オーディオ・ホームシアター展2012、通称「音展」へ行って来ました。
会期の中日ということも有り、なかなかの人の出。一番混んでいる時間帯にはすれ違うのに少し気を使う程度の込み具合でした。 興味深かったブースについて、感想レポート(所感)を記し置きます。 〈ブースB1-37、株式会社Teragaki-Labo 寺垣スピーカー〉 秋葉原UDX会場で入場申し込みをすると、場内に足を踏み入れてすぐの所にあるのが、こちらのブース。メイン展示はスピーカー。しかし只者では有りません。 振動板が木の板なのです。コーン状に成形された木という訳では有りません。本当に平面的な木の板が、振動板として駆動されているのです。 はじめに目にした際は、夢でも見ているのかと思いましたが、近付いて筐体に触れてみると、木版そのものが確かに動いています。 木版は湾曲加工が施されており、中心に向けてやんわりと円弧を描いています。筐体そのものも木製でオーガニックな印象。一見した処、スピーカーと言うよりは楽器の様です。 その出音も非常に面白く、振動板がコーン型のような「点」ではなく「平面」であるため、音の広がり感が尋常では有りません。どこまでも音が広がり、しかも音量としても衰えが少ない感覚は新鮮そのもの。 解像感もそこまで悪いものではなく、特にストリングスの再生や楽器相互の距離感の再現には驚かされました。 これだけの新技術が詰め込まれながら、ペアで10万円というモデルもラインナップに置いている辺り、懐の深いメーカーです。いたく感興をそそられました。 〈ブースB1-20~21、株式会社コルグ〉 KORGブースでは先日発表されたばかりのDAコンバーター、DS-DAC-10を試聴しました。 11月下旬に発売予定で、直販の予定価格は49,800円、1,000台限定生産という告知が為されています。 そのスペックは、現状これ以上はないというべきもので、DSDネイティブ再生(2.8224MHz、5.6448MHzの双方)に対応。PCM変換をしないままに録音そのままの音質を味わうことを可能にしています。 今回のデモでは、そのDSDネイティブ再生を体感することが出来ました。同機のヘッドホン出力からゼンハイザーHD650で試聴。 出音はといえば、恐ろしく滑らかで、音の粒立ちだとか言う以前に、びっくりするくらい自然です。 感覚としては良質なLPレコードを再生しているときにも近しい。良い意味でデジタルらしくなく、アナログ的な質感を持っています。 インシュレーターもしっかりしており、これ単品で十分に完結した出来映えです。 USBバスパワー駆動ですが、独自に電源回路を搭載しており、一度取り込んだ電源を再生成して動作しているそうで安定性も見込まれます。 更にPCM音源についてもDSDに変換して再生するそうです。 場合によっては再生産が検討される可能性もあるとの事ですが、基本的には1000台の限定生産で終了との事で、購入を検討する価値のある製品に思われました。 〈ブースB2-1、日本精機宝石工業株式会社 JICO〉 レコード針の生産で知られる日本精機宝石工業株式会社は、今回、これまでの宝石加工の技術を活かしたイヤホンを発表。 同社の新ブランド「+US(プラスアス)」の「Brillante(ブリランテ)」です。 独自開発のポリマーと宝石を掛けあわせたダイナミック型振動板を搭載する予定との事で、筐体形状にも他には見られない流線型のトルネード構造を採用しています。 宝石とポリマーを掛けあわせた振動板と言えば、バブル期ソニーのイヤホンMDR-E484(ダイヤモンド蒸着)、MDR-E464(サファイア蒸着)を思い出します。抜けが良く、広がりに優れた音が印象的な製品群でした。 今回はモック展示のみで試聴はできませんでしたが、2013年春発売予定で価格は2~4万円を予定しているとのことです。 〈ブースF5-8、スペック株式会社 SPEC〉 SPEC株式会社は国産のアンプ製作を主とするオーディオメーカーですが、リアルサウンドプロセッサーというアクセサリーも販売しています。 オーディオ界のアクセサリーというと呪術めいた処があり、一般には敬遠する向きがあると思いますが、このリアルサウンドプロセッサーは比較的理に叶っています。 スピーカーは一旦駆動させると、駆動させた方向から戻って来ようという反作用の力が生じ、これが逆起電力となって、アンプ→スピーカー方向の通常の電力とは逆のスピーカー→アンプという方向性を持った電力が生じますが。 これがそのままに逆流しアンプにまで入り込みますと、アンプにダメージが蓄積され、その動作を阻害することになります。十全の力が発揮できなくなる訳です。 そこで出てくるのが、サウンドプロセッサー。SPECのRSP-301やRSP-101などです。 これらは内部にコンデンサー(電気を貯める部品)を搭載しており、これをスピーカー端子に付けておくことで、逆起電力をサウンドプロセッサー側に誘導・放出させ、アンプへの逆流を防ぐというに働きを致します。 今回、この効果の程を実演で聞くことが出来たのですが、高音域の伸びが良くなり、それぞれの楽器の配置が明確になった心地。どうも効果はありそうです。 サウンドプロセッサーの役割はあくまで、アンプへの邪魔をさせない事ですから、素直にアンプの力が発揮されることになります。良いアンプをお持ちで、その底力を見てみたいという場合には面白そうな製品かと思われました。 〈ブースB1-22、S'NEXT株式会社 Final Audio Design〉 ファイナルオーディオデザインことエスネクスト株式会社は今年、音展とポタフェスに同日出展(10月20〜21日)。次週(10月27日〜28日)にはヘッドホン祭りもあり、二週連続の出展予定です。 同社は今年8月に開発の最終段階にあったヘッドホン「MURAMASA Ⅷ」の発売中止を決定。主な原因は、あまりの重さ(開発段階で1.2kg、製品予定で0.85kg)にあると言われておりましたが、ヘッドホンの開発継続そのものは告知されておりました。 これについては記事を書くか悩んだのですが、既にステレオサウンド誌が10月19日付けで製品名ありの記事をアップしておりますので、書いてしまいます。 今回の音展では、ファイナルオーディオデザインの新たなヘッドホン・シリーズの存在が明らかになりました。 新シリーズの名は「PANDORA(パンドラ)」、言わずと知れた禁断の箱(或いはその持ち主)の名です。 国内では初登場になりますが、世界的には8月10日、香港AVShow2012でパンドラのモックアップが展示されておりました。 ![]() 写真奥にありますMURAMASA Ⅷよりは小振りな筐体ですが、ステンレスとクロム銅らしき異種金属の掛け合わせ(もしくは同種金属ステンレスのカラーリング)がみられ、ファイナルならではの高級感があります。 聞く所によると、PANDORAシリーズは2013年春夏シーズンからの発売を予定。2~5万円程度レンジ内にポータブルモデルと開放型モデル及び密閉型モデルの三機種が並び、そしてフラッグシップとなるべき金属筐体モデル(三十万円程度を予定)のラインナップが予定されています。 香港の際は、特に試聴機は有りませんでしたが、今回の音展ではドライバーユニットの仕様が固まって来たこともあり、隠れ試聴機が存在していました。 開放型と密閉型それぞれ一つづつです。 まだ筺体仕様が確定していないこともあり、黒い布に覆われ、さながら覆面ヘッドホンとでも言うべき塩梅でしたが、音の出口はしっかりと確保されており、新ヘッドホンの音調を試し聴く事が出来ました。 新ヘッドホンPANDORAは、旧ヘッドホンMURAMASAと同様に2way構成で設計されているとの事です。 MURAMASAでは40mmフルレンジと8mmツィーターのダイナミック2way構成でした。 一方、PANDORAではフルレンジドライバーをそのままにしつつ、ツィーターにバランスド・アーマチュアドライバー(BAドライバー)を採用。ダイナミック+BAのデュアル2way構成となっております。 ダイナミックとBAの組み合わせは、AKGのフラッグシップK3003など、イヤホンでは時折見られていましたが、ヘッドホンとしては恐らく初めての試みでは無いでしょうか。 イヤホンの小径振動板ならともかく、ヘッドホンの大口径振動板と小さなBAドライバーでは音のバランスがおかしくなるのではないか、そう考えるのはある意味当然です。 しかし、PANDORA試作機、なかなかに見事なもので、高域と中低域の繋ぎ目を感じさせません。何も予備情報なく聞けば、恐らくはフルレンジ一発の構成だと思うほどに自然な繋がりでした。 音展2011で聴いたMURAMASA試作機は低音が強く際立ちツィーターが圧倒される印象でしたから、この辺りにも進化が伺えます。 音はと言えば、やはりFinalの音。つまり空間表現力に優れ、特に響きの再現性が見事です。 試聴時に用いていたのは映画「日本沈没」OSTより二曲目「ある生き物の記録」ですが、この曲、ピアノとドラムの前奏に続いて、アルト・サックスが主旋律を奏ではじめるという構成を採っています。 ファイナルオーディオ独特のものとでも言うべき、深い低音でドラムが現れ、素早い反応で展開されたあと、張りのあるアルト・サックスの高音が続きます。高音にもファイナルらしい豊かな響きと艶やかさが実現されており、その響き、そのままに管が共鳴して引き起こす超高域の倍音成分まで綺麗に再現しておりました。弦楽器群が担当する中音域もよく張り出し、鮮烈な印象です。 イヤホンの時よりも振動板面積が広くなったこともあり、全体的に迫力も豊かでした。 事前にソニーブースでMDR-1Rを試聴しておりましたので、それとの比較で申しますと、全体的に癖がなくスマートに纏まった印象のあるMDR-1Rに対し、PANDORA試作機は一音一音が個性的、しかしそれが豊かな響きを構成して一つに纏まっており、一種の祝祭の様な印象を受けました。 解像感はMDR-1Rと同程度、音場は密閉型においてもPANDORA試作機の方が広く感じました。 同社の音響機器と言うと、まず言われるのは音場の広さですが、今回のPANDORA試作機もその性質を受け継いでおります。 密閉型でも通常の密閉型ヘッドホンに比べて十分に広い音場を持っていますが、開放型では圧巻です。オーケストラの配置が読み取れる程度に音場の広がりがしっかりとしており、定位もきっちりしておりました。 現状の試作機でもって、ドライバーユニット周りはほぼ確定だそうで、これから製品版の筐体の検討に入っていくとの事でしたが、そこは、筐体によって音をコントロールするファイナルオーディオデザインの事。 これから、どのように深化したヘッドホンが出てくるのか。来年が楽しみです。 ダイナミック型イヤホン試作機のheaven Ⅱもあり、こちらはBAM機構を省いた上で、自社開発ドラーバーユニットを搭載したモデルとの事。こちらも興味深く思われました。 ※パンドラの金属モック写真につきましては中国のオーディオサイトHiyoriAnyFi様より引用をさせていただきました。
by katukiemusubu
| 2012-10-21 02:22
| Ecouteur(ヘッドホン)
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