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ゆるキャン△ 転売騒動に関する違和感

違和感があるのだ…。





【本稿の要旨】
1.本件契約は、(所有権留保などを付していない)通常の売買契約であり、リンちゃんのヤキニクセットの所有権(物権)はユーザー側へ移転している。メーカー側はユーザー側に何らの物権的請求権も有さない。
2.しかし本件契約には、「転売禁止」の特約が付されている。この特約は、公序良俗その他の法令上の制限に反するものではないため、有効である。メーカー側はユーザー側に債権的請求権を有し、これに基づく転売の事前差し止め、転売事後の損害賠償請求を行うことが出来る。
3.しかしながら、損害賠償請求が出来るとしても、1万円の商品の転売に対して40万円の損害賠償請求を行う様なことは過当請求に当たり許されないのではないか。
4.この点、本件「通知書」を読む限り、この通知は(2で指摘した様に)債権的請求権に基づく損害賠償請求であると考えられる。そして、1万円の商品の転売について40万円という多額の損害賠償を請求している。
5.民法の一般原理として「当事者間の公平」が存在する。これに基づいて考えれば、商品価格の40倍もの損害賠償請求は「当事者間の公平」に反した過大・過当なものと考えられる。そのため「40万円」の請求は無理筋ではないか。損害賠償額は一定の縮減がなされるものと予想される。

【詳説】
TVアニメ、そして第二期や劇場版の制作も発表されたアウトドアコミック「ゆるキャン△」(著:あfろ)。

その版権使用許諾グッズ 笑'sB-6君『リンちゃんのYAKINIKUセット』の転売をめぐって騒動が持ち上がっています。
度重なる転売に業を煮やした制作販売元の(有)昭和プレスが、転売を行ったと思しい複数人に向けて、損害賠償請求を行ったのです。

笑's B-6君の売買契約に付随する「商品の転売を禁止する旨の約定」に違反したとして金40万円の請求を行っています。
法的な構成としては債務不履行責任(民法415条)を問う、という事のようです。

定価(10,152円)に比して40倍近い異常に高額な請求額に驚かされますが、
メーカーへのねとらぼの取材記事を読むと、単純な損害額というよりも、転売者の特定に要した費用や、転売の発生によって生じた(クレーム対応その他の)事務費・作業費の支出増加額を含んだ請求のようです。

ただ、この請求には3つの問題があります。
①そもそも転売を禁止できるのか?という問題
①転売がなされたとして、それに対して責任を追求できるのか?という問題
②責任が追求できるとしても、その請求額は適正なのか?という問題
の3つです。

それぞれについて検討してみましょう。

第一の問題ですが、 今回の転売(譲渡)はチケットの転売とは異なり、所有権の制限が関わってくるため問題となります。

チケットの場合、それ自体は単なる紙(または電子データ)であり、チケットの本質はその利用権を表章した「証券」であるということにありました。
「証券」には無記名・記名(指名)の別がありますが、その譲渡に対して制限を加え、転売を禁止することは法律的に可能です。

しかし、その「物の所有」自体が価値を持つ「所有権」の場合はどうでしょうか。
憲法29条1項は財産権を保証しており、これを受けた民法206条は所有者に対して「自由にその所有物の所有、収益及び処分する権利」を保証しています。
これは「私的所有権絶対の原則」と呼ばれ、近代私法の三大原則として通用する大原則です。

物の転売(譲渡)というのは上記で言うところの「処分」に当たり、所有者は基本的に自由に処分ができます。
「法令の制限内」(民法206条)という留保はありますが、これは公序良俗に反したり、公共の福祉に対する挑戦とみなされる行為、例えば禁止薬物の譲渡などのことを言うため、今回の様な通常態様の転売には関わりありません。
そのため転売は基本的には自由ということが出来ます。

今回の笑's B-6君の契約が、そもそも「転売をしたら所有権を失わせる」というような条件(所有権留保特約)を付した契約であれば、メーカー側の物権的請求権に基づき、転売そのものを制限することも出来るのですが、いみじくも代理人弁護士が言う通り、今回の契約は単なる「売買契約」(民法555条。財産権の移転を目的とする)であり、所有権は通常通り移転しています。
従って所有権絶対の原則が通用し、第一の問題については「転売を禁止することは出来ない」という事になります。

では、メーカーである有限会社 昭和プレスは泣き寝入りをしなくてはイケないのでしょうか?
そんな事はありません。

そこで第二の問題が出てきます。
すなわち転売を禁じることは出来ないにしても、転売がなされた場合には、責任を追求できるのではないか?という問題です。
物権的請求権ではなく、債権的請求権の問題です。

先程、近代私法の三大原則という言葉を申しましたが、この三大原則の内、残りの2つは「権利能力平等の原則」と「私的自治の原則」です。
「私的自治の原則」とは「人が権利を取得したり義務を負ったりするのは、その人自身の意思による場合に限る」という原則です。
自分が権利を得たり、義務を負ったりするのは自らの自治に任されているという訳です。

この原則から「契約自由の原則」が導かれます。
すなわち、「どんな相手と、どんな時期に、どんな内容・形式で契約するのもその人の自由だ」という原則です。
もちろん、それが法令上の制限や公共の福祉に反する場合には規制されますが、そうでない限り、どんな内容の契約であっても自由なのです。

翻って、今回の契約に付された約定を見てみましょう。
代理人弁護士の言う「商品の転売を禁止する旨の約定」という部分です。

商標や特許権(権利の消尽など)については今回問題とはなっておりませんので、キモとなるのは一文目、二文目、そして最終文です。
同じ内容の約定について「契約」「特約」の文字が錯綜しており法律文書としては感心できませんが、ともあれ意味は通じます。

すなわち「今回の売買契約には再譲渡・転売禁止の特約が付随しており、これに反した場合には民法415条(債務不履行責任)などの形で責任を追求する」という事です。

第一の問題の通り、転売そのものを止めることは出来ません。
しかし契約自由の原則から、「転売した場合には責任を追求する」という義務を受け入れさせることは可能なのです。
行動そのものは縛れないが、事後責任は追及可能という訳です。
※特約を根拠に事前の差し止めを行うことも考えられますが、あまり現実的ではないためここでは割愛します。

ただし全ての転売に対して事後責任(違約金や損害賠償)を追求できるかというと、そうではないことにも注意が必要です。
権利の行使には、民法1条その他の法律上の制限があります。

例えば、止むに止まれぬ事情で(例えば買ったは良いが金欠になってしまい)転売せざるを得なくなった場合には、それに対し債務不履行責任を追求するのは法律上の制限の一つである「権利の濫用」(民法1条3項)に当たり、許されないことでしょう。
しかし、単に自らの利益を図り、利得を得るために転売禁止特約に反して転売をしたならば、その転売者(いわゆるテンバイヤー)に対して特約によって生じた「転売しない」義務を守らなかったという債務不履行の事後責任を追求することは可能と考えられます。

そのため、第二の問題については「転売がなされた場合には、責任を追求できる場合がある」という事になります。

今回転売をした方が、どんな事情で転売をしたのかは分かりませんが、仮にテンバイヤーとして話を進めましょう。
第三の問題、請求額の是非へ参ります。

第二の問題の通り、契約自由の原則により、どんな内容の契約であっても原則的には自由でした。
でも、これは原則であって絶対ではありません。原則には例外があります。
例えばレストランで食事をする際に、「食器を割った際には一律10万円の"罰金"をいただきます」という特約があったとしましょう。
その食器が大倉陶園の超高級カラトリーであれば、それもまた已む無しです。
しかし、その食器が100円均一で購入した皿であったらどうでしょうか。暴利にも程があります。

この点、民法は損害賠償の範囲に制限を加え、賠償の範囲を「これによって生ずべき通常の損害」に限定しています(民法416条1項、例外的に2項)。
そのため、上記の例の様な状況で100円の皿の毀損に対し、10万円を請求することは不可能となる訳です。
それを「損害の公平な分担」といいます。

どんな契約を定めても良いのですが、その内容は当事者間で「公平」でなければならないのです。

では、今回の40万円の請求は公平でしょうか?
メーカー側の言う通り、転売によって生じた事務費・作業費の負担はそれなりに多額に上ったのではないかと思われます。

しかしそれは、ねとらぼの記事にもある様にメーカー側の供給能力や準備体制にも一因を有するものであり、
これを過失相殺(民法418条)と称するかは別段としても、
その全部を「通常の損害」として転売者の責任にする様な損害賠償も、また公平とは言えず、適切とは言い難いものがあります。

facebookに挙げられた通知書によると、40万円を支払わない場合には、提訴を予定しているという書きぶりですが、
この書きぶりもかなり危うく、場合によってはメーカー側がユーザー側に強迫を行ったとも解されかねません。

アメリカの様な懲罰的損害賠償制度を採用していない日本の損害賠償制度のもとでは40万円の請求は無理筋ではないかと考えられます。
従って、第三の問題については「請求額は適切ではない」という事になります。

もちろん限定グッズの営利目的の転売は、道義的に許されるものではありません。
しかし、それを法律的に帰責するためには、様々な問題があり、グッズを供給する側もそれを認識する必要があります。
公開された通知書に違和感を感じ、本エントリを物しました。

by katukiemusubu | 2018-10-20 15:42 | 法律系
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