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森本酒造「H.森本 もったいない卸し」レビュー

感想と評価。



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静岡県菊川市の自醸蔵、森本酒造合資会社のお酒(日本酒)です。
一升瓶(1.8L)で税込2,994円。

こちらの蔵、外部の杜氏によらず、自らかもす蔵(自醸蔵)というだけでも珍しいのですが、
アルコール添加を一切行わない、純米酒専門の蔵(純米蔵)でもあり、
平成25年(2013年)BYに至るまで、社員総数一名の単独蔵でした。

社長兼社員兼蔵人は森本均(もりもと ひとし)氏。
蔵の銘醸酒である「小夜衣(さよころも)」のほか、
自らの名を冠した「H.森本 Hitoshi Morimoto」シリーズを限定醸造しています。

平成26年(2014)年BYに息子さん(当時26歳)が入社し、現在は一人蔵から二人蔵になっています。
静岡でも一二を争う小規模な蔵です(たぶん県下最小は御殿場市の根上酒造店。一人蔵であり自醸蔵、純米蔵です)。

静岡のお酒というと、香りというより、味に重心をふった、ねばり腰の地酒が多いように思われます。
「米の旨味」が立つお酒とでも言うべきか。

ただし、一口に「米の旨味」といっても、その主成分たるタンパク質や炭水化物の取扱いを誤ってしまえば、
タンパク質の厚ぼったさや、炭水化物のエグミが際立ってしまい、
「旨味」ならぬ「雑味」が立った清酒にもなりかねません。

ですから、「米の旨味」に重きを置いたお酒は、非常に蔵の実力が出やすいように思います。

それでは、今回の「もったいない卸し」はどうか。

槽しぼり(ふなしぼり)の純米吟醸原酒であり、
掛米は静岡県酒造好適米・誉富士(精米歩合50%)、掛米が静岡県産米(精米歩合55%)とオール静岡の構成です。
酵母は協会901号、熊本酵母(協会9号)のバリエーションで比較的吟醸香が出やすいタイプです。

アルコール度数は17度以上18度未満。
日本酒度は+0.5度、酸度は1.6度。
スペックからは淡麗辛口(微辛口)のお酒が想像されます。

それでは一献。
色調は黄みがかっており、実に純米系らしい見た目です。
11月出荷のものですから、1年近く寝かせた冷やおろしでしょうか。

香りは、というと驚くほど大人しい様相です。
かすかな麹香。
ほぼ香りは立たず、吟香が立ちやすい9号系にしては珍しいものと思われました。

口に含むと、濃厚な米の旨味。
吟醸酒に近しい磨きのスペック(50〜55%)から想像されるさっぱり系の味とは大いに異なります。
濃密なコクが口内を満たし、まさしくフルボディ。

ワインで言うラングドック(南フランス)のグルナッシュ/シラーみたいな濃醇なお味です。
しかし、びっくりするくらい雑味がない。
いわゆる「米の旨味」にありがちな、エグ味はまったくなく、朗らかに広がっていきます。
若干の甘味とこってりとした舌触り。
これは美味しいや。

特徴的なのは、そのキレの良さです。
こってりとした舌触りに、「これがとろーんと続くのかな」と思っていたら、
若干の辛味と共に、すらりと収束していきます。

加速度すら感じさせる軽やかさ。
変にコクだけが残ることなく、すっぱりと綺麗に消えてゆく。
立つ鳥跡を濁さずと言うべきか、非常に印象的な後半部です。

濃厚旨口、でも後味すっきり。
このお味でしたら、単独で飲んでも良いでしょうし、刺し身など繊細な料理と合わせても、
料理を邪魔せず、良い相性が見込まれそうです。

基本的には静岡県内の流通ですが、
都内でも一部ラインナップを見掛けることがございます。

日常の一杯に、または買ってそのまま熟成させても面白い清酒に思われました。

by katukiemusubu | 2017-08-26 20:33 | 生活一般・酒類・ウイスキー
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