フランスよりFOCAL社のヘッドフォン「スピリット・ワン」を個人輸入しました。
輸入当時には音沙汰も無かったのですが、日本への正規輸入も決まった様ですね。 2012年4月上旬発売予定で定価40,950円との事。実売3万5千円くらいでしょうか。 フォーカル社はフランスの会社で、ドライバーユニットから筐体まで、全てを自社で生産できる能力を持ったスピーカー専業メーカーです。 元々はドライバーユニットの生産を主としており、ホームオーディオの世界のほか、カーオーディオの世界においても一定の存在感を有しています。 ヘッドホン市場に参入するのは今回のSPIRIT ONEで初めてです。 公式ページでは、Nomad Headphones(遊牧民のヘッドホン)=持ち運び可能なヘッドホンとして位置づけられております。 その為か、キャリングケースもハードタイプ、ソフトタイプの2種が付属し、その他航空機用プラグ変換器もついております。 ソフトタイプのキャリングケースは通常の布袋ですが、ハードタイプは大変堅牢かつ軽量な作りで、入っているFocalのロゴマークも含めて高級感があります。 ケース内側の質感は、ULTRASONEのヘッドホンSignature Proのものに近いでしょうか。 ![]() Spirit Oneはケーブルの脱着・交換が可能で、付属するのは1.2mケーブルです。 4N以上のOFC(無酸素銅)で出来ており、スマートフォンやアップル社製品向けにボリューム調整機構、マイクがついております。 マイクの音声を伝えるため、3.5mmステレオミニプラグは4極プラグですが、操作用に極が増えているほかは、通常の3極プラグと変わることは有りませんので、iPod以外の音響機器に接続すれば音量調整機能を持たない通常のヘッドホンとして用いることができます。 製品には3.5mmの極数変換アダプターも付属されており、この他付属ケーブルにねじ込んで使う3.5mm→6.3mmステレオプラグ変換アダプターも付いております。 付属ケーブルのプラグはアルミニウム製でヘアライン加工が施されています。 質感に優れ、不要振動の防止も期待できそうです。 筐体はヘッドバンドがプラスティック製、上部にフォーカルのコーポレート・アイデンティティ「The Spirit of Sound」が刻印されています。 刻印があることで単調な黒に陰影が加わって見た目にも美しいです。 ヘッドバンド部は中央の黒色部分がプラスティック製ですが、調整機構を内蔵する銀色部分は外張りをアルミニウム、内張りをプラスティックとした二重構造を採っています。 外張り部分はハウジングとデザインを統一してヘアライン加工がなされています。 ハウジング部は航空機グレードのアルミニウムとヘッドバンド同様のプラスティックとの混合構成です。 ヘアライン加工が随所に施された筐体は、良く練り上げられたデザインで真紅の内張りと相俟って目を見張るものがあります。 ハウジングは上下左右に動かすことが出来、人工皮革でしょうか、肌触りの良いイヤーパッドと相俟って快適な装着感を実現しています。 Nomad(=遊牧民)を謳うだけあって遮音性は抜群、試みに電車内で使用してみましたが、殆ど音量を上げること無く使用出来ました。 イヤーパッドが肌にしっかりとフィットするため、音漏れも少ないものと考えられます。 ただし、遮音性を実現するためか側圧は強めです。 とは言え、ヘッドバンド上部にも緩衝材が置かれ、質の良いイヤーパッドもありますので、2-3時間の使用で痛くなるという程では有りません。 肝心要となるドライバーユニットには、40mmチタニウム・マイラードライバー(振動板)を採用。 最近では独・ウルトラゾーン社のEditionシリーズやPRO900などで用いられた素材ですね。振動板径も同様です。 とはいえ、フォーカルは元来ユニットメーカーですから、ドライバーは自社開発のもの、ウルトラゾーンとは別のものと考えるのが自然でしょう。 磁気回路などについては公開されておりません。 再生周波数帯域は6Hz-22kHz。SACDやハイレゾリューション音源には対応しきれていませんが、CDや通常の音源を再生するには問題のないものと言えましょう。 低音域が6Hzまで沈み込むことが出来るのは、なかなかのものです。 もちろん、SONY MDR-XB1000(2Hzから再生可能)などの低音重視機とくらべればそれまでなのですが。 ![]() FOCALはスピーカーに対し丁寧なチューニングを施すことで知られたメーカーです。 チューニングそのものはフランス・サンテティエンヌにて行われ、殆どの製品の製造は中国にて行われています。 スピリットワンもご多分に漏れずサンテティエンヌでのチューニング、中国での製造が行われました。 欧米の報道では、スピリットワンのチューニングには2年を要したと云いますから大変なものです。 では2年を掛けたという調整の成果は如何でしょうか。 以下、音質について見て行きましょう。エージング時間は現状で50時間程度。 FOCAL Spirit Oneの音は聞いていて驚くほどに「無個性」です。 平均以上に解像感に優れ、平均以上に音の分離が明確で、平均以上に音場が広い。 音の均整もよく取れており、低音から中音、高音に至るまで、特に目立つ帯域もなく平滑に、丁寧に鳴らします。 密閉型ヘッドフォンにありがちな一部帯域に特徴的な音を出すという事もなく、全てを誠実に鳴らします。 音色は明るめで聴き疲れがない音と言えましょう。 誤解して欲しくないのですが、ここで言う「無個性」というのは決して悪い意味では有りません。 ヘッドフォンの世界では広い音場、精緻を極める解像感、沈み切る重低音、伸び行く超高音など様々な個性をもった製品が出てきました。 これら製品は突出した個性でもって聴く人を魅了してきましたが、どこかしらの点で個性の犠牲になった要素もありました。 結果、ヘッドフォンは再生する音楽を選ぶことになります(ユーザーの視点から)。 「このヘッドフォンにはこの音楽ジャンルが似合う」といった具合に、です。 一方、Spirit Oneはどうでしょうか。 様々な音源で試してみましたが、SPIRIT ONEは全くといって良いほどに再生する音楽を選ぶということが有りません。 ライブ音源ではバックノイズまでもとらえる分離でもって臨場感有る音を再生し、打ち込み音源では解像感豊かに音の一つ一つを描き出します。音の定位も明確です。 ディストーションギターが多用される音源でも、低音を歯切れよく展開し、躍動感がある音を出します。 ボーカルの再現性についても倍音成分や余韻を残して、淡泊にならない様に配慮されています。 クラシック音源ではホールを満たす音の数々を比較的広い音場の中に再現します。 全てにおいて平均以上の鳴り方をしており、驚くべきユーティリティ・プレーヤーぶりです。 ![]() しかし、ユーティリティ・プレーヤー、オールマイティであるが故の宿命と言うべきか、逆に言えば「これが嵌り役!」というものが有りません。 一定のジャンルや音の傾向を好むユーザーからしてみれば、悪くは無いのだけれど取立てて良くもない微妙な音、という評価にも成りかねない製品と言えましょう。 言うなれば、SPIRIT ONEは全てを85点で鳴らすヘッドホンなのです。 決して現状のままで100点をとることはなく、その意味では面白みのないヘッドホンです。 しかし、Spirit OneにはSpirit Oneなりの面白みがあります。 先述の通り、本機は高性能かつ安定的な製品です。妙な癖もなくジャンルも選びません。 そして、そうであるが故に接続機器の個性を見事なまでに反映するのです。 手元にRadius HP-OHF11の交換ケーブル(線材不明)があったのでこれを付属ケーブルと変えてみると、音色が少し暗くなり、逆に音場が広がりました。 これは面白いと思い、Panasonic RP-HDA100の交換ケーブル(線材LC-OFC class1)を用いてみると、音色はそのままで、全体的に低域基調の音圧感豊かな音になりました。 これまでケーブル交換式ヘッドホンはいくらか使って来ましたが、ここまでケーブルの変化を忠実に反映するヘッドホンは珍しいかと思います。 ヘッドホンアンプについても同様で、MacBookのヘッドホン端子にそのまま繋いだ場合と、TA-F501を用いた場合とでは解像度の点、音場の広大さの点で大きな差異が感じ取られます。 こうして接続機器で音を追求できる、そしてそれが明確に反映されるという点ではちょっと面白い機種なのではないかと思います。 大変優れたデザインですし、密閉型としては比較的広い音場感も魅力的です。 遮音性もしっかりしており、幅広いジャンルの音楽を日常的に視聴なさる方や、機器ごとの変化を楽しみたい方に適したヘッドホンと申せましょう。 本機をはじめとした2万円後半〜4万円の価格帯には従来からあるB&W P5の他、欧米ではPhilips Fidelio L1なども登場しており、ヘッドホンの価格帯としてボリュームを増しつつ有る分野です。 フィリップスに問い合わせてみると現状でのFidelio L1の日本への導入予定はないそうですが、ともかく、中級機分野の動向も興味深く思われます。
by katukiemusubu
| 2012-03-24 13:50
| Ecouteur(ヘッドホン)
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