平成27年(2015年)10月24日。
フジヤエービック主催、秋のヘッドホン祭り2015へ行って来ました。 レビュー・評価など、記しおきます。 <Enigma Acoustics エニグマアコースティクス> アメリカのエニグマアコースティック社。 ヘッドホン「Dharma(ダーマ) D1000」とヘッドホンアンプ「Atena(アテナ) A1」を出展しています。 ダーマ D1000は、セルフバイアス式静電型ドライバーとダイナミック型ドライバーを組み合わせたハイブリッド2wayヘッドフォンです。 静電型(コンデンサー型)ですが、セルフバイアス式ですので専用アンプは必要なし。 それなりに出力のあるプレイヤー(DAP)やアンプ(HPA)であれば、十分に駆動可能です。 その分、アンプやプレーヤーの個性が反映されて趣味的な奥深さがあります。 春のヘッドフォン祭2015に展示されていたプロトタイプは、荒削りな筐体デザインと低域の量感不足が気になりましたが、見事に改善されています。 非常に滑らかな筐体になっており、バリも無し、音域バランスも重心がとれる様になりました。 深く沈み込む低音域から、華やかな中音域、透き通った高音域まで、繋がりも文句ありません。 余裕がありながら美しく、磨き上げられています。 アテナA1は台湾製、ダーマD1000は中国製になる予定とのことでしたが、 「それぞれに生産管理を徹底していますので、ご安心ください」とのメーカー担当者の言の通り、粗のない仕上がりです。 18万円前後での発売を予定しているとのこと。 <Shure シュア> これまたアメリカのシュアー社。 世界初の「コンデンサー型高遮音性イヤホン」こと「KSE1500」を試聴しました。 「コンデンサー型イヤホン」そのものは、既にSTAX(日本)が「SR-001Mk2」で実用化していますが、これに「高遮音性」まで付加すれば、確かに世界初です。 少々苦しい括り(くくり)ではありますが。 シュア社はもともとマイクメーカーとして有名な会社です。 マイクは、ヘッドホンと同様にコンデンサー(静電)型とダイナミック型に分類されますが、シュアはそのいずれも作っています。 今回のKSE1500は、コンデンサー型マイクロフォンの造りを逆手に取って製作したものだとか。 セルフバイアス式ではありませんので専用アンプが必要ですが、KSE1500の場合、これもセットになっています。 アンプ(≒SHA900)はDACを兼ねており、さらにビジュアルイコライザーを搭載。 EQを用いて、自分好みの音にカスタムすることも可能です。 その音はといえば、極めてニュートラル。 BA型を思わせる精緻な音を出しながら、ダイナミック型にも比肩するレンジ感を備えているあたり、その資質恐るべしです。 密閉型という事もあって、音場は開放型と比べるべくもない狭さ。 しかし、それが故に音源との近接性が増し、音の一粒一粒を注視する様な聴き方ができます。 ホールで楽しむというよりは、ラボで分析するような感じ。新感覚です。 非常に純度の高く、清潔な音。 一個完結型のイヤホンシステムとして販売されるため、コンポーネントを組み上げる様なピュアオーディオ的、趣味的な楽しみ方は難しいです。 しかしイコライザがありますので、お仕着せでない自分の音も探求できましょう。 価格は36万円とのこと。 SENNHEISER HD800とLUXMAN P-1uを買っても、まだまだお釣りの出る価格設定です。 ユニバーサルイヤホンに類を見ない、圧倒的な高価格帯。 <Klipsch クリプシュ> 同様にアメリカのクリプシュ・オーディオ・テクノロジーズ社。 バランスド・アーマチュア型のみでハイレゾ対応を可能にした新製品「X20i Hi-Res」を試聴しました。 X20iの「i」とはリモコン付きケーブルの事ですが、リケーブルとしてリモコン無しケーブルも発売予定との事。 BA型ドライバーを2つも搭載しているとは思えない程に小さな筐体で、耳への収まり具合が大変宜しいです。 かつての最上位機種X10を思わせる音場の広さを持ち、高い解像感は流石クリプシュといったところです。 2つのドライバーの繋がりも自然で、スーパーツィーター搭載機らしい高音の伸びはBA機離れしています。 新たな最上位機種X20i、正統進化と申せましょう。 X20iの値段は7万円前後とのこと。 同時発売のX12iも聴いたのですが、X20iのソリッドさとは異なるファットなサウンドで、これまた印象的でした。 X12iの価格は5万円前後とのこと。 <audio-technica オーディオテクニカ> 続いては国産勢。 日本のオーディオテクニカ社です。 2015年の新作ヘッドホンの内、「ATH-ESW950」と「ATH-A2000Z」を試聴しました。 ATH-ESW950(写真)はイヤースーツシリーズの新作で、同社お馴染みの「木のヘッドホン」です。 今回のハウジング木材にはシカモアの無垢材を使用。 シカモアはバイオリンの背板(裏板)に用いられる素材で、銘器ストラディバリウスにもシカモアが使われており、その音響特性の良さは折り紙つきです。 EarSuitシリーズらしい、線のはっきりとした音作りで、分かりやすさに好感が持てます。 かといって細かい音を表現できない訳ではなく、弦楽五重奏を流しても、それぞれの音色をしっかりと描き分けてくれました。 従来機に比べて中音域のディップが改善し、低域から高域までバランス良く出力されるフラットな音域バランスです。 従来の木のヘッドホンにくらべると比較的硬質な響きを持ちますが、そこは自然素材。 硬質な中にも柔らかさがあります。 アートモニターシリーズ・ATH-A2000Zは、これまたオーディオテクニカのお家芸「チタンハウジング・ヘッドホン」です。。 磁気回路にパーメンジュール、バッフルにマグネシウムを奢るその構成は、フラッグシップ機から受け継がれた資質を感じさせます。 94年のシリーズ開始以来、初めて刷新されたARTMONITORシリーズのダイナミック型ドライバー。 従前のアートモニターに比べて、解像度が向上し、また音域バランスもフラットになりました。 チタンハウジングの恩恵か、優美さの中にも芯のある音が特徴的。 A2000Zが予価8万円、ESW950が予価4万円とのことですが、いずれも日本製です。 20万円、30万円を越えるヘッドホンが雨後の筍の様に頻出し、業界そのものがインフレ化しつつある昨今。 これだけの高音質のものを、求めやすい価格、しかもメイド・イン・ジャパンで発売してみせるオーディオテクニカの姿勢には、業界の先駆者としての矜持が伺えます。 <SoundWarrior 城下工業株式会社> 「サウンドウォーリアー」ブランドでオーディオ機器を展開する城山工業株式会社。 「コンパクト、ハイスペック」をうたったデスクトップ・オーディオ・コンポーネントが出展されており、これを試聴しました。 下からCDトランスポート「SWD-CT10」、DAコンバーター「SWD-DA20」、ヘッドホンアンプ「SWD-HA10」という構成です。 146mm×40mm×165mmというサイズで統一されたデスクトップ・システムは、小型ながらも剛性感しっかり。 Olasonic(オラソニック/東和電子)のナノコンポ・シリーズを思わせるものがあります。 中でもDAC「SWD-DA20」に興味を惹かれました。 PCMでは786kHz/32bit、DSDでは11.2MHzまでのネイティブ再生に対応した超弩級のDACです。 スペックシートから言って、搭載DACチップは旭化成エレクトロニクス社のAK4490かと思われます。 DAPではAK380、CDPではK-05Xなどが搭載しているチップです。 AK380は約50万円、K-05Xは約60万円致しますが、DA20は10万円を切る価格設定を予定しているとのこと。 もちろん、DAC単体とプレーヤーとでは大きく性質が異なりますが、それにしてもお買い得な価格設定と申せましょう。 更にネイティブ再生に対応するのみ為らざず、リアルタイム・アップサンプリングにも対応。 つまりはCD音源(44.1kHz/16bit)をPCMハイレゾ化するだけではなく、DSD化することすら可能なのです。 その逆(ダウンサンプリング)も可との事でしたから、チップは同じく旭化成AK4137と思われます。 試みに手持ちのCDをDSD化させてもらいましたが、SACD的とでも言うべきか、PCM特有の角がとれて、円やかで空間表現に優れた音に変換されました。 音源の相性にもよりますが、面白い機能です。 メーカーの方によると「コンバートやサンプリングには既存のチップを用いています。しかし、その能力を出来るだけ引き出せるよう、独自の回路設計を施しています」との由。 実は、今回のヘッドホン祭会場には、同様のチップ搭載を謳う(又は搭載と思われる)機種がいくつか存在し、これらも試聴しております。 その中でも、SWD-DA20とそのコンポーネンツは出色の出来栄えに思われました。 <AUDEZ'E オーデジー> アメリカのオーデージー社からは新たなるフラッグシップ機「LCD-4」とポータブル機「EL-8」が出展。 「EL-8」は開放型(オープンバック)、密閉型(クローズドバック)、DAC兼アンプ付き(EL-8Ti)、の三種類がありますが、今回は開放型と密閉型が展示されていました。 予価10万円とのこと。 写真はClosed-Back版のEL-8ですが、Audezeらしい濃厚な音で密度感抜群。 重低音を基調としたピラミッドバランスのチューニングが施されており、屋外使用でも楽しく聞けるものと思われました。 平面磁界全面駆動型ながら非常に音量がとりやすく、BMW DesignWorksUSA と共同開発したという筐体も洗練されています。 無垢材ではなくベニヤ板(合板)を採用しているとのことでしたが、その断面を外見上のアクセントとして活用しており、優れたプロダクトデザインです。 一方、LCD-4。 LCD-3に変わる新たなリファレンス機として登場したこのヘッドホンは、その価格、約4,000$。 1.5テスラという驚異的な磁力をもったドライバーで平面振動板を駆動します。 オーディージーらしい濃密な音色を用いながら、音域バランスは至ってフラット。 比較的迫力重視の印象があった従来のLCDシリーズとは異なる仕上がりとなっています。 開放型という事もあって、広大な音場を持ち大編成交響楽などにも好適です。 ハウジングは艶出しの黒檀だとか。同社独自の整流技術Fazorテクノロジーを搭載。 前作に比べて軽量で、つけ心地も改善されています。 その他、DAC兼ヘッドホンアンプのDECKARD(デッカード)のモックアップが展示されていました。 排熱フィンのデザインにレトロフューチャー感があり、大変格好良い。 こちらの予価は10万円とのこと。 またバスコム・キング氏(高名なアンプデザイナー)と共同開発したHPA、The Kingも来年頃に投入予定とのことでした。 <その他> JVCケンウッド(ビクター・日)のハイレゾヘッドホンSIGNA。 下位機SIGNA02は比較的フラットなオールラウンダー。 上位機SIGNA01は重心低く少しボワ付きがあるものの、美音系。 価格というよりも音色の好みで選ぶべし。 Blue Ever Blue Japan(ブルーエバーブルー・米)のイヤホンModel1200。 深い低域から屹立する中高音。 意外な程に音場が広く、ドンシャリながらも楽しい音作り。 これで予価12,000円はコストパフォーマンスに優れる。 低域溢れるModel1001も面白い。 oBravo(オーブラボー・台湾)の製品群。 プラナー型(平面振動板)+ダイナミック型ハイブリッドのHRIB-1は超濃厚こってり。 AMT型(ハイルドライバー)+プラナー型ハイブリッドのHAMT-1は柔らかで澄んでいる。 HRIB-1と同じ構成のイヤホンerid-2(c,a,wの三種)は濃厚ながらも残響は少なめでこっさり。 試作中というAMT型(エアーモーショントランスフォーマー)イヤホンは、圧倒的に音の立ち上がりが速く、素晴らしく美しい音を出す。 このイヤホンを発売するとしたら、8~10mmという極小径AMTは特注とならざるを得ず、予価20万円程の見込みだとか。 ともかくも機種ごとに全く違った音色を持っており、万華鏡の感があります。 見た目は中世の器具ですが、つけてみると意外と良好な付け心地。 GOLDMUND(ゴールドムンド・スイス)の新作ヘッドホンアンプTHA2。 前作のテロス THA1から全構成部品を見直しブラッシュアップしたという。 特に電源容量の増加が効いており、前作以上に見通しの良いサウンドフィールドが得られる。 会社自身も予測していなかったというTHA1の早期完売(生産終了)。 ゴールドムンドは色々と毀誉褒貶の激しいメーカーですが、少なくともTelos headphone Ampliphireシリーズの音質には一聴の価値があります。 Chord(コード・英国)のDAC搭載HPA、Mojo(モジョ)。 手のひらに収まるほどに小さなサイズで、写真で見るとおもちゃの様ですが、実物はずっしりと塊感がある(180g)。 音質はCHORDらしく透明感があり、馬力もある。FPGAを用いたデジタル処理の卓越。 まさにミニHugoと呼ぶに相応しい。 聞く所によると、同社お得意の無線化モジュールの他、単体再生を可能にするSDカードリーダー・モジュールを発売予定だとか。 SDモジュールによるプレーヤー化はありそうで無かった発想で、実現が楽しみです。 <総じて> 今回から一日目の閉場時間が19時30分に延長されたヘッドフォン祭り。 日中に所用があっても、十分に回ることが可能となり、助かりました。 是非、次回もこの時間編成でやっていただけたら有り難い限りです。
by katukiemusubu
| 2015-10-25 01:01
| Ecouteur(ヘッドホン)
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