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【試聴レビュー】ソニー DMP-Z1

感想と評価。
Sony Flagship Digital Music Player Z1(希望小売価格95万円)。
ソニーストア銀座にて試聴。




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ソニーの超弩級キャリアブル・デジタルミュージックプレーヤーDMP-Z1を試聴してきました。
価格は税込みで100万円を越え、重量は2.4kgにも達するかつて無いポータブルDAP(正確にはキャリアブルDAP)です。
「ウォークマン」のロゴや名乗りは無いのですが、可搬性を備え、バッテリー駆動をする以上、ウォークマンと呼んで良いのかもしれません。

アルプス電気の最高級ロータリーボリュームRK501のカスタム仕様を備えた筐体は存在感抜群。
重厚な雰囲気をまとっており、ピュアオーディオ機器らしい風格があります。

切削のアルミ筐体を採用し、H型のモノコック構造でアナログ基板とデジタル基板を物理的に分離。
アナログ基板の中でも左右chの電源グラウンドが分離され、更に四芯構造のケーブルで各ch正負両極のグランドを取る。
DACは旭化成(AKM)の最高級品 AK4497EQを2基備え、左右両ch独自にデジタル・アナログ変換を実行。
アンプにはテキサス・インスツルメンツ(TI社)の世評高いオペアンプ TPA6120A2をこれまた2基備えています。

エソテリックのGrandioso K1(230万円)すら彷彿とさせる、ノイズ対策とチャンネルセパレーションに重きをおいた作りです。

ソフトウェア・信号処理の面では、DSEE HXやDSDリマスタリングエンジン、金井隆(ご存知「かないまる」)氏の手がけたバイナルプロセッサーなど、
ソニーらしい独自技術がつまっており、なかなか尖ったところもあります。

とはいえハードウェア面は、WM1Zの様なソニー特有の製品(S-Master等)を活用したものではなく、既製品の寄せ集め。
ボリュームのRK501は単価6万円程度するものの、AK4497EQは単価7000円ほど、TPA6120A2に至っては単価1200円ほどの商品です。
高品位のパーツが使用されてはいるとはいえ、正直に言えば、あまり期待をしていませんでした。

しかし百聞は一聴に如かず。
聴いてみてビックリするほどに素晴らしい音がします。

MDR-Z1Rの70mm大口径振動板の様な「鳴らしにくい」ヘッドホンでさえ軽々とドライブするその力量。
ゲインを問わず駆動し、昇圧をすることもなく、バッテリーからの取って出しで増幅が行われるため、妙なストレスもなければ、歪みもない。
高音域がどう、低音域がどう、というレベルではなく、全帯域に渡って非常に余裕のある音が鳴るのです。

音色は、電源環境に左右されないバッテリー駆動ならではのものでしょう、汲み立ての湧水を思わせるすっきりと澄んだ音色。
アナログの左右に各1パック2セル、デジタルにはウォークマンのフラッグシップNW-WM1Zに使用した1パック1セルのバッテリーを備え、基板の分離に留まらない独立電源システムが実現されています。

特注仕様のRK501も利いており、全くと言って良いほどにギャングエラーが可聴できませんでした。
「既製品の掛け合わせ」という枯れた技術の集積とその改良が見事に決まっており、ノイズ対策も完璧と言って良いでしょう。
例えば電源回路については同系統に二線構造を取ることで、容量に余裕を持たせています。
そもそもがシールド効果の高いアルミニウム筐体に加えて、この内部構造。よく考え抜かれた構成です。

出力部分も(ノイズのリスクとなる)ラインアウトの様な別系統は存在せず、バランス出力とアンバランス出力のみ。
拡張性はあえて切り捨てられていますが、そのため、出される音とひたすらに向き合うことが出来ます。

展示されていたモックアップを見てみると、
ネジ留めが偏心構造になっていたり、ガラスに見える天板が実は筐体と同じアルミを用いたものだったり、
見れば見るほど不要共振への押さえが為されていることが分かり、驚かされました。

デジタル基板にはハイレゾ音源の48kHz系と44.1kHz系それぞれに対応した水晶発振器が各1基搭載されているのですが、
これも新日本無線(New JRC)と大真空(姫路)の協業によって産まれた特注品とのことで、その精度は折り紙付きです。

高解像で色付きの無い音質ですが、それ自体が一種の個性に感じられるほどの高情報量と高音質ぶり。
優秀なS/N比を持っているため、「黒が黒として聞こえる」忠実な再現性を備えています。
ハイコントラストでありながら沈み込みも素晴らしく、液晶と有機ELの違いを連想させられました。
少々マニアックな話ですが、DSD音源とPCM音源の個性の違いも見事に描き分けられています。
どんなヘッドホンでも「鳴らしきれる」様に思われる深みある余裕には陶然とさせられました。

あえていえばゴールドムンドのTelos Headphone Amplifier(150万円)に近い音色に思われましたが、
ゴールドムンドほど寒色系ではなく、適度に湿度を含んだ日本らしい音色です。
轟然と鳴り響きながらも歪みはなく、しかも余裕たっぷりの力感。
聴いていて那智の大滝を連想しました。

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クラリネットの収納ケースを思わせるキャリングケースも格好良し。
シリアルナンバーが奢られ、筐体の光沢がベルベット生地に映えます。

バッテリー寿命は満充電・放電の繰り返しで約500回。
有料とはなるそうですが、バッテリー交換サービスにも対応予定とのことで、長く使えそうなオーディオ機器です。

決して安くはない商品ですが、サイズも拡張性もかなぐり捨てて、エンジニア陣がひたすらに音質を追求した凄みがあります。
枯れた技術だからこそ追い込めるポイントが有り、それを突き詰める。さらに独自のノウハウを加えて、磨き上げてゆく。
スペックシートだけでは推し量れない音の魅力を持つ、ハイエンドモデルらしいオーディオでした。

「音楽を持ち運ぶ」ことを発明したソニーらしさの溢れる、理想を追求した商品と申せましょう。
自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場は生きているのです。

by katukiemusubu | 2018-10-19 13:03 | Ecouteur(ヘッドホン)
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