朝の連続テレビ小説「マッサン」もいよいよ最終回。
竹鶴政孝と彼の創業した「ニッカウヰスキー」を取り巻く人々の物語も、ついに終盤です。 折よくニッカは、「竹鶴17年 ピュアモルト」でもってWWA2015を制し、三度目の世界最高賞に輝きました。 受賞は二年連続。ブレンデッドモルトウイスキー部門世界一の防衛に成功した訳です。 同時に、「竹鶴」はWWA(ワールドウイスキーアワード)全体における「ブランドの受賞回数記録」も更新し、ブームを彩るに相応しい出来事となりました。 今回のブームに際して、ニッカ・サントリー両社は「復刻版ウイスキー」を次々と投入。 竹鶴政孝(ドラマでは亀山政春)や鳥井信治郎(同じく鴨居欣次郎)の生きた時代の味を再現してきました。 おそらくその有終の美を飾るであろう製品が3月24日(火)発売されます。 その名は「初号スーパーニッカ復刻版」(700ml/アルコール度数43°)。 ドラマ第一話と最終話で「スーパーエリー」として語られたものです(「マッサン」と現実のウイスキーとの対照表は記事最後に記載)。 一足早く手に入れましたので、現行品のスーパーニッカとの比較も交えつつレビューしていきたいと思います。 まずはパッケージ。 初号スーパーニッカは、妻リタの死後、竹鶴氏が亡き妻に捧げた理想のウイスキーでした。 スーパーニッカはブレンデッドウイスキー。 モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしたものですが、このブレンドにこそ竹鶴氏の技術が活きています。 その発売価格は1962年当時で3,000円。現在価値で概ね4万円に相当します。 宮内庁御用達カガミクリスタルのデザインによる手吹きグラスのボトルは、優美そのもの。 丹頂鶴を思わせる流線型の形状は、竹鶴氏いわく、慈しんで育てたウイスキーの「花嫁衣装」なのでした。 現行のパッケージ(加納守康デザイン)に比べて、ふくよかなラインを描いており、「S」の彫刻もないためシンプルな見た目です。 復刻版は機械吹きながら、当時の雰囲気をよく再現しています。 下の写真は比較に用いた現行品スーパーニッカのミニチュアボトルです。 ミニチュアボトルでは彫刻が省略されています。 では、いただいてみましょう。 はじめに色合いと香りから。 水色を見比べると、「初号復刻版」のほうがすこし深い色合いです。 淡い琥珀色をしています。 色が濃いということは、基本的には、熟成年数の長い原酒を用いている可能性が高いということです。 現行のスーパーニッカは、余市蒸留所のモルト原酒・宮城峡蒸留所のモルト原酒・カフェグレーン原酒の三つをブレンドして生産されております。 もちろん単に混ぜただけではなく、栃木工場にて再貯蔵(マリッジ)し、バランスを整えた上で出荷。 非常にまとまりの良い、柔らかな口当たりが特徴的なブレンデッドウイスキーに仕上がっています。 一方、初号スーパーニッカがつくられた昭和37年(1962年)。 未だ宮城峡蒸溜所(1969年)はなく、カフェスチルの西宮工場への導入(1963年)にも一年を待たねば為りませんでした。 すなわち初号スーパーニッカは、余市・宮城峡のブレンドではなく、モルトウイスキーは余市産のみを使用し、これにグレーンウイスキーをブレンドしてつくられたのです。 流石に「復刻版」は、宮城峡カフェグレーンなどを用いており、余市単独ではないでしょうが、 しかし、「現行品」に比べて、より余市蒸溜所の個性が感じられる仕上がりになっています。 ニッカの山下英俊・元ブレンダーいわく、宮城峡蒸溜所モルトの個性は「やわらかで華やか」であること。 一方で、余市蒸溜所モルトの個性は「重厚で力強い穏やか」さがあることです。 まさにその通りで、香りをかいでみると「復刻版」はスモーキーかつ重厚な上立ち香を含み、同時にビターチョコレートを思わせる落ち着いた甘さ、熟成香を持ちえています。 「現行品」ではウッディかつ華やかな上立ち香、バニラや花蜜を思わせる甘さを感じられますので、現行とは一線を画する香りです。 では、味わいは如何でしょう。 「復刻版」を口に含んでみると、濃厚なコクに驚かされます。 蜂蜜を思わせる濃厚なコクと甘味。 とはいえ「初号ブラックニッカ復刻版」の様な甘さ一辺倒ではありません。 舌で転がすと、既にあったスモーキーフレーバーが存在感を強め、余市らしい力強い潮気が楽しめます。 重厚かつ奥行きの深い味わいです。結構な長期熟成モルトを用いているのではあるまいか。 これまた「現行品」の軽やかかつ華やかな味わいとは、一線を画する味です。 余市と宮城峡を塩梅良く配置した現行品にくらべ、余市を強く訴求している復刻版。 まさに時代背景をしっかりと読み込んだ再現で、ニッカの復刻版の中でも最も印象深く思われました。 クラシカルであり、かつ美味。 「復刻版」は「現行品」の倍近い値段設定ですが、これだけ良質な原酒を使っていれば、やむを得ないものと思われました。 「現行品」と「復刻版」。 もはや別物と言って良いほど香りも味も異なるのですが、共通している部分もいくつか御座います。 それは余韻の長さと、非常に柔らかな口当たりです。 初代スーパーニッカが発売された当時の世評「飲みやすく、味わいのあるウイスキー」。 竹鶴氏の目指した「本物のウイスキーをより多くの人に届ける」夢が叶いつつある証左でした。 そして、その飲みやすさ=スムースな口当たりは半世紀の時を経ても、竹鶴氏の血を受け継いだ者達によって保たれ、かつ継承されています。 そのせいか、両者の口当たりは驚くほど似通っている。 はじめ柔らかく、そして穏やかに広がっていく優れた口当たりです。 時代によって求められる「味わい」は変化しますが、それでも原酒の個性を活かし、調和を実現するという姿勢は変わらない。 ですから、どちらを取っても、色彩ある味わいと豊かな余韻とを楽しむことが出来ます。 複雑でありながら雑味を感じさせないのも、両者に共通した美点と言えましょう。 新旧の「スーパーニッカ」。 ニッカウヰスキー80年の歴史と竹鶴氏、彼の後継者たちに思いを馳せる飲み比べなんていうのも面白いかも知れません。 スーパーニッカの長い首が奏でる「トクトク」という注ぎ音と共に、楽しまれてみては如何でしょうか。 おまけ:テイスティングノート 《現行品》 北海道の夏、麦畑を連想させる黄金の水色。 ウッディな上立ち香。同時にバニラの甘み。 軽やかかつ華やか。オシロイバナの蜜を思わせるたおやかな甘さ、これはカフェモルトとカフェグレーンか。宮城峡的。 舌で転がすと、余市由来であろうピートが姿を現し、スモーキーフレーバーが楽しめる。 ニッカの二つの蒸留所の個性が段階的に味わえて面白い。 とはいえ、余韻はあくまで華やかに軽やかに。比較的長めの余韻。 非常に柔らかな口当たりで、少しも嫌味なところがない。 優れたバランス。 《初号》 季節は進み、秋の麦畑。少し琥珀がかった水色。 スモーキーな上立ち香。同時にチョコレートの甘み。 重厚かつ奥深い。蜂蜜を思わせる濃厚な甘さとコク、カフェグレーンの他、余市の超長期熟成原酒を用いているのではあるまいか。 舌で転がすと、既にあったピートの存在感が増し、塩味というより潮気が楽しめる。アイラ的。 若い原酒もあるのでしょう、若干華やいだ香り。 そして、余韻は線が太く、はっきりとしている。長く燻らすような余韻。 非常に柔らかな口当たりで、少しも雑味がないのは共通した美点。 優れたバランス。 参考:ウイスキー入門!サントリー・ニッカ 両社ラインナップ一覧表(種類・価格別) 雑記 ※1:シングルモルトの元祖「グレンフィディック」の発売は1963年。「スーパーニッカ」発売の一年後です。当時、最高のウイスキーといえばブレンデッドウイスキーであったのでしょう。 ※2:スーパーニッカのボトル形状は本当に素晴らしく、特に注ぎ音の絶妙さと言ったらありません。「音のデザイン」とでも呼びたいくらい。 ※3:「マッサン」における登場ウイスキーと、実際の名称との対照表。 「スーパードウカ」→「ブラックニッカ」 「余市の唄」→ (4月7日訂正。明確なモデルはなく「ニッカスペシャルブレンド/ポケット壜・角瓶」・「丸びんニッキー」を織り交ぜたものと考えられます。「しろくま」様から詳細なコメントをいただいておりますので、是非ご参照ください) 「スーパーエリー」→「スーパーニッカ」と考えられます。
by katukiemusubu
| 2015-03-23 23:13
| 生活一般・酒類・ウイスキー
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