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エプソン MOVERIO(モベリオ)BT-100 レビュー (六本木ヒルズ先行展示)

2011年は後に、「ヘッドマウントディスプレイ仕切り直しの年」と言われるかも知れません。
11月11日には、世界初の有機EL採用HMD、SONY HMZ-T1が発売されました。
一方、独カールツァイス社からは同じく有機EL採用のCinemizer OLEDが発表、
米SiliconMicroDisplay社からは液晶ながらフルHD(1080p)対応のST1080が発表されています。
これら欧米の二つは発売日時も発売価格も未定ですが、
諸社から次々とHMDが発表されるこの状況は、HMDが隆盛した90年代末〜00年代初頭を思わせるものが有ります。

そうこうする内に、日本から新たなHMDが発売されました。
今度のヘッドマウントディスプレイは、信州・諏訪から。セイコーエプソン社、MOVERIO(モベリオ)BT-100です。
発売は11月25日、価格は公式通販(EPSON Direct)で59,980円。
民生機としては世界初のシースルーモバイルビューワーとなります。
※独立型として。接続型としてはグラストロンPLM-A55(1998)があります。
早速見てきましたのでレビューをして行きましょう。



エプソン MOVERIO(モベリオ)BT-100 レビュー (六本木ヒルズ先行展示)_c0124076_171655.jpg

モベリオを体験してみて驚かされるのは、シースルービューの実現する圧倒的な開放感です。
シースルービューとはその名の通り、透けて見えることですが、moverio BT-100の場合、映像の背後を透かし見ることができます。
背後が見えることで、通常の視界と一体化して提供されるそれは、まさしく未体験の映像体験。
宙に巨大な画面が浮いて見えるのです。

この方式の最大の利点は、通常視界とディスプレイ画面を同一化することで、
これまでのHMDにつきものだった視野角の問題を、実質的に無効化出来ることにあります。
先日のCinemizer OLED vs HMZ-T1の記事で書いておりましたように、
これまでのHMDは密閉された環境で、数センチ先にある小さな画面を、光学レンズでもって拡大して見てきました。
拡大されれば、その分大きく見えそうですが、
ここで重要になるのが視野角で、視野が人間の実効視界(視野角約45度)に比べて限定されてしまうと、
脳は遠近感に違和感を覚え、大きく見えるどころか遠く・小さく見えてしまうという欠点がありました。
例えば、顔の左右に本を当ててこれを内側に狭めてみると、
隙間に見えるものに焦点を合わすのは困難になり、また本当よりも遠く・小さく見えることが実感されると思います。
そのため、密閉型のHMDで謳い文句どおりの画面の大きさを体感するためには、
本を大きく外に広げること=視野角を人間の視界に近づけることで違和感を解消することが必要になりました。
民生機としてはじめて視野角45度を実現し、この問題を解決したのがソニーのHMZ-T1です。

一方、密閉型に対するシースルー、光学透過型はまったく異なる方法でこの問題に対処しました。
すなわち、そもそも密閉された環境で小さな画面を見ようとするのがいけないのであって、
日常生活と同じく、開放された環境で画面を見れば良いのだと発想を切り替えたのです。
先程の「顔の左右に本を当てる」例で申しましょう。
密閉型では、本の間隔を広げる努力をすることで限定された視界を大きくしようとしてきました。
しかし、光学透過型が採る方法は根本的に異なります。
視界を限定している物があるならば、その障害物そのものを透明にしてしまえば良いと考えたのです。
本であれ何であれ、視界を限るものが透明であれば、視野の限定はなく、通常の視界となにも変わることはありません。
そのため、如何なる視野角のものであろうとも、もはや視野は限定されず、脳が違和感を感じることも無くなります。
これが光学透過型の編み出したブレイクスルーです。

光学透過型には二種類の実現方法があります。
一つは超小型のプロジェクターでもって直接網膜に映像を投影すること。
もう一つは、小型のプロジェクター/画面とハーフミラーを用いることで、目に映像を投影しつつも、現実の視界を妨げない様にすること。
前者を網膜投影方式、後者を虚像投影方式といいます。
網膜投影方式は大変鮮明な画像を見ることが出来るのですが、
しかし眼球の動きに追随するために網膜走査が必要となる等、大変なコストがかかり実用化が困難でした。
※ちなみに網膜走査ディスプレイも2011年に実用化されています。ブラザー工業「エアスカウター」です。
しかしやはりコストがかかり、価格は40万円〜との事。また民生機ではなく業務用です。

一方、虚像投影方式は、鏡で反射させた虚像を目に投影するため、
鏡の反射率などにより画像が暗くなりやすかったのですが、光学技術の進歩により、これは改善されつつありました。
また網膜走査は必要なく、網膜投影方式に対して安価に透過型を実現できるのも利点です。
そこでMOVERIO BT-100がとった方法は後者でした。
BT-100は眼鏡で言うツルの部分、左右のそれぞれに液晶プロジェクターを一基ずつ、計2台内蔵しています。
プロジェクターから出力された映像は、眼鏡でいうレンズの部分に設置されたハーフミラーに当たり、
反射、目に投影されることになります。
ハーフミラー、別名マジックミラーともいいますが、これは光を反射しつつも、背後の光を透過する特性をもっておりますので、
結局、目はプロジェクターからの出力映像、背後の景色双方を同時に捉えることが可能です。

エプソンはインクジェットプリンタやスキャナ、プロジェクターで知られる精密機器メーカーですが、
特にプロジェクターの世界においては、世界シェアの4分の1以上をしめるトップ企業です。
今回のシースルービューワーには、そのプロジェクターの技術が詰め込まれているものと言えましょう。
エプソン自身が「光学原理、その発想から違う。」(カタログでの文言)と大見得を切るのもあながち嘘ではありません。

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なによりもこの投影方式の凄まじい点は、
遠くを見れば見るほど画面が大きくなるという事にあります。
小さな画面をレンズで拡大していた従来のHMDとは違い、
目に映像を投影する方式を採用したBT-100では、どんな時も全体の視野に占める映像の割合は変わりません。
近くを見るときも、遠くをみるときも常に一定の割合で映像が映し出されるのです。
この割合を示すBT-100の視野角は23度。2m先の32型をみているのと同様の視野角ですが、
光学透過型の実現する遮蔽感のない視界によって、この画面のサイズは大きく変化することになります。
端的に言ってしまうと、目が焦点をあわせている距離によって無限に大きくなり、かつ無限に小さくなるのです。
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2m先のものを見ていれば、32型相当です。
しかし、5m先であれば80型相当、10m先であれば160型相当の大きさの映像が視野を占めることになります。
常に視界の23度分を映像が占有しますので、遠くのものに目の焦点を合わせれば合わせるほど、
つまりは視界が広くなれば広くなるほど、その分、23度分の画面も大きいものとして認識されるのです。
20m先であれば320型、100m先であれば1600型の画面相当。
ここまで来るともはや意味不明の大きさですが、理論的には1km先を見れば1万6千インチの画面が体感されることになります。

今回の展示場は六本木ヒルズ52階・東京シティビューにありましたが、私が見に行った際は、生憎の雨模様で、外の展望が望めませんでした。
しかし展示場で1m先の壁を見ている時と、7m先にある展示場出口を見ている時とでは全く画面の大きさが異なり、実に驚かされました。
私は自室に80インチのホームシアターを構築しているので大画面には比較的慣れているはずですが、
7m先の場合、自室のそれよりも明らかに大きく100インチ以上に見えました(理論的には112インチ)。
モベリオをお試しの際は、出来るだけ遠くをご覧になって確かめてみられると宜しいかと思います。

解像度や画質についてはどうでしょうか。
MOVERIO BT-100の解像度は960×540ピクセル。
1280×720ピクセルのハイビジョン解像度を誇るHMZ-T1と比べると少し小振りな解像度です。
次期モデルは是非ハイビジョン解像度に対応して欲しいところ。
それでも、DVDの解像度よりは上ですので、DVDを変換して持ちだしたりする分には十分な解像度と言えましょう。
画質については、プロジェクタらしいコンストラストのよく効いた画質で、メリハリがあります。
視聴用に入っていたのは、S・スピルバーグ監督の「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」予告編。
この予告編、主人公が家を出て街を歩くシーンからはじまりますが、街の色鮮やかさが綺麗に表現されます。
特に黄色や青の光沢感が印象的です。一方、黒の沈み込みは透過型ということもあって普通のテレビと同程度。
流石にHMZ-T1の色再現性には負けますが、それでも液晶プロジェクタでここまで頑張れるとは驚きです。
砂漠のシーンもあるのですが、砂嵐の迫力もなかなかのもの。
3D版も入っていたのでこれに切り替えると、タイトルロゴなども立体感を持って迫ってきます。
BT-100は、3D方式としてサイド・バイ・サイド方式に対応しております。
この方式は1フレーム内に左右の眼用の画像2枚を格納し、ディスプレイ側でこの2枚を分けて、左右の眼に異なる画像を表示させて、立体感を表現する試みです。
水平解像度が半減してしまうという難点がありますが、
左右の目に違う画像を表示できるため、左右それぞれにディスプレイがあるHMDには適した方法と言えましょう。
通常の3Dテレビで感じるような違和感(クロストーク)は全くなく、自然な立体感が楽しめました。

着用感について、ピント調節機能は無いため眼鏡は外せません。
そのため眼鏡装着のまま、Moverioを被りましたが着用感は特に問題ありませんでした。
ツルの部分の内側に設置されたクッションが上手く眼鏡と筐体との干渉を防いでくれています。
MOVERIOはヘッドセット部についても、Andoroid2.2を搭載したコントローラー部についても日本製なのですが、国内の製品らしいこまめな気遣いがあるのは嬉しい事です。
但し、幅15cm以上の眼鏡には対応できないとのこと。
側圧のかかり具合は適度で、240gの重量が上手く分散されています。
掛けている感覚は、ちょっと大きめのメガネといった具合です。

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透過型である事に加え、モベリオBT-100のもう一つの特徴として、
バッテリー駆動ができるという事が挙げられます。
駆動時間は6時間。しかもスタンドアローンです。
スタンドアローンとはどういう事かと言いますと、外部機器との接続なくその機器のみで完結した動作が可能だということです。
BTー100の場合、バッテリーを兼ねるコントローラー部にOS:Android2.2を搭載することでこれを実現しています。
スマートフォンなどによく用いられるOSですね。
ウェブブラウザや音楽再生の他、パソコンから転送することで各種アプリにも対応しています。
コントローラー部は、OSの他、内部メモリ1GB、外部メモリとしてmicroSDHC32GBまで対応可能で大容量。
無線LANによるインターネット接続が可能など、ちょっとしたスマートフォン顔負けの機能を有しています。

Android2.2はFlash Player10.3に対応しておりますので、
You Tubeはもちろんのこと、iPhoneなどでは見られなかったニコニコ動画などのFlash採用サイトも視聴することが可能になります。
例えば、同じくFlashがベースのバンダイチャンネルが月額1000円で映像見放題のサービスを行なっていますが、
これに加入して、いつでもどこでも大画面で映像視聴なんて楽しいかも知れません。
映画視聴にしてもデジタルコピー付きのBlu-rayを買えば、これを転送するだけで映画を持ち出せます。
勿論音楽の再生もでき、MP3やAACの規格に対応しています。
つまりモベリオはそれ単品で、マルチメディアプレーヤーにもなるのです。
コントローラー部「EPSON」のロゴの下にに広がる四角形のスペースは、画面ではなくトラックパッドで、マウスの代わりに指でのタッチ操作が可能。
下にあるメニューキーや方向キーでも同様の操作が可能なので、タッチ操作が苦手な方にも配慮されています。
その他、コントローラー部はステレオミニジャックを搭載し、付属のイヤホンの以外にも、ヘッドホン・イヤホンの使用が可能です。
付属のイヤホンの音質は良いものとは言い難く、他のイヤホンを使われるのも宜しいかと思います。
また透過型らしい機能として、画面の輝度調整も可能で、その時々の天候・環境に合わせた明るさ調整が可能です。
惜しむらくはスタンドアローンにこだわりすぎて、外部入力端子を有していない点でしょうか。
HDMI入力を備えていてくれれば、PCやPS3に接続するなどの用途が広がったでしょうに、これが省かれているのは少々残念です。

しかし、総評してみるとMOVERIO BT-100はかなり良い出来映えだと思います。
特にシースルー方式を採用したことで、これまでのヘッドマウントディスプレイとは全く異なる映像体験を提供できたことは、賞賛に値しましょう。
また6時間のバッテリー駆動ができ、無線LAN対応、Flashにも対応しているため、
外出先でのブラウジングその他スマートフォン的な使い方が単体で可能な点も、面白いものです。
色々と使い方を考えることが楽しくなるHMDですね。

以下は2011年12月まで有用な記述です。それ以降に閲覧の方はお気になさらず。
EPSON社のHPには告知がないのですが、問い合わせてみるとモベリオの視聴が都内で出来ることが分かりました。
場所は六本木ヒルズ・52F東京シティビュー。
展望台内の一室で「エプソン ドリーミオ 3Dプロジェクター1万人体験イベント」という催事が行われており、
そちらにモベリオBT-100の実機が来ているのです。
スタッフの方に申し出れば、視聴することが可能です。
開催日時は11月6日から11月20日までで、開場時刻は13時から20時までとの事。
基本的にMOVERIOも常設するとの事でした。
ただ展望台内のイベントですので、展望台への入場料(大人1,500円)を支払わねばならないのが難点です。
六本木ヒルズ内・森美術館で開催中の「メタボリズムの未来都市展」(大人1,500円)や
森アーツセンターギャラリーで開催中の「誕生25周年 ドラゴンクエスト展」(大人1,800円)の料金には展望台への入場料も含まれていますので、
このついでなどに行かれると宜しい事でしょう。

スタッフの方によりますと、六本木ヒルズでの展示のほか、
ドリーミオ 3Dプロジェクター1万人体験全国キャラバンにおいても、Moverioの試聴が出来るとの事です。
開催日時は以下の通りとの事ですので、一度見に行かれてみては如何でしょうか。
※日時・展示品は変更となる可能性もありますので、HPなどでの確認をお勧めします。
11月12日〜13日:神奈川県・クイーンズスクエア横浜、
11月20日:愛知県・イオンモール東浦、
11月26日〜27日:大阪府・箕面マーケットパーク ヴィソラ、
12月3日〜4日:兵庫県・イオンモール神戸北、
12月10日〜11日:岡山県・イトーヨーカドー岡山店、
12月17日〜18日:広島県・イオンモール広島府中、
12月24日〜25日:福岡県・イオンモール福岡
また西新宿のエプソンスクエアでは発売日以降、実機の展示をするそうです。
by katukiemusubu | 2011-11-12 15:58 | ヘッドマウントディスプレイ
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