18禁!永青文庫 春画展 訪問記(感想・レビュー)

平成27年(2015年)9月19日、目白台の永青文庫で開催された「SHUNGA 春画展」へ行って来ました。
美術関係者各位の尽力と細川侯爵家の厚意とが結びつき、ついに実現された本邦初の本格的春画展。
いかなるものか、レビューして参りましょう。

※春画という美術形式は、男女(あるいは同性間)での性交渉を題材としたものです。
 その性質上、本記事は18歳未満の方の閲覧をお断り致します。





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はじめて、春画という芸術にふれたのは何時の事でしたでしょうか?
私が「春画」の存在に気が付いたのは大学の頃だったと記憶しています。

大学の教養科目の一つであった「日本美術史」。
当時、担当講師を勤めてみえたのが現・國學院大學文学部教授の藤澤紫先生でした。
藤澤先生は浮世絵師・鈴木春信の研究者として知られる人物です。

プロジェクター投影や版画(浮世絵)そのものを用いて「実物にふれる」事をコンセプトとした講義は抜群に面白く、
以降、私はすっかり近世絵師の虜となるのですが、その中でも投影された一つの絵に惹きつけられました。

それが、これ。
喜多川歌麿の画集「歌満くら」の一葉です。
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交接し、情熱的に口づけを交わす男女を描いたもので、
茶屋の二階でしょうか、二人の背後にはまだ中身の入った酒器や食器が見え隠れしています。
男女ともに表情は殆ど見えないのですが、男が力強く抱き寄せる女の肩と、女が男の顔にあてがう愛おしげな手つき。
表情などなくとも、息遣いさえ感じられる優れた枕絵です。

性の喜びと、情愛の深さが感じられる一葉で、見ている此方の心までほっこりする程。
扇子に書き込まれた「はまぐりの歌(大意:くわえられて離れられない)」を読むと解釈が深まります。
成る程、単に性的興奮を呼び起こすためのものでは無いな、と感じ入ったものでした。

しかし、春画が性的興奮を喚起するポルノグラフィーとしての側面を持つのも、また事実。
平成25年(2013年)には大英博物館で特別展「Shunga - Sex and Pleasure in Japanese Art -(春画ー日本美術に観る性と喜びー)」が開かれましたが、日本での凱旋展覧会は開かれず仕舞い。
日本橋の古美術商・浦上蒼穹堂の浦上満氏をはじめ、多くの美術関係者が開催を果たすべく力を尽くされましたが、結局、凱旋展はなりませんでした。

どこかの美術館が開催しようにも、クレームを恐れたり、あるいはスポンサー企業に手を引かれるのを恐れたりして、開催出来なかったのです。
この万難山積といった事態を跳ね除けるには、クレームを恐れず、またスポンサー企業がおらずとも活動できる美術館・博物館が必要でした。
昔風にいうならばパトロンが必要だったのです。

そこに現れたのが細川護煕元首相(内閣総理大臣)。
ご存知の通り、細川護煕氏は熊本藩54万石の領主であった細川家の18代目当主であり、旧華族制度でいえば侯爵に相当する人物です。
氏は自身が理事長である美術館「永青文庫」を有し、また政治的にも文化的にも高い知名度を持っています。
クレームに強く、スポンサー企業がなくとも活動できる旧侯爵家の美術館。
まさに理想的なパトロンの到来でした。
氏の「義侠心から今回の開催を引き受ける」という決断により、本邦初の本格的春画展は実現の運びとなったのです。

とはいえ、永青文庫も細川家伝来の事物を扱う美術館とはいえ、個人所有ではなく公益財団法人の形態。
協賛企業を求めておりましたが、現在に至るまで一社も手を挙げることはなく、運営資金はクラウドファンディングで募られています。
9月14日現在のサポーターは82人。
これを考えると、本展覧会は永青文庫と美術関係者各位の努力、そして細川氏と82名の支援者の手によって開催に漕ぎ着けたものと申せましょう。
春画展サポートプロジェクトは12月10日まで募集予定との事。
この記事を読んで下さっているあなたも、パトロンの一人となる事が可能です。
図録や招待券も付きますし、是非お一つ如何でしょうか。

※なお通常の展覧会と異なり、協賛企業のない本展覧会は招待券の市場流通が無いため、入場券を金券ショップなどで安く手に入れることはほぼ叶いません。


さて、前置きが長くなりました。
江戸川橋を渡り、目白台へ。永青文庫「春画展」初日を訪れました。
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見たところ男女比は6:4。
報道によると、英国の春画展では入場者数の約6割が女性という事でしたので、ちょうど逆というところでしょうか。
4割にせよ6割にせよ、かなりの比率には違いありません(※)。
チャタレー事件から59年。芸術性ある性表現の受容は遂にここまで来たのです。
初日の入場者は約1900人。永青文庫の過去最大入場者数の三倍超にも達し、関心の広さが伺えます。
※三日目に行った知人に訊くと、むしろ女性の方が多く居らしたとの事。日本でも英国と同じくらいの比率となるやも知れません。

永青文庫は4階建。
この内、2階から4階までの3フロアが展示室に当てられています。
入場券をもぎって貰い、上階へ。

会場へは4階から入ります。
まずは「プロローグ」。
その名の通り、交接に至る前の男女の様子が描かれた作品を展示。
鈴木春信「縁側に三味線」など、実に耽美。
裾に手を差し伸べ、まだ肌すらも覗かせませんが、静かに盛り上がる情感を感じさせます。
身八つ口からのアクセスが見受けられなかったのが意外と言えば意外。

第一展示室では「肉筆画の名品」が展示。
その名の通り、古くは鎌倉時代に遡る春画の数々が展示されており、性表現の多彩さ、巧みさに舌を巻きます。
平安時代では烏帽子はつけたままであったり、時代背景を感じさせる装束や調度品にも注目大です。
もちろん、中世に盛んであった男同士の性愛「衆道」を扱った絵も存在し、文化の奥行きを感じさせられます。
作者不詳「耽溺図断簡」の生生しさ、迫力に思わず足を止めて5分ばかり見入る。

続いて3階へ。
第二展示室では「版画の傑作」と題して江戸時代の浮世絵が大集合。
春画と言えば思い浮かぶ方も多いでしょう、葛飾北斎「喜能会之故真通(きのまのこまつ)」の一葉、蛸の触手に弄ばれる女性の図もこちらに御座います。
単品の絵というよりも、画集(好色本あるいは私家本)として纏まったものが多く、会期中に場面(ページ)の入れ替えが行われる予定であるとの事でした。

第二展示室は永青文庫の中でも最も広く、見どころも目白押しですが、
ギャグの効いた笑い絵というべきものから、セリフまで書き込まれた成年コミック的なもの、
上に挙げた歌麿の「歌まくら」の様な淡麗な作風まで、セックスとはここまで表現可能性があるのかと目を見張ること間違いなしの空間です。
第一展示室では口数少なめだった観覧者もそれぞれに感想を述べ、神妙ながらも賑やかな様子。
ユーモアとエロス、それぞれが高い次元で交わった、まさに大人のための絵画鑑賞会と化しています。

次は2階、第三展示室へ。
こちらのお題は「豆本の世界」です。
豆本とは縦9cm、横13cmくらいの小さな本。文庫本を二回りくらい縮めたサイズです。
未だ研究段階のものが多く、初公開の品が過半を占めます。
昔の人々は、これを密かに交換して楽しんでいたりしたそうで、トレーディングカード的な感覚でしょうか。
同好の士が集うというのは今も昔も変わらないな、と感慨にふけりつつ。

そして最後、「エピローグ」です。
ここには細川侯爵家に伝わる二種の春画が展示されています。
狩野派の作品「欠題十二ヶ月」と歌川国貞の作品「艶紫娯拾餘帖」。
多色刷りによる鮮やかなグラデーションに、女性の黒髪や着物の柄が浮き出る様なエンボス加工。
まさしく当時の工芸水準の数寄を凝らした超絶技巧作品で、大名遊びとはこの事だと驚嘆しました。

という事で観覧終了。
展示数は100を少し越える程度かと思いますが、会期中4度の展示替えを予定しているそうで、複数回訪問するのも楽しそうです。
11月7日と12月5日は着物Day(着物デー)として、着物着用者は入場料が700円引きとなり、800円だとか。いずれも土曜日です。

永青文庫本館を出て、別館へ向かいます。
永青文庫本館は細川侯爵家の家政所だったそうですが、別館は何であったのか。
庭を少しだけ歩くことが出来ますが、立派な木に掛けられた所有者表示「細川護熙」が印象的でした。
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本館から徒歩1分。
別館に到着。別館では物販コーナーが開かれています。
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室内の撮影は不可とのことでしたので写真はありませんが、春画グッズが盛り沢山。
和綴じ風に製本された図録(税込み4,000円)をはじめ、ポストカード(絵葉書一枚162円)からベットカバー(162万円)に至るまで価格差1万倍のグッズ群。

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こちらは図録。重要な注意書きが付属しています。
紙質が良く、印刷も綺麗。解説も収録されています。
5冊セットにつけられた包装紙も素敵です。

交通広告でも目を惹いていた、鏡に写る足の裏が色気を醸し出すポスター。
元絵は喜多川歌麿「ねがひの糸ぐち」第11図です。
正常位での交接を描いた元絵から上手く切り出したもので、トリミングの巧みさ、デザインの素晴らしさを実感させてくれます。
こちらは紙製で、お値段1万800円也。
ポスターや図録を含め、本展のアートディレクションは高岡一弥氏がご担当だとか。

複製版画も発売予定とのことでしたが、こちらは当局(大塚警察署)の確認待ちとの事で受付は未定。
春画を大胆にあしらったトランクス(4,320円)や縮緬の座布団、風呂敷(確か1万円台前半)もありましたが、こちらも同様の理由で予約のみ受け付け、後日(販売が可能であったら)販売とのこと。

1,620,000円と目を剥く価格のベットカバーは、シルクとベルベットで作られた超高級品。
シルクの面に春画が友禅染めされており、大変精細で、かつ上質な触り心地でした。
このお大尽遊びというべきBedspreadは、図案が三種から選択でき、製造は京友禅の老舗・岡重が担当とのこと。

その他、マグネットや手拭いが販売、トートバック、布バッグなどが販売予定とのことでした。
布バッグは大変面白く、同一絵師による続き物の絵を用いており、
外から見える図案はいわゆる「プロローグ」、露出のない絵ですが、内側には「行為の最中」の絵が描かれており、絵画ということもあって無修正、インパクトのある仕上がりになっています。
果たして警察署はOKと言ってくれるのでしょうか。
開催に際しても、担当警察署とは綿密な打ち合わせを行っていたそうで、警察署のご理解を祈るばかりです。
公式サイトの物販案内が「coming soon」表示のままなのは、この打ち合わせが影響しているのかも知れません。

そんな次第でアパレル類は大半が発売日未定(近日発売)、あるいは受注生産という形でしたが、その中で発売していた商品が一つ。
それが、これ。
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春画Tシャツ(4,320円)です。綿100%、日本製。
菱川師宣のもの二種(赤・黒)と鳥居清長のもの一種(白)がありましたが、こちらは清長のもの。
元絵は鳥居清長「袖の巻」です。会場では11月3日から12月23日まで展示予定。

性愛中、いわゆる「合体している部分」にポケットが縫い付けられており、これがホントの袋綴じ。
覗き込むともちろん局部が丸見えです。
アバンギャルドというか、マッドなまでに文化的というか。
思わず購入したのは言うまでもありません。
Tシャツについては限定数売り切り制とのことで、在庫がなくなったら基本的に再販はしないとのこと。
これまた警察署との相談の結果ということでした。

奥深い展示に、充実したグッズ。
大英博物館からも浮世絵を借り出しており、海外からの注目も伺えます。
外国人の来場者もかなり見受けられました。
東京のみならず京都巡回(細見美術館)も決定したそうで、広がりを見せる春画展。
これまで秘され封じられてきた芸術に触れる又とない機会です。
是非一度、御覧になってはいかがでしょうか。
※9月20日からは銀座・永井画廊でも春画が取り扱われるそうです。



追記:永青文庫周辺の建築について

永青文庫の近くには、ホテル椿山荘東京(旧山縣有朋公爵邸)や蕉雨園(旧田中光顕伯爵邸)があり、かつての華族社会を偲ばせるものがあります。
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写真は蕉雨園。
現在は講談社の私有地で基本的には非公開。
講談社野間記念館の企画で特別公開されることが御座います。
大池が設けられており、紅葉の時季の庭はそれは綺麗なものだとか。

また細川侯爵邸の跡地には男子学生寮「和敬塾」があり、侯爵家本邸も和敬塾本館として健在です。
和敬塾は作家の村上春樹氏が寄宿していた事でも知られており、「ノルウェイの森」にも登場するスポットです。
ファンにはたまらない事でしょう。
普段は関係者以外立入禁止ですが、春画展シンポジウム時には本館を開放予定との由。

椿山荘は久留里藩黒田家→山縣公爵→藤田男爵と所有者が転々と変わりましたが、
時々の所有者によって作庭に工夫がこらされており、都内でも屈指の造形がなされております。
三重塔やほたる沢など、見どころが多く、一般公開されているため、永青文庫鑑賞後のティータイムにもオススメです。

椿山荘の向かいには建築家・丹下健三の手になる東京カテドラル聖マリア大聖堂(関口教会)が。
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カトリック東京大司教区の司教座教会であり、丹下建築の最高傑作とも称される建築物です。
礼拝や行事の時を除いて、キリスト教徒でない方も立入りが許されており、見学が可能です。

こうした見学を合わせると、より充実した美術館賞となるのではないかと思います。
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by katukiemusubu | 2015-09-21 21:24 | 生活一般・酒類・ウイスキー | Comments(0)
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