平成26年(2014年)も年の瀬。
クリスマス・イブのぼっち日記だよ。 12月24日、休みであり、特に先約もなかった為、おとなしく自室で過ごそうかと思っていました。 しかし、年の瀬に余興がないのも忍びない。 そこで半日「国産珈琲探しの旅」に出ることにしました。 国産珈琲とは何か。 その名の通り、国内で生産されたコーヒーを言います。 ブラジルやホンジュラス、インドネシア等から輸入されたコーヒー豆のことではありません。 日本国内で栽培され、生産・焙煎されたコーヒー豆の事です。 純国産と言った方が良いかもしれない。 コーヒーノキは熱帯に自生する植物で、その栽培に適した地を「コーヒーベルト」と云います。 おおむね北緯25度から南緯25度の地帯です。 わが国は南北に広い国土を有していますから、この「コーヒーベルト」にも土地があります。 ど真ん中なのは日本最南端・沖ノ鳥島(北緯20度)。 ただこの島、御存知の通り非常にミニマムなので、農園を作るには向きません。 現実に栽培が行われているのは、沖縄県および東京都。 北緯26度あたりに位置する沖縄本島と小笠原諸島です。 他にも市販されてはいませんが、鹿児島県・徳之島(北緯27度)で自家栽培がなされています。 とは言え、「国内にコーヒー農園がある?そんな事、聞いたこともないぞ」と思われるのも無理はありません。 日本国内におけるコーヒーの年間消費量はおおむね40万トン(生豆換算)。 一方、純国産コーヒーの年間生産量は、生豆換算でわずか4トンに過ぎません。 400000トン対4トン。 全流通量の0.001%、もはや誤差の範囲内と言って良い数字です。 普通に飲んでいれば、10万杯のんでやっと一杯にありつける量ですから、まず出会ったことがなくて当然なのです。 ならば、能動的に探してみるに若くはなし。 とはいえ、沖縄本島も小笠原諸島も本州からは遠く、取り寄せとなると相当の日数を覚悟しなくてはなりません。 調べてみますと、東京都内において沖縄・小笠原の双方ともに純国産コーヒー豆を入手可能な場所があることが判明しました。 では、行くべし。四ツ谷を10時半に出発です。 10時45分ごろ、帝都高速度交通営団(東京メトロ)銀座駅に到着。 銀座にて沖縄県の名護珈琲を探します。 まずは腹ごしらえ、ということで「銀座 篝」へ向かいます。 銀座随一の人気を誇るラーメン店です。開店前でも15,6人並んでいます。 鶏白湯が有名ですが、煮干しベースのつけ麺も美味しく、今回は「特製つけそば」を注文しました。 1,100円也。 少々、高く感じられるかも知れませんが、御覧くださいこのトッピング。 すべて国産の素材を用いた5種のトッピング。それぞれに丁寧な仕事がなされており、特にローストビーフは噛めば噛むほど旨味があふれ、ホテルメイドのそれにも負けない良さがあります。 これに、濃厚ながらもエグみは抑えられた香り高いつけ汁、ボリューム感のある三河屋製麺の太麺(大盛り無料)、スープ割りまでついて1,100円なのです。 むしろ、コスト・パフォーマンスが良いと言うべきかも知れません。 11時20分ごろ退店。 コーヒーにあう茶菓子、デメル(墺)のザッハトルテを探しに松屋へ向かいます。 先日シェフパティシエ・横溝春雄氏の番組をみて食べたくなったのです。 銀座3丁目の交差点まで来て、松屋の前を望むと、そこには歳末名物・救世軍の社会鍋。 救世軍とは来年で創立150周年を迎えるプロテスタント系の互助組織です。 大正年間より「社会鍋」という名称で募金活動を行っており、銀座の風物詩となっております。 財布より野口英世氏に出征願って、鍋に投入。 クリスチャンの方から掛けられる「メリー・クリスマス!」の言葉は格別なものがあります。 地下の食品売り場で菓子を調達して、撤収。 さて、本題です。 中央区銀座に赴いた第一の目的は、国産珈琲の確保にありました。 沖縄本島・名護珈琲の確保。 沖縄県物産公社の経営するアンテナショップ「わしたショップ」へ向かいます。 銀座3丁目から銀座1丁目へ。 12時半ごろ現着です。 国内最大のコーヒー農園「農業生産法人 有限会社 名護珈琲」(年生産3トン)のコーヒーを探します。 わしたショップの通信販売HPには掲載されており、店頭にもありそうですが・・・。 すると、発見。ありました。 焙煎(中煎り)済みの豆コーヒー100g・1,080円と、更にそれを粉砕(中挽き)した粉コーヒー100g・1,080円が陳列されておりました。 100gというとだいたい10杯分。1杯の原価100円となかなかの価格です。 高級スーパー成城石井のオリジナルブレンドが500g・1,080円ですから、成城石井のちょうど5倍。 価格帯的には百貨店などが取り扱うスペシャルティコーヒーと同等といえましょう。 スペシャルティコーヒーとは品評会等で受賞するクラスの上等なコーヒーのことですが、この流通量は全体の1%ほどと言われています。 一方、国産コーヒーの流通量は国内の0.001%ほどですから、レアリティを考えればむしろ割安なのかも知れません。 また人件費の安いコーヒーベルト諸国にくらべ、日本の人件費は非常に高く、コーヒー1gを創りだすことにかかるコストを考えれば、決して法外に高いものとは言えないでしょう。 人件費の高さといえばアメリカも同様で、ハワイコナコーヒーが高価な理由はそこにあります。 ともあれ、購入。あとは淹れてみてのお楽しみです。 そして、次に探すのは小笠原珈琲。 千代田区丸の内にあるとのことで、向かいます。 途中、高架下の銀座君嶋屋などを覗きつつ、徒歩20分ほど。 新丸の内ビルディングに到着です。 小笠原コーヒーを扱うという「カフェ アパショナート(Caffe Appassionato)」はこの地下1階にあります。 スターバックスなどと同じくシアトル発祥のコーヒーショップ。 世界の上位5%のコーヒー豆のみを使用するという高級志向のお店です。 ブレンド一杯450円。 8坪程度の小さな店舗ですが、店内にはカウンターもありイートインが可能です。 少し面白くおもったのは抽出方法。 通常注文ですとマシンドリップの様でしたが、ハンドドリップを選択することも出来ます。 ハンドドリップの場合は、一杯730円とのこと。 メニューをみると・・・ありました、小笠原コーヒー。 数量限定の様です。 100%使用のものが930円、オーガニックブレンドが780円、プレミアブレンドが630円。 1杯1,000円というと、ペニンシュラホテルでコーヒーが飲めてしまいます。 予想はしていましたが、高い! それもその筈。 小笠原コーヒー(野瀬農園)の年間生産量はわずかに0.2トン、200kgしかないのです。 国内流通量の0.00005%。 200万杯に1杯しかない、究極のレアリティを反映した価格付けとなっています。 高級志向とはいえ、コーヒースタンドで支払う事はめったにない金額です。 そうは言いながらも、注文。 100%使用のものについては、ハンドドリップで抽出してくれるとの事でした。 店内を見渡すとコーヒー豆も売っています。 その中には、小笠原コーヒーの姿も。 なんと10g・500円です。 100gではありません。10gです。つまりは1杯の原価500円。 コピ・アルク(ジャコウネコのフンから採る)の様な特殊な例を除き、世界最高の味わいを持つとされるジャマイカの「ブルーマウンテン」。 この原価が1杯400円ほどですから、小笠原コーヒーの原価の高さは驚異的です。 さきほど提供価格の高さに触れましたが、この原価に加えて、地代や人件費のことを考えると、1杯930円では殆ど利益が出ないでしょう。 なるほど限定数となる訳だ、と合点がいきました。 そんな事を考えている内に5分経過。 店員さんが淹れたての小笠原コーヒーを持ってきてくれました。 では、一口。 「ほう」と思わず声が出るほどの滑らかな喉越しです。 よく「ベルベットの様な滑らかさ」という表現がありますが、小笠原コーヒーはそこまで重くなく、言うなれば「紗(うすぎぬ)の様な滑らかさ」。 さらりとした舌触りで、パッションフルーツを思わせる果実味がはじけたあと、そのフレーバーが鼻へと抜けていきます。 ミディアムボディというべきコクに、以外にも深いアロマ。 酸味はおだやかで、近いのはドミニカ産のコーヒーか。 正直に言って、味わいの点では、ブルーマウンテンの調和に敵わないと思います。 しかし、この滑らかさは特筆すべきもの。また飲んでみたくなるだけの魅力を有しています。 豆を買って、転進。 東京駅に入ると、いたるところに貼られている白いポスター。 例の100周年記念Suica騒動に関する詫び文の様です。 一枚撮影。 中央線に乗って10分。 四ツ谷へ帰投しました。 自宅へ戻ってミルを挽き、早速、名護珈琲を淹れてみることにします。 中挽きにして、ペーパーを使ってハンドドリップ。 そして、一口。 またもや「ほう」。驚くべき滑らかさです。 沖縄本島と小笠原父島、緯度的には北緯26度と殆ど変わりませんが、経度的には東西1,400kmも離れており、相当の違いを予想しておりました。 同じアラビカ種、同じ無農薬栽培、同じ精製方法(ウォッシュド)ですが、まさか同じ様な喉越しをもっているとは。 こちらも「紗(うすぎぬ)の様な滑らかさ」です。 柑橘を思わせる果実味。 もちろん、異なる点もございます。 特に印象的だったのはコク(ボディ)の違い。 ミディアムボディの小笠原コーヒーに対して、名護珈琲はフルボティであり、豊かなコク、継続する余韻を持っています。 従って、フレーバーも鼻梁を突き抜ける様な具合ではなく、馥郁と口腔を満たす様な具合。 燻らすような塩梅です。 香りはそこまで立ちませんが、明瞭な酸味があります。 比較的ハワイ・コナに近い味わいです。 コナほどに強いコクと酸味を持っているわけではありませんが、豊かなコクと酸味がマイルドにまとまっています。 華やかなミドルボディの小笠原コーヒー(野崎農園)に、芳醇なフルボディの沖縄コーヒー(名護珈琲)。 似通った喉越しを持っていることに驚きましたが、どちらも日々の嗜好品として、十分な資質を備えたコーヒーです。 他国産コーヒーに比べるとどうしても高価になってしまいますが、それは致し方なし。 10万杯に1杯の国産珈琲、時には1杯いかがでしょうか。
by katukiemusubu
| 2014-12-25 00:57
| 珈琲、紅茶、エスプレッソ
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