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MDR-Z7・PHA-3レビュー (銀座ソニービル先行展示)とXBA-Z5・XBA-100短文雑感

2014年(平成26年)9月、ドイツで開かれたIFAにおいて、ソニーはオーディオラインナップの刷新を行いました。

ウォークマンシリーズそのものの更新はもちろんのこと、
①主力ヘッドホンMDR-1シリーズの更新(MDR-1Aを発表)
②S-Master搭載ヘッドホンMDR-1ADACの発表。
③ハイブリッドイヤフォンXBA-Z5の発表
④バランス出力対応ポータブルヘッドホンアンプPHA-3の発表
などなど枚挙にいとまがありません。
→追記:ソニーエンジニアリングが発表したオーダーメイドヘッドホンJust earについてはこちらにまとめてあります。

その中でも注目を集めていたのが、同社が久しぶりに市場に投入する上級ヘッドホンMDR-Z7です。
改良された液晶ポリマー振動板を搭載し、振動板の直径は70mmと世界最大級。
4Hzの重低音から、100kHzの超高音まで、人間の可聴領域の5倍もあろうかという広帯域再生を可能にしています。
Q10-MDR1やMDR-SA5000よりは狭いものの、MDR-SA3000やRP-HDA100に並ぶヘッドホン史上でも屈指の広帯域です。
米国キンバーケーブル社と共同開発した交換ケーブルのラインナップ、ソニーにおけるかつてのフラッグシップ型番「7」の復活など、国内正式発表前から、ソニーがこのヘッドホンにかける並々ならない気迫が伝わってきました。

9月25日、国内正式発表(ハイレゾリューションオーディオ新製品発表会)。
翌日より東名阪のソニーショールームで展示が開始されるという事で、早速聴いてまいりました。
どんな音の仕上がりでしょうか。以下、感想です。




なお、試聴に使用した機器はSONY D-E01。
1999年、ソニーがウォークマン20周年を記念して発表した当時のフラッグシップPCDPです。
スライド・イン・ディスクローディングという後にも先にもこの機種しか搭載しなかった独創のメカが特徴といえましょう。
予備含めて3台所有しているのですが、購入から15年経とうとする現在も何の支障もなく動いております。

18時ころソニービルに到着。
夕飯時ということもあるのか、5分待ちで試聴出来ました。

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銀座ソニービルでは、MDR-Z7は純正交換ケーブルによってPHA-3とバランス接続されており、最上級編成で展示されておりました。
はじめから最上級編成で聴いてしまうと、その印象に引っ張られかねないため、まずはMDR-Z7にもともと付属しているケーブルに変えてもらいました。
付属ケーブルとは言え、その線材は銀でコーティングされた無酸素銅。十分な高級品です。
さて、試聴開始と致しましょう。
再生ボタンをオン。

・・・?
・・・・!
・・・流石は、70mmをうたう巨大振動板。
駆動する側にも相当の出力を要求してきます。
はじめ、あまりの音の小ささに機器の故障を疑ったのですが、さにあらず。
MDR-Z7は巨大振動板を駆動するために強いパワーを求めるのです。
HiFiman HE-6ほどでは無いにせよ、ちょっとした平面駆動型ヘッドホンを鳴らしている気分でした。
D-E01では20段階中15段目あたりで音量を確保。
出力があまり強力ではない機器の場合、ポータブルヘッドホンアンプなどと合わせた方が賢明かも知れません。

本題に戻って、今回の構成は付属ケーブルによるアンバランス接続。
最もデフォルト状態に近い編成といえます。
この状態でも、MDR-Z7の性能の片鱗が伺えました。

まず知覚されるのは、自然な低音です。
狭い空間に押し込められた様なストレスフルな低音ではなく、高磁束密度によって無理くり創りだされた様なアーティフィシャルな低音でもない。
ストレスなく自然に入り込んでくる、心地良い低音です。
耳だけでなく、身体全体で感じている様な心地よさ。
MDR-Z7の発表当時、「スピーカーで聴いているかの様な音」といった謳い文句を見かけましたが、それも頷ける仕上がりとなっています。
それでありながら、決して低音の量は少なめではなく、しっかりと沈み込みます。
平面波による4Hzからの再生というスペック、伊達ではありません。

ボーカルを担当する中音域も柔らかで、高域も刺々しくなく、端正なまとまりが感じられる仕様となっていました。
密閉型ながら音の広がりもよく、長時間聴いていても苦にならないものと思われました。

また本革のヘッドバンド、顔の形に合わせてフィットするイヤーパッドなど、装着感も良好です。
これを日本製で5万円台で発売してしまうのですから、大したものです。
ヘッドバンドからハウジングへの革→金属の切り替えなど、細部まで凝ったデザインでした。

しかし、心地よく端正な音、これだけがMDR-Z7の本質でしょうか?
どうも、そうとは思えません。よくよく聴いてみると、まだまだ追い込める様に思われました。
後ろを見ると、試聴待ちの方はゼロ。
折角、着脱式ケーブルもあることですし、今度は最上級編成で聴かせてもらうことにしました。
すなわち上流から、D-E01→光デジタル接続→PHA-3→バランス接続・純正リケーブル→MDR-Z7という構成です。

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こちらがPHA-3。ポータブルヘッドホンアンプ兼DSD対応DACです。
DACとはデジタル・アナログ変換器のことですが、PHA-3になって光(オプティカル)デジタル接続にも対応してくれました。
D-E01もそうですが、古いオーディオ機器のデジタル出力は同軸やオプティカルであることが多い、
これで古い機器ともデジタル接続が出来、最新鋭の機器でデジタル(データ)からアナログ(音)への変換が行える様になります。
あな嬉しや。
PHA-3の出力周波数特性は10Hzから100kHzですから、MDR-Z7の帯域(4Hzから100kHz)のほぼ全てに対応していることになります。

一方、バランス接続対応の交換ケーブルMUC-B20BL1。
キンバーケーブルらしい8芯ブレイド構造のケーブルです。
KIMBER KABLEとはアメリカ・ユタ州のケーブルメーカーで、信号の純粋な伝送に重きを置いたその開発姿勢は、ピュアオーディオの世界のみならず、業務用機器の分野でも信頼を集めています。
今回、ソニーが同社と共同開発した交換ケーブルは8芯構造とのことで、被覆がしっかりしてることを見るに、同社の「4TC-AN」に近いランクにものかと思われます。
端末処理済みの「4TC-AN」3mの価格は2万円ほど。
MUC-B20BL1の価格は専用端子がついて2万5千円ですから、妥当な価格と言えましょう。

さて、音はどうか。
音は大きく変わりました。
D-E01に直挿ししていた時、端正にまとまっていた音は、今や大きく躍動しています。
非常に色彩豊かで、迫力のある音です。鮮やかな音、とでもいうべきか。
ストレスのない自然な低音はそのままに、中音域から高音域にかけての表現が大きく変化しました。
とはいえ、それは低音との相性を損なうものではありません。
全体としてのまとまりの良さを堅持しつつ、音の一つ一つが磨き上げられているのです。

ボーカルが口を開く、その瞬間が目の前に浮かぶかのような臨場感。
ピアノが高低を行き来する、その手についていっているような密着感。
最上級編成は、そういった、音に寄り添う姿勢が如実に現れた音響を提供してくれます。

おそらく中高域の変化はケーブルによるところが大きいでしょう。
スピーカーケーブルとしてキンバーケーブル社のものを使った事がありますが、概ね似た様な変化がみられました。
しかし、その変化に追随し、どうしても齟齬を生じがちな低音と調和させるのは至難の業です。

しかしながら、試聴機を聴く限り、低音から中高音に掛けての音の繋がりは素晴らしく、しなやかで心地よい程でありました。
これを実現し得たのは、MDR-Z7の70mmアルミニウムコートLCP振動板の底力、そしてこれに馬力を与えるPHA-3の駆動力によるところ、大でしょう。
つまりは最上級編成ならではのものです。
なるほど、最上級編成を展示する訳だ、と合点がいきました。

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ところで、ここまでスピーカーケーブルの変化に追随出来るとなると、気になるのはリケーブルのこと。
シルキーな表現を得意とするオランダのVan Den Hul社の製品など試してみたいものです。
そこで端子を見てみると、ヘッドホン側もアンプ・プレーヤー側もステレオミニプラグ。
ステレオミニプラグは容易に入手でき、交換ケーブルを自作しても楽しめそうです。
純正のプラグ自体も素敵で、この単品販売があれば、より素晴らしく思われます。

そういった次第で、総評。
MDR-Z7は非常に優秀な基本性能を持ち、さらにそれをケーブルやアンプで拡張できる可能性を持つ高品質のヘッドホンでした。
70mmという巨大振動板は、鳴らすのに力を要しますが、鳴らした際の低域の自然さは特筆すべきもので、まさにスピーカー並です。
一方、中高域はある程度変化する可能性を秘めておりますが、決して不均等な音にはならず、全体として良くまとまった音に仕上がりましょう。
妙なクセがなく、非常にウェルバランスなのです。
一つの機械でありながら、自分の音を追求していくことも出来る、高級ヘッドホンの終着点としても、入門としても最適なモデルと言えましょう。

なお、これまでのソニーのヘッドホンと比較しますと、モニターヘッドフォンMDR-Z1000よりかは解像感は半段落ちます。
しかし、MDR-Z7の方が音の滑らかさに優れ、非常にリスニング向きの仕上がりです。
最も近い音、というとかつての上級ヘッドフォンMDR-CD3000ですが、Z7はCD3000よりも音場感が広く、より余裕のある様な印象です。
音の傾向はフラット。その意味でも、00年代のソニーヘッドホンからの変化を感じさせる逸品となっていました。

おまけ:XBA-Z5とXBA-100短文雑感

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XBA-Z5はアルミニウムコート液晶ポリマー振動板のダイナミック型と2基のBA型を合わせたハイブリッドイヤフォンです。
マグネシウムハウジングでトゥイーター(高音域振動を出す部分)もマグネシウム。
イヤホンとしてはかなり広めの3Hzから40kHzという広帯域。
解像感はかなり高い。空間表現もなかなかのもの。
しかし、低音過多なのです。ボーカルが埋もれかねない程に。
エージングで解決される事を期待します。

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XBA-100は真鍮製の筐体に1基のBA型ドライバーを搭載した密閉型バランスド・アーマチュア・イヤフォンです。
多くの人に触れられた試聴機、なかなか良い味出ています。
シングルBAだけあって低音はさして出ませんが、中高音もクドくなく、全体として爽やかな仕上がり。
音響管のせいか、空間表現も得意です。帯域は5Hzから25kHzと頑張っている。
ファイナルオーディオデザインのheavenシリーズにも近い塩梅。
実売価格は1万円を切っています。素敵です。
by katukiemusubu | 2014-09-29 03:07 | Ecouteur(ヘッドホン)
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