平成27年(2015年)6月15日、富士登山へ行って参りました。
吉田口五合目から頂上へ、お鉢巡りをした上で下山。 山開き前、静閑な富士山を行く6時間25分のトレイルです。 続いては後半・下山編。 剣ヶ峰から東側へとお鉢巡り。しかるのちに下山。 果たして残雪期富士山日帰りは叶うのか、トラブルと対処の2時間30分です。 →登山編はコチラ ※注意事項 一般に富士山の登山シーズンは7月中旬から9月上旬です 閉山期間中の富士山への入山は違法ではありませんが、開山期間中に比べて危険度の高い登山となります。 6月の平均風速は秒速10m超、頂上の平均気温は氷点下で、雪渓も存在します。 登山道は通行止めの措置が取られており、遭難事故が発生した場合には100%自己責任となります。 もちろん山小屋は一軒も開いておらず、助けを呼ぶことも容易ではありません。 事故や停滞に備えた装備や保険への加入、事前の登山届の提出を強くおすすめします。 参考:山の「立入禁止」をめぐる法学 富士山山頂(剣ヶ峰・標高3,776m)から望む火口の全容。 登山者も見受けられず、風の音がただ響く。 富士山測候所も自動化されて久しく、完全に無人です。 白い雲と青い空、赤茶けた大地。 日本で一番高い場所はこんなにも静かだったのか。 こみ上げてくる感動を味わいながら、しばし頂上に佇みます。 五合目で買った、あまの屋の「富士山メロンパン」を食べる。 弾丸登山で疲れた身体に染み渡る甘味、粉砂糖とココアパウダーのアクセントも心地良し。 孤独の充足感を楽しんだ後、14時10分に下山開始です。 9割方、雪の溶けた馬の背を駆け下り、富士宮口山頂・浅間大社奥宮を礼拝。 手前にある大きな水たまりの様なものは、「このしろ池」という歴とした湧水池です。 参拝を終え、禁足地・大内院を正面から望みます。 壮大なる火山の風景。 火口直径は780m、お鉢巡り周回路の総延長は約2km。 方一里の山頂火口は12世紀のあいだ沈黙を守っています。 御殿場ルートを右に分け、荒巻と称される区間を進む。 その名の通り、富士山山頂の八神峰のうち、東面の三峰を巻いていくトラバース路です。 こちら側には残雪なし。 火星と言われても違和感のないランドスケープ。 前世紀の中盤あたりまで高熱帯が存在し、ゆで卵などが売られていたとか。 現在では噴気はありませんが、活火山富士山を伝えるエピソードです。 雲が出てきて展望はありませんが、道幅も広く、山麓から吹き上げてくる風をいなしながら進んでいきます。 一瞬晴れた雲間から、箱根山・大涌谷の噴煙が望まれたのが印象的でした。 げに火山列島です。 14時35分、吉田口頂上・久須志神社へと戻ってきました。 お鉢巡りを完遂。 吉田ルートは八合目で須走ルートと合流しており、吉田口山頂は須走口山頂でもあります。 富士山の四登山道のうち、富士宮口登山道以外の3ルート(吉田口・須走口・御殿場口)は登山道と下山道が異なります。 その下山道も、吉田口・須走口の場合、八合目までは一緒。 登山道山頂とは少し離れた所、久須志神社の南側に下山道入口があります。 荷揚げ用のブルドーザーの運搬路でもあり、道幅が大変広いのが特徴的です。 その分、細かな石が多く、御殿場口の大砂走りほどではないにせよ足の防備が必要です。 トレッキングパンツの裾を絞り、靴紐を締め直しました。 さて、残された時間は2時間15分。 1.5倍速で下山することにします。 重要なのは八合目における吉田口ルート・須走口ルートの分岐を見逃さないこと。 分岐の目印は山小屋「江戸屋」です。 とくにこの時期、登山道上に指導標はなく、自分の目で確認することが必要になります。 「江戸屋を左に」「江戸屋を左に」と呟きつつ、下山路へ。 流石はブルドーザー道。 車両が通れる様に傾斜は緩くつくられており、 その替わりに、山腹を大きく蛇行しながら降りていくコース設計です。 天気が変わり、雲が散らされて行きます。 ブル道から眺める山麓の景色。 問題は眼下の緑の部分が吉田口六合目であること。 吉田口六合目からバス停のある富士スバルライン五合目(河口湖五合目)までは徒歩30分。 現在地からでも霞がかって見えるあの位置まで、100分ほどで到達せねばならないのです。 地面の色は赤から黒へ。 火山灰質の細やかな粒子の斜面を下っていきます。 ときおりゴミが見られるため、都度回収。 途中、新しそうな地割れを見かける。 侵食谷の様に見えますが、数万年後には西側斜面の大沢崩れほどの規模に成長するのでしょうか。 恐るべき破壊力をほこる山体崩壊、その一旦を垣間見つ。 14時55分、本八合目・胸突江戸屋に到着。 標高3,400m、良いペースです。 「ようし、ここを左だな!」と思い定めて左側の下山道へ。 ブルドーザー道と離れて、歩行者道を勢い良く下っていきます。 道は相変わらずの無人、遠く六合目あたりでブルドーザーが動いているのが見えるのみ。 さくさくと進んでいきます。 15時ちょうど、八合目あたりの小屋を通過。 小屋周辺は道が入り組んでいますが、脇目をふらずに下山に一直線。 道は溶岩流をまたぎ、下の方への小屋へとつながっています。 あれが七合目であろうか。 写真の通り、溶岩流跡を跨ぎました。 ん?溶岩流ですって!? 七合目と思しき小屋も目前。 そこで違和感に気づきます。 地形図をポケットから出して確認。 吉田口下山道は溶岩流を避けており、これを跨ぐ箇所はないはずです。 しかも道の線形も異なる。 吉田口下山道は200m置きにジグザグを繰り返すはずですが、それにしてはピストンの幅が大きいのです。 ついでコンパスを出して確認。 道は東方へと進んでいます。 吉田口は北東方向のはず、これまたおかしい。 溶岩流との交差、道の線形、東方向。 全ての条件に一致するのは・・・須走口下山道です。 うかつでした。分岐をミスしたのです。 原因は分岐点「江戸屋」への過信にありました。 実は富士山登山道において江戸屋は二つ存在したのです。 本八合目の胸突江戸屋(上江戸屋)と八合目の下江戸屋。 これら二つの存在に気付かず、始めに出てきた胸突江戸屋の分岐を吉田・須走分岐点だと誤認してしまったのです。 正しいのは次に出てくる「八合目あたりの小屋」(先述)・下江戸屋の分岐点。 第一の分岐点は単なるブルドーザー道との分離点に過ぎませんでした。 地形図には単に「江戸屋」と書いてあり、まさか二つあるとは思い至らなかったのです。 とはいえ、コンパスで確認していれば防ぎ得たはずの初歩的なミス。 「こいつは・・・いただけませんな」と自分をたしなめつつ、善後策を検討します。 現在位置は須走口・見晴館周辺、標高3,145m。 時刻は15時15分。 下江戸屋(標高3,350m)まで比高205mを登り返し、吉田口ルートへ復帰する他ありません。 205mと一口に言いますが、先の溶岩流の写真の右上に見える箱型の建物こそが下江戸屋。 消耗した身体にはなかなかの距離感です。 須走ルートをそのまま降りることも検討しましたが、オフシーズンの須走口には路線バスの運行がありません。 他力本願を祈るにしても、この人出では望み薄です。 自力救済あるべし。 気合を入れなおして、早期復帰を試みることにします。 15時20分出発。 下江戸屋・見晴館間のコースタイムは上り30分・下り15分。 登りが下りの二倍であることからも明らかな様に、強烈な坂道です。 歩幅を短くし、ケイデンス数を稼ぐことで速度向上を図ります。 自転車のヒルクライムと同じ要領で、rpmを保ち、過度の負担にならぬよう上へ、上へ。 15時40分、下江戸屋(高度3,350m)着。 既に西日が差し込み、影が斜面に移ります。 眼下に望む、あの緑の縁のさらにその先へ。 1時間10分(70分)以内に下らねばなりません。 標準コースタイムは2時間半(150分)。 2.1倍の速度が必要となります。 流石にこれは無理かも知れません。 そこで吉田口下山道の途中にある「緊急避難所」を関門とし、ここを16時までに通過できなかった場合には、同所でのビバーク(緊急野営)を行うことにしました。 吉田口下山道七合目「緊急避難所」の標高は2,900m。 天気が良ければ御来光を望むことも可能と聞きます。 ダメだったら状況を楽しむ事にしよう、と割り切りました。 さて、靴紐を締め直し、ポールを握りしめ。 クライムダウンの開始です。 下江戸屋からの下山道は、ヘアピンカーブが連なる砂利道。 砂利を利用して、走るというより、滑る要領で下っていきます。 重心は落とし気味に、トレッキングポールでバランスを補正。 曲がり角でも片方を軸に、出来るだけ速度を減殺することなく進行を続けます。 大きな石に衝突しない様に注意が必要。 一辺200m、何回も何回も。 どれくらいの下りを繰り返したことか。 15時56分、緊急避難所(標高2,900m)へと達しました。 緊急避難所の鍵は開け放たれており、中を覗く。 ある程度の痛みが目立ちますが、それでもしっかりとした板張りがあり、頑強そうな岩室です。 ここで一泊することも魅力的な選択肢ですが、今回は16時前。 富士スバルライン五合目目指して、下山を継続することにします。 16時10分、吉田ルート下山道・七合目公衆トイレを通過。 緊急避難所と同じく七合目と称されますが、標高は2,600m前後。 登山道の七合目(標高2,750m前後)とも離れており、随分とダイナミックな合数表記です。 標高(垂直距離)というより水平距離に着目しているのかしらん。 七合目公衆トイレから富士スバルラインまでの標準コースタイムは70分。 なだらかな下り道が続きます。 急速なヘアピンカーブの下りが功を奏し、ここでの標準コースタイム80分を30分にまで短縮できました。 弾丸登山というか弾丸下山。 ストックの強靭さとトレッキングシューズの堅牢さに感謝です。 あとはコースタイム70分を40分まで縮めれば良いということで、軽くジョギングをしながら行くことにします。 ゴミ拾いは継続。 結局、コンビニ袋半杯分が埋まりました。 山腹に設けられた洞門(写真の真ん中奥、白い↓マークのある構造物)を利用して、パラパラと降る落石を避け、標高を吐き出していきます。 既にして標高は2,500mアンダー。 1時間前まで遥か眼下に望んでいた、緑と黒の境界線の上を歩んでいきます。 16時25分、吉田口六合目(標高2,386m)。 吉田口登山道と、これに連なる山小屋の数々がハッキリと望めます。 あの峰々の頂上まで登り、そして下りてきたのです。 ルートを見上げて、感慨にふけることが出来るのは往復登山の利点でしょう。 富士吉田市・馬返しへと続く吉田口登山道を北に分け、富士スバルライン五合目へ樹林帯のなかを進んでいきます。 樹林を抜けると泉ヶ滝分岐点。 ゆるやかな登りを小走りに、バス停へと向かいます。 富士五湖の一つ、河口湖方面の展望が広がり、気持ちの良い道筋です。 思わず歩調も速くなります。 そうして。 16時40分、富士スバルライン五合目(標高2,304m)に到着。 6時間25分のスピードハイクが終わりを告げました。 思わずガッツポーズ。 帽子を脱いで富士山に一礼。 トイレ休憩を済ませた後、16時50分のバスに乗って富士急行線・河口湖駅へ。 17時35分にバスを降りました。 駅から望む富士山の様子。 たった3時間30分前、あの頂に立っていたのです。 そう考えると、秀麗な富士山の姿がより印象的に思われました。 河口湖駅にあるヤマノススメの巨大POPにたじろぎ、電車を乗り継ぎ、東京へ帰り着いたのが22時ころ。 中央線にトラブルがあり、多少遅くはなりましたが、無事に帰投しました。 これにて富士山日帰り山行、完結です。 〈余話〉 [その1] 富士山山頂で飲んだきり、山麓まで、蓋を閉めたまま持って来たペットボトル。 気圧の影響で激しく凹んでいます。 高度が上がれば膨らむことは知っていましたが、下がれば萎む。 実際に実験してみると面白いものです。 [その2] 帰路立ち寄った富士山駅、駅ビルB1Fの「麺ズ富士山」の肉うどん(500円)。 富士吉田の郷土食「吉田うどん」です。 麺はコシがあるというより、物理的に固く、歯ごたえ抜群。 魚介ダシの醤油と味噌のダブルスープが、濃厚で麺にも負けぬ個性を放っています。 麺の量は並で250g、大(100円増)で400g。 イートインとは思えぬ質の高さで、大変おすすめです。 富士吉田には吉田のうどんを扱う店が50以上もあるそうで、それぞれに店の味があるのだとか。 地元のひばりヶ丘高校にはうどん部があり、同部の出しているフリーペーパーをいただいたのですが、これが大変良い出来栄え。 うどんの素晴らしさに感化されて、東京に戻ってから三日間というもの、一日二食がうどんでした。 高名な讃岐や伊勢、稲庭や名古屋などとも異なる方向性の吉田うどん。 お近くに来られた際には、是非一度食べてごらんになることをお勧めします。
by katukiemusubu
| 2015-06-20 03:13
| 登山・トレッキング・温泉
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