよう。 一世帯(生活単位)あたりの収入は91年の660万円から減少傾向にあり、12年で550万円である。 そのうち年収300万円以下世帯の比率は95年の22%に対し、12年で33%まで拡大・深刻化。 一方で、一個人で580万円以上の年収を持つ富裕層は総所得の40%を占めるに至っている。 ↓ 90年代以降、急速に収入格差が広がりつつある。 ここ十数年、上位10%が富の4割を集める一方で、300万円以下世帯数は5割も拡大しているのだ。 高齢化に伴う年金生活者の増加という側面もあるが、勤労者層の収入減少・格差拡大も著しい。 円安に伴い名目上の賃金は増加したが、実質賃金は23ヶ月連続で低下している(H27.3厚労省)。 非正規労働者の比率は40%を越えており、正規と非正規、若年層の資本的格差は顕著になりつつある。 対策をとらない限り、トップ10%との格差(あるいは二極化)はこれからも拡大傾向となろう。 ↓ では、どうするのか。 ピケティは「格差があることを認識した上で、累進課税の加重等の対処をとるべきだ」と提唱した。 累進課税による所得再分配。定石の手法と言えよう。 しかし累進課税は、既になされている。アメリカで最高35%、日本で最高40%程度の課税だ。 寄付や控除で、ある程度の課税を回避できることを考えれば実質課税は30%前後であろうか。 それでも超富裕層の多いアメリカであれば、彼らを狙い撃ちにした累進課税をとる事が考えられる。 しかし超富裕層への一極集中というより、層の厚い資本集中が成立しつつある日本ではどうだろう。 いたずらに累進課税の比率を上げてしまえば、成長へのインセンティブそのものが失われよう。 つまり、ピケティ教授の議論をそのまま日本に当てはめることは難しい。 とはいえ、幾分ローカライズした形で議論を用いることは可能であろう。 ↓ 社会的に持続可能な発展とは何か。 成長を保ちつつ同時に格差を低減させる手法、グランドデザインはあり得るのか。 格差が存在しかつ拡大し続けていること、これを前提とした議論が、待たれるところである。 (個人的には「点への課税」から「面への課税」への転換、すなわち「消費税の増税と、その恒久的な目的税化による社会保険の再構築」が解かなと思っていますが、まだ検証の余地があります) ※参考までに。 アメリカのトップ1%の下限:35万ドル(≒4,000万円) アメリカのトップ10%の下限:10万5,000ドル(≒1,200万円) 日本のトップ1%の下限:1,300万円。 日本のトップ10%の下限:580万円。 高額所得者というと年収1000万円以上を連想されるかもしれませんが、 実際には日本のトップ10%の下限は年収580万円(2012年)であり、想定以上に幅が広いのです。 原題:Le Capital au XXIe siècle/米題Capital in the Twenty-First Century
by katukiemusubu
| 2015-04-22 13:05
| ブックレビュー・映画評
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