剱岳 別山尾根 日帰り登山(室堂発ピストン) その2

8月20日、北アルプス・劔岳(標高2,999m)に日帰りで登ってまいりました。

始発バスで室堂に到着し、7時30分発。
雷鳥沢を経て、別山乗越、剱沢、別山尾根を経て劔岳山頂へ。
復路はそのまま別山尾根をピストン。
室堂に帰着したのが17時15分。
9時間45分の山行ログを綴ります。
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こちらは下山編。
登山編はこちらのリンクを参照下さい。



剱岳山頂(標高2,999m)。時刻は12時10分。
ホワイトチョコレートとナッツ類を混ぜた携行食をパクつきながら、ここまでの行程と今後の行動を考えます。
朝7時半発でしたから、室堂からの往路に要した時間は、4時間40分。
標準タイムが6時間45分ですから、悪くない速度と言えます。

一方、復路の標準コースタイムは6時間15分。
通常、アルプスの登山道の場合、往路・復路のコースタイムは復路が往路の2/3掛けくらいになるのですが、
室堂発の別山尾根ルートの場合、往路・復路のコースタイムは近似しています。
例えば、同じ剱岳の登山道でも馬場島発の早月尾根ルートの場合は、往路9時間に対し復路6時間。
これは登り基調の往路に対し、復路が下り基調となるために生じる差ですが、別山尾根の場合、この差が殆どありません。
つまり別山尾根ルートとは、登り基調とも下り基調とも言い切れない、アップダウンを激しく繰り返すルートである、ということがコースタイムからも伺えます。

この事情を鑑みると、山頂についたから、あとはラクラク下山といった話にはなりません。
地形図から読み取れるだけで、下山ルートの累積標高差は+660m。
下りのはずなのに累積標高差がプラス500m超という時点で何かがおかしいのですが、
ともかくも、もう一山登る気分でいなければ、日帰りピストンは叶いません。

ところで最終バスは17時40分でした。
残すところ5時間30分。
余裕を見て発車15分前の17時25分には室堂バスターミナルについておきたいところですので、実質5時間15分。
行きでは2時間を縮めましたが、消耗した体力と天候を考えると、ここからの登りで1時間を縮めるというのはなかなかの難易度です。

そして、ウェット&スリップとなった路面状況で焦って事故を起こしては元も子もありません。
そこで一服剱までの岩場区間においては安全第一に、コースタイムを捨象して行動することと致しました。
剣山荘到着時点で時間を確認し、その時間によってそこからタイムトライアルを仕掛けるか、山小屋泊とするか、判断することにしました。
腕時計の計時モードを解除し、標高と気圧のみを表示させる様にします。

さきほど追い抜かせてもらったパーティの到着と入れ違いに、12時20分、下山を開始しました。
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それにつけても視界の悪さよ。

早月尾根ルートと別山尾根登り・降りの計3ルートの分岐を示す方向指示板を目印に、主稜線を下っていきます。
別山尾根ルートは槍ヶ岳などと同じく登り・下りのルートが別につけられていますが、登りルートでは稜線東寄りからのアクセスとなりますが、下りルートでは稜線西寄りからのアプローチとなります。

12時30分、カニのヨコバイ取り付き点。
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カニのヨコバイもタテバイと同じく三層の構成となっております。

つまりは写真に見えている斜めに掛けられた5mほどの鎖を伝っての傾斜下降区間、
続いて水平少し斜め下向きの10mトラバース区間(核心部)、
そしてトラバース終了点からの垂直5mの下降区間、この三段階です。

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看板を見ると雨粒でぐっしょり。
気を引き締めて下降に入ります。

傾斜下降区間をするすると通過。
さて、核心部トラバース区間です。
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物の本に書かれている通り、一歩目が見えない。
ややオーバーハング気味の岩に遮られて、足の置き場が把握できません。

こういう場合は、一旦、身体を岩肌から離して、下を覗いて足場を確認する対処が有効です。
片手でガバを掴み、もう一方で鎖を握る。右足を手近な溝に蹴り込み、身体を宙に浮かせます。
見えました。左側、せり出した岩の直下に幅30cmほどの足場。
鎖を軽く手繰り、重心を左へ。宙に浮かせた左足をスタンスに着地させます。

なるほど、高度感もあり、渋滞がおこりそうな場所であります。
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足場を振り返るとこの様な具合です。赤色の部分。

地面までの高低差が50m程度あり、ぞっとしない足場です。
しかも手前に傾斜しているのが何ともいやらしい。
以降のトラバースは、一歩一歩すすむたびに、両足を添えて進行しました。
手足の順送り。たしかに蟹の様な動きです。

垂直の下り区間を終えると、少し開けた場所に出ますが、そこから直ぐにハシゴが始まります。
ハシゴは金属製で、雨が降るとよく滑ります。
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垂直差は10mほど。枠をむんずと掴み、土踏まずを段に下ろしてゆっくりと降っていきます。
慎重に細心に。

ハシゴが終わった直後から15mほどの傾斜下降の鎖場となり、これを抜けると、主稜線の真下・簡易トイレの前に出ます。
トイレで用を足し、岩場を回り込んで平蔵のコル(標高2.820m)へ。
ここまでは下り一辺倒でしたが、平蔵のコルからは再びアップダウンが再開されます。
危険区間の終了点こと一服剱(標高2,618m)までの岩場の縦走区間は、残すところ1km程度。
標準コースタイムは70分です。

まずは平蔵の頭(標高2,840m)へと取付き、これを登る。
続いて名称のない岩峰群の間を登りつ降りつ、すり抜けていきます。
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行きで難所と感じていた「前剱の門の岩峰」ですが、
こちらは登りとはルートが異なり、トラバースがありません。
その他、登山ルートと下山ルートが分岐している場所が複数箇所ございました。

前剱大岩の下を抜けて、一路、南へと下る。
前剱の門から前剱(標高2,813m)への登り、前剱から武蔵のコル(標高2,570m)への下降、そして一服剱(標高2,618m)への登り。
アップダウンがボディーブローの様に効いて体力を奪っていきます。

じわりじわりと削れゆく集中力、一向に改善しない天気。
蓄積された疲れは脳に悲鳴を伝え、酸素の薄さもあって意識がうつらうつらとしてきます。

そのため、一服剱の山頂に立った時にはホッとしました。
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ちょうど標高2,600mあたりが雲の下限らしく、剱沢は見通しの良い天候となっています。

一服剱から剣山荘に至る標高差150mほどの急な下りを浮石に気をつけながら通過。
剣山荘(標高2,475m)に到着しました。
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危険箇所終了です。

腕時計を計時モードに復帰。時刻は14時25分。
案の定、標準コースタイムよりも遅れています。
それは安全重視の結果ですから、特に文句の言うべくもなし。

さて、問題はここからどうするか、ということです。
最終バスまで残すところ3時間15分。
標準コースタイムは4時間。果たして能うか。

特にここからは別山乗越の剱御前小舎(標高2,760m)まで、標高差300mの登り区間であり、
道幅が広く、比較的安全な道とはいえ、残り体力でコースタイムを詰められるかというと悩ましいところです。

ひとまず剣山荘に入ってポカリスエットを買い求めます。
剣山荘は山中には珍しい温水シャワー完備の山小屋で、宿泊者であれば13時〜17時の間の任意の時間に使用することができます。
トイレも洋式ですし、水道からは飲料水が出るという充実ぶりで評判の山小屋です。
ここに泊まるも一手。

しかしネガティブな要素もありました。
山小屋に張り出された天候を確認すると、明日の天気は雨だったのです。
しかも大型の低気圧が迫っており、暴風雨の可能性すらあります。

一泊して身体を休めたとしても、翌日には雨の中を4時間、室堂に向けて歩くほかはなく、
この条件を加味すると、曲がりなりにも雨雲に巻き込まれないうちに、下山するほうが安心ではないか。
幸いにして疲れているとはいっても歩けない程のものではない。
仮にタイムアウトになったとしても、より室堂に近い剱御前小舎や雷鳥沢まで進出して泊まったほうが、ベターな選択となる。
そういった次第で、下山する事といたしました。

そうと決まったら快速進行。
ポカリスエットを飲み干し、ザックにはいっていたカロリーメイトを3本食します。
空になったペットボトルに水を詰めさせてもらい、パッキングを行い、14時30分に出立しました。

行きは剱御前岳の中腹を巻いていくトラバースルートを選択しましたが、帰りは剱澤小屋の前を通り、剱沢キャンプ場を抜けて行く定番コース・剱沢ルートを選択します。
見れば雲は標高2,530mあたりまで降りてきており、目前にあります。
途中で雨に見舞われることを考え、ハードシェルは着用したままで行動することにいたしました。

シャリバテ&脱水気味だったのか、それとも精神的なつかえが取れたためか、体調は至って爽快。
再び高度を上げ、雲の中に突入します。
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剱沢キャンプ場はテントが多く張られているらしく、賑やかな様子ですが、あいにくと視界が効かないため足早に通過します。
ぼんやりとテントの群れが浮かび上がり、白い闇のなかから人の声ばかりが響く様子は、一種独特の趣きがあり、すこしホラーチック。
しかし声をよく聞くと、生活感にあふれたもので、お化けのそれとは異なり一安心です。

そうこうする内に三田平を抜け、立山別山への登山路との分岐に差し掛かりました。
分岐を示すケルンと標識。
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ここは右(南西方向)を選択し、一路、別山乗越を目指します。

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15時10分、剱御前小屋(標高2,760m)に到着しました。
標準コースタイムの2.1倍。
剣山荘での休憩時間を差し引いても40分の短縮となり、ずいぶんと余裕が出てきました。

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室堂方面をみると、雲が切れ、弥陀ヶ原の向こうに雲海が展望できます。
これは好機。

一気に雷鳥沢まで下ってしまうことにしました。
剱御前小舎のトイレをお借りし、すぐに出発。
洋式もあり、お腹を壊したさいにも助かりそうです。

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立山地獄谷の噴気(火山ガス)を眺めながら、雷鳥坂を勢い良く下っていきます。
重心は下げ気味に、石を蹴上げない様にすり足で。

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15時40分。雷鳥沢・浄土沢にかかる浄土橋。
立山三山の方面を眺めると雄山・大汝山は雲に閉ざされております。

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雷鳥沢キャンプ場を過ぎ、長い石段を登り、室堂平方面へと歩みを進めます。

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雷鳥沢ヒュッテ前。16時ちょうど。
ここから室堂バスターミナルへの標準コースタイムは1時間。バスの出発まで1時間40分。
剣山荘からの進行が功を奏し、予想外に時間的余裕が生じました。

せっかくなので温泉でも入って行きたいところ。

室堂周辺には地獄谷を泉源とする、日本最高所の温泉地帯があるのですが、
室堂周辺の山小屋・ホテルのうち4件で温泉に入ることができます。
すべてにおいて、日帰り入浴は可です。
それぞれの諸元を書くと以下の通りとなっております。

1.みくりが池温泉
ポイント:日本一高所にある温泉(標高2,410m)。展望内湯男女各1つ、露天なし。
泉質:Ph2.28。源泉温度45.0度。自然湧出泉(毎分60L)、単純硫黄泉(276mg)。薄乳白色。
湯使い:無加水・無加温の源泉かけ流し。あつ湯とぬる湯の2浴槽あり
日帰り営業:9:00から16:00まで。一人700円、レンタル浴衣300円

2.らいちょう温泉雷鳥荘
ポイント:標高2,370m。2階に展望浴室(内湯)男女各一つ、サッシを開くことが出来、半露天に近い。
泉質:Ph2.12。源泉温度63.2度。一部造成泉(毎分42L)。単純酸性泉(630mg)。水色っぽい乳白色。
湯使い:源泉かけ流し(加水)。また熱交換器を用いた湧水内風呂が1階にある。
日帰り営業:11:00から19:00まで。一人600円。

3.雷鳥沢ヒュッテ
ポイント:標高2,285m。2階に内湯男女各一つ、屋外に露天風呂男女各一つ。繋がっていないため、着替えて出入りする必要あり。
泉質:Ph2.69。源泉温度81.3度。自然湧出と思われるが湧出量不明。単純酸性泉(918mg)。外湯はどろりとした灰色。若干の湯泥を含む。/内湯は成分表記なし。ただし「地熱の温度でうんぬん」という張り紙があるため、恐らく造成泉。
湯使い:外湯は無加水・無加温の源泉かけ流し。ただし熱交換器もなくそのまま注がれているため、温度が高い場合あり。湯もみ板および加水用の冷水あり。/内湯は源泉掛け流し(加水)。
日帰り営業:10:00から19:00まで(但し変更の場合あり。要電話確認)。一人600円。

4.ロッジ立山連峰
ポイント:標高2,300m。展望内湯男女各一つ、露天風呂(小型。2名サイズ)男女各一つ。内湯から露天へ行ける。
泉質:成分分析表なし。系列の雷鳥沢ヒュッテ内湯と同じ造成泉? 青みがかった乳白色(少し白濁)。
湯使い:おそらくは源泉掛け流し(加水)。加水は任意に行えるが、ボイラーがないため量に注意の表記がある。
日帰り営業:10:00から16:00、18:00から19:00まで(但し変更の場合あり。要電話確認)。一人600円。

みくりが池温泉以外の三湯が、なぜ19:00まで営業をしているかといえば、近隣のキャンパーからの需要があるためです。
ちょうど雷鳥沢ヒュッテであれば入浴できそうでしたので、内湯のみザブンと入浴。

16時30分には風呂を上がって、着替え、室堂平に向けて歩き出しました。
さて、雷鳥沢ヒュッテの標高は2,285m。室堂バスターミナルの標高は2,432mです。

最後の登りの標高差は約150m。標準コースタイムは1時間です。
とはいえ、整備はきっちりとなされた道(≒遊歩道)であり、さしたる労苦ではあるまいと思っておりました。
しかしお風呂に浸かってすっかり休憩モードとなった身体には、なかなか酷であるらしく、剱沢を登った時とは真逆のゆっくりとしたペースで、ひーこら進んで行きます。

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階段を15mほど登っては息をつき、また15m登っては息を継ぎ、よろよろと登る。
左(東)に賽の河原の血の池をのぞみ、右(西)にリンドウ池をのぞむ、この歩道は見ごたえのある景勝地でもあります。
そうして、室堂最大の湖沼・ミクリガ池(3万平方メートル)のほとりを歩き、室堂平の玉殿湧水まで戻ってきました。

17時15分、室堂バスターミナル(標高2,432m)に到着です。
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室堂山荘とホテル立山を眺めつ、湧水で水分を補給します。

これにて本日の山行は終了。
剱岳方面に向かって一礼し、最終バスにて室堂を後にしました。
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暮れなずむ雲海を眺めていると、ふと、山側でも雲が動く気流が見えました。

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そうして現れる“岩と雪の殿堂”剱岳。
「試練と憧れ」とは冬の剱岳の玄関口となる馬場島に掲げられた文言ですが、
その名に違わぬ様々な能力を要求される登山となりました。

ほとんど行う人のいない室堂発の剱岳日帰り登山。
今回の登山で、東京からでしたら24時間以内に往復できることが確認されました。
もちろん万人向けではございませんが、体力や技術の一つのメルクマールとして面白い山登りではないかと存じます。
16時30分までに室堂へ戻れれば、アルペンルートで信濃大町方面へ出ることも可能です。
こんなトレイル、如何でしょうか。
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by katukiemusubu | 2016-08-25 22:20 | 登山・トレッキング・温泉 | Comments(0)
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