フジヤエービック主催、春のヘッドホン祭り2013へ行って来ました。
前回は二日間の開催でしたが、今回は一日のみ。 そのせいか、大変に人口密度が高く会場内の移動に苦労するほど。 やはり二日間の開催が望ましく思われます。 それでは、今回訪問した各ブースについて所感や試聴レビューを記して参ります。 なお別記なき限り、使用ヘッドホンはER-4s、使用プレーヤーはD-E01です。 〈SHURE SE846とFitEar Parterre パルテール〉 今回のヘッドホン祭は、興味深いことに、同様のコンセプトを追求したカナル型イヤホンがほぼ同時期に発表され、同時に展示される場となっておりました。 すなわちマルチ・バランスド・アーマチュア型のイヤーモニターにおける「相互干渉の防止」を追求した二つの機種、SHURE SE846とFitEar Parterreです。 価格こそ12万円(SE846)、8万円(パルテール)と違いますが、何れも電気的なフィルターではなく、アコースティックなフィルタによるBAマルチドライバーのコントロールを志向し、ワイドレンジの実現(SHURE)や空気感の再現(FitEar)を図っています。 そこで今回は時間を調整し、この二つを連続試聴して、比較することにしました。 〈SHURE〉 はじめに聴いたのはシュア SE846です。 ツィーター一基、ミッドレンジ一基、ウーハー二基のクアッド・ドライバー構成を採用。 圧巻は、アコースティック・ローパスフィルターの存在です。 精密加工された小型ステンレスプレートを10枚溶接して製造されています。 これによりウーハー担当BAドライバーの音を低域のみに絞込み、他のドライバーへの干渉を避ける事に成功しています。 筐体サイズは従来のフラッグシップSE535よりも大きくなり、シュアーのイヤーモニター初のフラッグシップモデルであったE5c(2000年)を思わせるものがあります。 そういえばE5cの配色もクリスタルクリアーでした。 一聴して驚いたのは、その低域再現性の豊かさ。 よくあるウーハーの押し出すような力強さとは異なる、包み込むような深いトーン。 その芳醇な響きはそのままにミッドレンジドライバー(スコーカー)の担当する中音域へとつながり、中低音域の音の厚みに貢献しています。 音は厚いとはいえ、解像感も超高解像とは言わないまでも、高い水準にあります。 音の厚みは、低域から中域、中域から高域にかけて徐々に減衰していき、高音域は比較的あっさりとした音に纏まっています。 良質のダイナミック型にも似た低音域を持ちながらも、BA型の繊細さを失わずに、音の厚みを徐々に移し替えていくことで、各ドライバーを有機的に結合せしめているのは、流石と言えましょう。 そのせいか、se535に見受けられた高音の頭打ち感も改善され、伸び伸びと鳴っているように思われました。 一言でいうならば、SE846は「帰ってきたE5c」です。 13年前、E5cにおいてSHUREが実現した厚みある音の表現は、SE530、SE535と、以降のフラッグシップ機に進むに連れて、徐々に失われていきました。 それを多ドライバー化が進展した現在において、呼び戻す。 そして高域についてもブラッシュアップをはかり、広いレンジ感を実現する。その意図は十分に実現されたものと思います。 如何せん、価格が高きに過ぎる嫌いはありますが・・・。 〈FitEar〉 続いてはフィットイヤー・パルテールを試聴。 Shureも整理券が出るほどの混雑でしたが、こちらも常時10人程度の試聴待ちが出るという盛況ぶりでした。 Parterreは内部機構が公開されておらず、判明しているのはマルチドライバー(BAを2基以上搭載)である事と、ドライバー相互の干渉を避けるためにアコースティックフィルター及びネットワークが設けられているという事の二点のみ。 FitEarの言うアコースティックフィルターがどういったものかは不明ですが、ともあれ複数BA、非電気的フィルターの設置による複数BA間の干渉防止というコンセプトはSE846と同じです。 FitEarの場合、音の出口となるサウンドポートに何らかの仕掛けをすることが多いので(F111やto go 334等)、今回の非電気的な仕掛けもそのあたりにあるのでしょうか。 仕様公開が待たれます。 その音はと言えば、研ぎ澄まされた中高域が魅力的。 特に弦楽器の重奏における解像感は圧巻で、弦の動きが体感される様な、見通しの良いクリアな音が得られます。 低域の沈み込みはそれなりですが、過小という程ではなく、適度に制動感をもった低音が展開されました。 この制動の効いた低音が、主旋律を奏でる中高音部をうまく支え、すっきりとした響きを実現しています。 ある意味BA型らしからぬ、充実した空間表現力です。 Parterreの個性は、BA型らしい高解像を保ちつつも、同時に響きを再現し、結果として臨場感有る音を実現している点にあると言えましょう。 SE846と比べてみると、音域バランスはSE846が中低域寄り。パルテールが中高域寄り。特にボーカルの再現において、その差は顕著でした。 解像感はパルテールの方が優れている印象。 逆にレンジ感ではSE846優位で、天井を感じさせない音の伸びが印象的です。重低音・高音域ともにパルテールの音の伸びは一歩を譲るという印象でした。 BA型ではほとんど見られない余裕のある音の表現力を獲得したSE846、BA型としての繊細さを保ちつつも空間表現に一歩を踏み出したPARTERRE。 それぞれに今までのBA型ではなかなか成し得なかった「ワイドレンジ化」や「響きの再現」という課題に応えており、これからのBA機の発展を見る上でも興味深い二機種に思われました。 〈EK Japan イーケイジャパン〉 真空管アンプなどのキット販売で知られるエレキット、EK japanからは初のポータブルヘッドホンアンプTU-HP01が出展。 ELEKITの製品ではありますが、キット製品ではなく、完成品で、入力部に電池管サイズの真空管を採用。 真空管搭載のポータブルヘッドホンアンプとしては異例に安価な19,950円という価格も目を惹きます。 それでいて筐体サイズは厚さわずかに1.6cmと薄く、電池管ということもあって発熱も控えめで、火傷するなどといった危険性も少なさそうです。 真空管を採用しながらも、使用可能になるまで時間がかかるということもなく、2、3秒で使うことができます。 音はといえば、ザ・真空管というべき音で暖かみのある響きの豊かさが特徴的です。 解像感はそこまで高くはありません。駆動力も控えめな印象。 ライブ音源の再生では、ホールの残響感を綺麗に描き、弦楽四重奏では艶っぽい表現をします。 出力段のオペアンプは交換可能だそうで、自分の音を追求するのも面白そうです。 単四電池四本駆動で、10時間持続との事。 〈WESTONE ウエストーン〉 イヤーモニター大手の一角、米国Westoneは新型イヤホンADV Series Alphaを出展。 IPX3水準の日常防水を備えたアウトドア仕様のイヤホンで、同社としては大変珍しく6.5mmのダイナミック型ドライバーを採用しています。 マグネシウム製の筐体に「W」のネームプレートが配置され、いかにもヘビーユースに対応した質実さを持っています。 価格は2万5千円程を予定との事。 薄く溝が彫られた新開発のイヤーピース「Starチップ」の効果もあって装着感も快適。反射材入りのケーブルも面白い。 パンチのある中低音が印象的で、高音もそれなりです。 同社のイヤーモニターとくらべれば解像感は高く有りませんが、どっしりと安定感のある音が魅力的です。 今回の「アルファ」に始まるADVシリーズは、今後、BA搭載機の投入なども検討しているとのことで、期待が高まります。 MMCX規格でのケーブル交換にも対応しているのですが、オスメスが逆の為、Shureとの互換性は無いとの事でした。 〈Final Audio Design ファイナルオーディオデザイン〉 ファイナルオーディオデザインでは、開発中のヘッドホンPandoraの試作機の試聴が出来ました。 ダイナミック型ドライバーとBA型ドライバーを掛けあわせた2wayヘッドホンで、4万円程を予定しているモデル(PANDORA Ⅳ)と6万円程を予定しているモデル(PANDORA Ⅵ、写真のモデル)の二機種が展示されておりました。 それぞれの予定価格と型番の数字が対応するとのことです。 BA型ドライバーはダイナミック型ドライバーの上(耳側)に重ねる様に配置されており、PANDORA Ⅳ試作機では耳に当てる側からみて12時の位置に、PANDORA Ⅵ試作機では9時の位置に配置されておりました。 Ⅳ試作機では中高域が下がりすこし繋がりが悪い印象でしたが、Ⅵ試作機の音の繋がりは大変素晴らしく、また音場も比較的広いため、交響楽などにも向くかもしれないと思われました。 なお金属モデルPANDORA X(予価30万円くらい?)も存在するとの事。 秋のヘッドホン祭りに持ち込むべく、目下開発中との事でした。 〈KEF ケフ〉 英国のスピーカーメーカーKEFからは同社初のヘッドホンとなるM500、初のイヤホンとなるM200が展示。 M500は40mmフルレンジ振動板にネオジウム磁石を奢った構成で、ボイスコイルに銅クラッドアルミ(CCAW)を採用。 軽量で反応に優れたCCAWらしい高域再現性で、なかなかに綺麗な高音が奏でられます。 中音域におけるボーカルの再現性もそれなりですが、一方で低音が過小な印象があり、すこし音域バランスを欠いた感があります。 装着感は良く、形状記憶のイヤーパッドと相俟って、ある程度の遮音性を実現していました。 一方、M200は10mm振動板のウーハーと5.5mm振動板ミッドツィーターの二基を搭載した同軸風イヤホンで、KEFお得意のIQドライバーを思わせるものが有ります。 アルミ製の筐体は、マットな質感で悪くないデザインなのですが、いざ耳へいれるとなるとウーハー部の張り出しが大きすぎ、人によっては耳と干渉してしまい装着が困難な場合がありそうです。 試聴列を眺めていても、装着に苦闘する光景が何度か見受けられました。 M200の音はというと、M400とは逆で低音過多の印象。 優れた技術が投入されてはいるのですが、なかなか悩ましい製品です。 〈JVC ビクター〉 ビクターからはつい先日発表されたばかりの新型ヘッドホンHA-SZ1000及びHA-SZ2000が出展。 最近のビクターからは、ストリームウーハーという低域増強技術にカーボンナノチューブ振動板を組み合わせたダイナミック2wayの製品がよく発売されますが、このヘッドホンもその一つ。 一応ポータブルヘッドホンをうたってはいますが、持ち運ぶには少し大きいかも知れません。 SZ1000に比べてSZ2000の方が空間表現に余裕があり、響きに優れています。SZ1000の音は直線的で、あまり広がりがありません。 何れも55mm振動板のウーハーと30mmカーボンナノチューブ振動板のミッドツィーターによる2way構成を採用。 ウーハーの叩きだす重低音は、解像感はともかくとして、かなりの量感と迫力を備えています。 カーボンナノチューブ振動板の担当する中高域の解像感はそれなり。 どちらかといえば、全体的に暗めな音調です。 音域バランスは低域寄りです。少々、低域に中高域が埋もれる印象。 先年のHA-FXZ200の発売以来、ビクターは音域バランスを低域に振った製品をよく出しておりますが(ライブビート・システムと言うそうです)、なぜ、かくも低域過多な製品ばかり出すのか不思議に思っておりました。 そこで事情を伺ってみると、ライブビート・システムの製品群はポータブル使用を企図したもので、移動中でも聞き取りやすい音を中心に音作りをしたとの事でした。 なるほど、それならば合点がいきます。 フラッグシップにHP-DX1000があるからこそ出来る、バリエーションと言えましょうか。 〈中村製作所〉 オーディオ向けの絶縁トランスで知られる中村製作所。 今回の出展では、従来からあるヘッドホン向けアイソレーショントランスNIP-01に加え、二種の新製品が展示されておりました。 携帯型のNIP-02SQと据置型のNIP-03です。 NIP-02はNIP-01と同サイズのトランスを備えつつ、アナログボリュームによるステレオミックスを可能とした機種。 価格は1万3千円程との事でした。 NIP-03は、昨年のNIP-01登場当時から開発がアナウンスされていた、ヘッドホン向けアイソレーショントランスの上級機です。 価格は5万円台後半を予定しているとの事。 鉄芯コアのサイズが、NIP-01やNIP-02SQの1.5倍にもなる特製のトランスを搭載し、フロントパネルにはカーボンファイバーを採用。 カーボンによる制振効果も期待出来ます。 アイソレーショントランス(絶縁トランス)とは何かと申しますと、これは、端的に言えば電磁変換機構です。 通常、絶縁トランスは二つの電磁変換機構により構成されています。 まず第一の機構が、受け取った電気エネルギーを一次コイルを介して磁気エネルギーへと変換します。この磁気エネルギーは鉄芯コアを介して、第二の機構へ伝達され、今度は二次コイルを通じて磁気エネルギーを電気エネルギーに変換する電磁変換が行われます。 絶縁という名の通り、電気エネルギーが通る部分、すなわち一次コイルと二次コイルは、物理的に分離されており、トランスに入るまで従来の電気エネルギーに付着していた余剰成分、ノイズは、二次コイル側に伝わることがありません。 そのためアイソレーショントランスを用いると、ノイズの低減が図られ、機器本来の大変素直な音を楽しむことが出来るようになるのです。 勿論、弱点がないわけではなく、二度の変換を行う内に、本来あるべきだった音の情報までも低減されてしまう恐れがあります。 これに対するには、各々の電磁変換に余裕を持たせてやる必要がありますが、NIP-03はそれを十分に叶えているものと思われました。 低音域から高音域まで、大変見通しの良い音が実現されています。 NIP-01とくらべても、かなり余裕のある塩梅。 特に、小型のトランスでは欠けがちであった低音の躍動感がしっかりと再現されており、この事に感興をそそられました。 NIP-03は左右両チャンネルに各一基のアイソレーショントランスを搭載しており、さらにそれぞれのチャンネルに可変式の巻線式アッテネーター(ボリューム)を搭載。 アッテネーター(抵抗器)自体の素性もよさそうでしたので、プリアンプ的というか、プレーヤー・アンプ側の出力を上げて、パッシブアッテネーターとしても用いても、有用かも知れません。 〈余談〉 ・ブースを巡っていて気がついたのですが、イベントコンパニオンを採用する出展社が増えたように思われます。商品知識は人によってまちまちで改善の余地ありですが、ヘッドホン祭も、随分と「ショー」らしくなってきたものです。 ・開催期間ですが、やはり複数日が望ましいものです。どうもせかせかしてしまい、じっくり試聴するには不向きに思われました。 ・電子製品の日本ディックス社が「真空管アンプ搭載ヘッドホン」を持ち込まれていました。JH科学のものに比べると真空管に覆いがあり安全そうです。製品化予定とのことで、今後が楽しみです。
by katukiemusubu
| 2013-05-12 04:30
| Ecouteur(ヘッドホン)
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