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フランス地域圏議会選の仕組みについて

2015年11月13日(金)に発生したパリ同時多発テロ事件。
この影響で世界からの注目を浴びている仏地域圏議会議員選挙ですが、
少々システムが複雑であるため解説記事を記します。



フランスの地域圏議会選について。

「地域圏」とは県より上位にあり、国より下位に立つ行政単位です。
下から市町村(コミューン)→県(デパルトゥマン)→地域圏(レジヨン)→国の順番。
日本において導入が議論されている道州制の「州」に近いものとご理解いただければ良いかと思います。

フランスは2016年をもって本土地域圏の再編(22→13)を行う予定で、
今回の選挙がその初めての適用例となりました。

地域圏議会選は、
「比例代表制を採用した直接普通選挙」であり、
かつ「2回投票制」という独特のルールを持っています。


「比例代表制の直接普通選挙」について説明。
比例代表制は、日本の国会議員選挙でも採られております。
政党への投票と、その得票率によって議席を分配する方式のことです。
原理的に死票が発生しないため、国民の意志がダイレクトに反映されることに利点があります。

普通選挙と直接選挙についても、日本と同様です。
普通選挙とは、身分・性別・納税額その他の要素による制限を行わず、
等しく国民に選挙権と被選挙権を認める制度。
直接選挙とは、選挙人(=投票権者である国民)が直接に被選挙人(議員や首長)を選べる制度です。
日本とフランスでは同じ年(1945年)に、男女普通選挙制が導入されました。

さて、フランスの地域圏選挙の理解を複雑にしている要因は「二回投票制」にあります。
これは一回目の投票において過半数(50%)の投票を得た政党が無い場合、得票率が10%を下回る政党を排除した上で、再度(二回目)の選挙を行うという選挙制度です。

選挙の結果、議席は最低5%の投票を獲得した全政党に分配されますが、ここでまた独自の制度「大多数ボーナス」が発動します。
「大多数ボーナス」とは、選挙における第一党に全議席の25%(4分の1)を割り振る制度です。
つまり得票数に応じた配分がなされるのは、75%(4分の3)の議席であり、25%については自動的に第一党のものとなるのです。

これにより第一党は3分の1の得票を得ていれば、
得票率に比例した1/3×3/4=1/4の議席と、大多数ボーナスの1/4の議席を加えた数、
すなわち1/4+1/4=1/2(過半数)の議席を自動的に確保することが可能になります。

一方、第二党以下は選挙でどれだけ第一党に肉薄したとしても「大多数ボーナス」による壁、
つまりは議席数1/4超の差に直面し、地域圏議会における主導権を握ることが困難になります。
この「二回投票制」+「大多数ボーナス」という特殊制度は、どんな状況であれ、ほぼ確実に第一党へ絶対多数を与える制度なのです。

なぜこんなに複雑な選挙制度設計が採られているのか、と申しますと、
これはフランスにおける地域圏議会議長の地位の特殊性によるものです。
地域圏議会議長は議会の第一党から選ばれるのが通例です。

「議会」と申しますと、日本では法律や条例を定める議決機関であると考えられています。
その議決機関としての機能はフランスにおいても同様であり、
この取りまとめを行うのは当然、地域圏議会議長です。
しかし、地域圏議会議長にはこれに留まらない強大な権限が付与されます。

フランスにおける地域圏議会議長は議決機関の長であると同時に、
行政権者、すなわち地方自治体の長としての権限を有するのです。

日本に仕切り直せば、県会議長が同時に県知事でもある、という事です。

そのため地域圏議員選挙とは、議員、すなわち議決機関のメンバーを選ぶ選挙であるのと同時に、
議会第一党の代表者、すなわち地域圏議会議長(地方自治体の首長)を選ぶ選挙としての意味を持っています。

地域圏議会議長はその地域圏(地方自治体)の首長でもある訳ですから、
十分な与党のバックアップがなければ満足に地方行政を果たすことが出来ません。
そのため、与党(議会第一党)に絶対多数を与える「二回選挙制」+「大多数ボーナス」制度が編み出されたという訳です。
議長が行政を執り行うという、圧倒的な議会(立法府)優位。
流石はフランス革命の国というべきか。

今回の選挙では2015年12月6日(日)に第一回投票が、同12月13日(日)に第二回投票が行われました。

第1回投票ではルペン党首率いる「国民戦線」(極右政党)が大躍進。
13地域圏のうち6地域圏で第一党となり、全国得票率でも第一党(27.73%)となりました。
しかし最大得票率は42%(南東部地域圏・議長候補マリオン・マレシャル=ルペン)であり、過半数には至らず。
決着は第2回投票に持ち越される事になります。

そして迎えた第2回投票。
「国民戦線」の躍進に危機感を覚えたオランド大統領率いる「社会党」(左派政党)は、
サルコジ前大統領率いる「共和党」(右派政党)をはじめとする「右派連合」に協調を打診し、
南東部と北部の二地域圏の選挙を辞退、国民戦線と右派連合の一騎打ちに持ち込みました。
左右協調の奇策は功を奏し、
この記事を書いている2015年12月14日11時30分(フランス時間:同午前3時30分)現在、
国民戦線は全地域圏に渡って第一党の地位を得ることは出来ない(全敗の)公算であると伝えられています。

近代民主主義の母国・フランスで起きた極右の大躍進。
21世紀が「不寛容の世紀」となるのか否かを決するメルクマールとなりそうです。


<おまけ:フランスの地方における議長と知事の違いについて>
訳語の問題もあり、非常に紛らわしいのですが、
フランスの地域圏には「地域圏議会議長」の他に、「地域圏知事」が置かれています。
フランスの県についても同様に、首長たる「県議会議長」の他に、「県知事」があります。

ここにおける「知事」とは中央政府(エタ)に任命される役人(官僚)であり、
それぞれの行政区画において、国の行政を担当する代表者です。

フランスは強力な中央集権国家であり、国の行政と地方の行政とが厳しく峻別されています。
国とは異なる法人格である地方自治体(地域圏や県)は独自の行政を展開できますが、逆に言えば国の行政には関与できません。
国は国で、国家の隅々、それこそ市町村レベルに至るまで国家行政網を張り巡らし、統一した行政サービスを行っています。

この真逆がアメリカです。
アメリカの各州は、州知事の元、それぞれに独立した行政サービスをおこなっており、合衆国(連邦政府)が統一して関与できるのは、例外的な範囲に限定されています。

一方、アメリカとフランスの中間にあるのが日本です。
日本は元々、大陸型の強力な中央集権国家でした。
しかし二次大戦後、地方自治の拡充を目指すようになり、従来は中央政府から派遣していた「都道府県知事」を公選化、地方自治体の首長としました。

都道府県知事は独自の地方行政を展開できる首長であると同時に、フランス的な「知事」としての機能をも有しており、
都道府県における国の代表者として統一的な国家行政を行う責務を有しております。
そのため時に、地方の首長としての役割と国の区画代表者としての役割が相剋し、アンビバレンツが生ずる事となるのです。

by katukiemusubu | 2015-12-14 11:37 | 法律系
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