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ピエール・マルコリーニ Bean to Home(スペシャルティスティング)

ピエール・マルコリーニの期間限定ショップ「Bean to Home by Pierre Marcolini」のイベントレポート。
デザートコース「スペシャルティスティング コース」のレビューや感想など。




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言わずと知れたベルギー発の高級ショコラティエ「ピエール マルコリーニ」。
2019年1月25日から1月27日まで、新ブランドロゴの御披露目をかねたイベント「Bean to Home」(特設HP)が開催されました。
イベント会場は、シックス原宿テラス内のアートギャラリーThe Flat(地図リンク)

表参道と原宿の中間、2018年の夏にカルティエがコンビニ「カルチエ」を出店していた場所でもあります。
2層構造の画廊をまるまる貸し切っており、広々としたスペースの使い方が印象的です。
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店内に入ると、そこには5種類のクーベルチュールチョコレートの塊が鎮座しています。
ベネズエラ(チュアオ農園のシングルオリジン)、キューバ(パラコア村のグラン・クリュ)、エクアドル(低温焙煎)。
この日提供されていたのは3種類でしたが、すべて削り放題、試食自由というたいへん贅沢な仕様です。

手を汚さなくても良いように、お手拭きやナフキン、トングもスタンバイ。
参考までに申し上げれば、ピエール・マルコリーニのチョコレートタブレットは一枚2000円くらい致します。
それが無料で食べ比べ自由というのですから、かなりの大盤振る舞いです。

動線設計も奮っており、あえて商品販売スペースは2階に置き、1階には試食スペースとイベントスペースのみを配置。
来客者が気兼ねなくカカオの物語を楽しみ、チョコレートの個性を味わえる様に配慮されています。
お披露目イベントとはいえ、おそるべき商売っけのなさです。

2階の商品販売スペースでは、製菓用のクーベルチュールの他、目黒の「Kabi」とコラボレーションした日替わりスイーツを販売。
写真はその中の一つ、安田翔平シェフによる「菊芋チョコチップス」です。
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スライスした菊芋に、鹿肉と1年半熟成させた白麹の味噌をあえた「鹿味噌」を塗り、さらにチョコレートをディップ。
その上からポルチーニ茸と白トリュフをたっぷりとふりかけた発酵食レストランらしいメニューです。
チョコと味噌、二つの植物性脂肪にジビエの動物性脂肪。
力強い塩気が、お互いの旨味と素材本来の風味を引き立てあっており、それを菊芋のやさしい甘みが受け止め、茸の素晴らしい香りが立つ。
たいへんエッジィなスイーツでした。

なお、購入商品は店内のカウンターで食べることが出来、購入者にはピエール・マルコリーニ印のミネラルウォーターボトルがプレゼントされます。

これだけでも十分に充実したイベントですが、このイベントの真価はそこに留まりません。
一日先着18名(27日は12名)限定ながら、ピエールマルコルーニ氏本人によるティスティングイベントが開催されるのです。
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ティスティングイベントの名前は「スペシャルティスティング」。
マルコリーニ氏と研究開発部門の責任者ロラン氏、日本人パティシエ2名の計4人で、各回たった6人の客をもてなすデモンストレーションです。
ティスティング(試食会)と銘打ってはおりますが、その実、全6品・1時間のデザートコースが提供されるスペシャルイベントになっております。

茶懐石にも似た、静謐なスタイルのカウンターに6名分の銘々皿がおかれ、客は亭主(マルコリーニ氏)との会話を楽しみながら、全6品のデザートコースを味わう。
メニュー自体も今回のためだけに考案された限定品で、選び抜かれたカカオ豆のポテンシャルと、これを引き出す料理人のテクニック、料理の供される日本の風土を織り込んだものになっています。

当然ながら行列ができ、開場90分前には全回満席となっておりましたので、その人気のほどが伺えます。
それでは、デザートコースの詳細に参りましょう。

一品目:「ウエルカム 煎じたカカオ 柑きつ添え」
カカオ豆の皮(ピール)を煮出して作るカカオのお茶、カカオティーです。
紅茶を思わせる澄明(ちょうめい)な水色ですが、しかし優れた脂肪感を持ち得ています。
クリームのような口当たりがあり、ヘーゼルナッツ的な香気。
削りたてのバニラが添えられ、ほのかにバニリックです。
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写真はバニラを削るマルコリーニ氏。

マルコリーニ氏いわく「実は、カカオの油分は皮の方が多いのですよ」
カカオの豆と皮、その双方の香りを聴かせてもらったのですが、焙煎前でもチョコ感があることに驚かされました。
普通に飲むとクリーミーなお茶ですが、付け合わせのオレンジを噛み締めると、チョコ感が回帰して印象的です。

二品目:「フレッシュガナッシュの包みもの シソの葉添え」
ベネズエラの最高級品カカオを用い、焙煎をした上で更に薫製。
燻製をすることで、味わいにコクが増すとのことでした。
このスモークチョコレートをクリームにかけ合わせ、その場でガナッシュを作ってくれます。
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金ゴマはスペイン産で2世紀続く老舗農家のもの。紫蘇は日本産です。
ガナッシュの下には、チュニジアのパイ生地(ブリック)にバニラビーンズを練り込んで焼き上げたものが敷かれています。
「お手にとって、ぜひ一口で食べてみてください」との声に、まるごと手にとって口へと運びました。
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素晴らしくなめらかな口当たりと立ち上がるスモーキーフレーバー。
ごまの旨味に煙香を含んだミルクチョコレートの甘味が絡み合い、ホロリとしたブリックの食感がアクセントを加えています。
濃厚な味わいですが、紫蘇の爽やかな香りがこれを引き取り、優れた余韻があります。

中南米、南欧、北アフリカ、マダガスカル、そして日本。
個性ある世界中の食材がたった一口の中に調和している。
食材をさがして世界を旅するマルコリーニ氏らしい「一口のジャーニー(長距離旅行)」です。
メリハリのある交響楽の様なハーモニーが楽しめました。

三品目:「ホットチョコレート ユズ風味」
続いて出てきたのは、宝石のように美しい光沢を湛えたチョコレート。
惚れ惚れするような、テンパリング技術です。
「さきほどはカカオの皮を用いたお茶でしたが、
 今度はこちら(カカオの豆)と日本茶を用いたホットチョコレートをお作りしましょう」
との声と同時に登場したのは玉露の茶葉。

この玉露を牛乳で煮出していきます。
更に柚子を取り出し、その果皮を丹念に削って鍋へと投入。
非常に細やかな手つきに目を惹かれて伺うと、柚子の皮は表面の色づいた部分のみを用い、エグミを避けるため白い部分は使わないようにしているそうです。
一定時間煮出した後、茶葉と果皮を濾し取り、これにチョコレートを加えてひと煮立ち。
最後に、ミキサーで混ぜこんで完成です。
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上立ち香は、高品質なカカオらしい華やいだチョコレート香。
口に含むとトロンとした食感で、柚子の香りがチョコレートの甘さを優しく包んでいます。
舌で転がすと玉露由来の香気があらわれ、ほのかな苦味が実に上品でした。
和と洋が無理なく融合しており美味。

四品目:「そうめん瓜の種 グランクリュ・チョコレートのムースのせ」
そうめん瓜とはカボチャの一種で北陸地方では「金糸瓜(きんしうり)」とも呼ばれています。
この瓜の種と焙煎大豆で作ったプラリネの上に、キューバ産のグラン・クリュ(特級畑)チョコレートでつくったムースをたっぷりとかけた一品です。
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人間、美味しいものばかり食べていると味覚がインフレするあまり、語彙力を喪失し、
陶然としたまま「うまい」としか言えなくなる時があります。
この時が正しくそれで、前半3品の美味しさに陶然としていたのですが、次の一言で我に返りました。
「ところで皆さん、アイスクリームはお好きですか?」

マルコリーニ氏の方を見ると、氏はアイスクリームのバットを持ってニヤリと微笑んでいます。
そうです、氏はショコラティエであると同時にグラシエ(アイスクリーム職人)でもありました。
氏の手にあるのはもちろん、氏のスペシャリテであるキャラメルアイスクリームです。

希望者には、プラリネとムースに加え、キャラメルアイスを添えてくれるというのです。
さらにもう一手間、いりごまを振りかけて完成です。
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「よーく、混ぜ合わせて召し上がってくださいね」
とのことでしたので、すべての層をしっかりと混ぜてからいただきます。
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口に入れた途端、プラリネのカリッとした香ばしさが広がり、次いで大豆の優しい甘さが膨らみます。
それがチョコレートのビターなボディ感へと架橋され、濃厚なキャラメルのうまみへと繋がっていく。
ザクザクとした感触とムースのふわふわ感、アイスの口溶けが合わさり、素晴らしいテクスチャです。
思わず悶絶する美味しさ。うまい!(語彙力喪失

五品目:「煎じたカカオ フレッシュミント添え」
「さっぱりしたものをお出ししましょう」ということで、エクアドル産のカカオピールを用いたカカオティー。
一品目はホットティーでしたが、今度はアイスティーです。
フレッシュミントを添えて、爽やかに。
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口に含んでみると、同じ素材を用いていても、温度によって現れる香味が全く異なることに驚かされます。
ホットではナッティな香気とクリーミーな旨味を感じましたが、
コールドではフルーティな香気とさっぱりした酸味を感じるのです。
ほのかにウッディネス。ミントが清涼感を添えています。
素晴らしい口休めでありました。

六品目:「米粉のケーキとスモークティー」
最後の一品はあえてカカオを用いず、米粉(ライスフラワー)を用いたベイクケーキです
米粉を用いて丁寧に焼き上げたグルテンフリーのケーキに、スモークティ(ほうじ茶)をたっぷりと浸していく。
内までしっかりと染み込むように、ケーキにはマルコリーニ氏自身の手でパンチングをほどこすという念の入れようです。
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やさしい口当たりで、しっとりとした質感。
噛みしめるごとに米らしい円やかな甘味が広がり、ほうじ茶の風味が溢れます。
舌にやさしくまとわり付き、これを五品目のカカオティーで洗い流すと、驚いたことにチョコレートの返り香があります。
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もちろん米粉のケーキにはチョコレートは入っておりません。
なのにチョコレートの香りがするという、不思議な現象です。
おそらくは、これは口内調味によるものでしょう。
米粉のアミノ酸とほうじ茶の焙煎香、カカオティーのカカオバターが反応して、味覚にチョコレートの錯覚が生じているのではないかと想像します。

口中調味(口内調理)さえ計算に入れたつくりで、思わず瞠目するメニューでした。
軽やかなチョコレートの感覚が、味わってきた様々な香味を思い出させ、反芻させてくれます。
どこまでもショコラ。ピエール・マルコリーニのコースの最後を飾るのにふさわしい一品と申せましょう。

<コースの全体を通じて>
全てのメニューは、マルコリーニ氏を中心とした四人のパティシエが目の前で調理してくれます。
主人も客も同じテーブルを囲んでおりますので、主人と客の距離はわずかに数十センチ。
包丁の一刻み、鍋の一振りが伝わってくる近さで、素晴らしいライブキッチンでした。

世界的に知られるパティシエの仕事ぶりをこの距離で見ることが出来ることは、まさに眼福。
そして全6品にわたって提供される口福があるのですから、本当に得難い経験です。
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それぞれの品の調理の前には食材の紹介があり、それぞれの食材の匂いだったり手触りを確かめさせてくれます。
個性豊かな食材たちが職人の手によって一つの菓子へとまとまっていく様は魔法のようです。
回を同じくした来客者の方々も、感嘆のため息をついたり、歓声をあげたりと良質なライブを見るような一時間でした。

以前ベルギー大使館のレセプションでマルコリーニ氏の調理を拝見したことがあるのですが、
今回は数百人の客を相手とするレセプションではなく、各回わずか6人の客を相手とした対話劇。
必然的に主人と客の間、客同士の間で会話が生まれ、それが新しい反応を生んでいく優れたグルーブ感があります。
(※グルーブ感とは「乗り」のことですが、この回のマルコリーニ氏はまさしくノリノリで、途中で一度、本当に踊りだしていました(笑))

2畳程度のテーブルを囲む配置といい、主人と客の距離といい、茶室のひとときを思わせる体験でした。
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by katukiemusubu | 2019-01-26 15:27 | グルメ・スイーツ
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