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竹澤慶人とは何者か 藝大卒展「自分史」の作者を追う / ガルパン

2019年1月28日から2月3日まで上野で開催された東京藝術大学の卒業・修了作品展 (第67回)。
ここに出展されたミクストメディア作品「自分史」が注目を集めています。




作者は、東京藝術大学大学院 美術研究科 絵画専攻(油画・修士課程)の竹澤慶人氏。

地方の芸術大学から天下の藝大大学院へ進学した心境、藝大の内情、心境の変化。
そして現在へと至る過程が、文章と写真で赤裸々に綴られており、
これを縁取るインスタレーションと相まって、見る人にインパクトを与えておりました。

この記事を書いている時点(2019年2月3日14時現在)で、
鮫島礼二氏による「自分史」を紹介したツイートは5000RTに迫るほどの反響を呼んでおります。

特に反響が大きいのが、
作者がアニメ作品・ガールズ&パンツァーの同人作家(二次創作物の頒布者)であり、

竹澤氏の作品には即売会の写真も飾られ、最後は「ガルパンの二次創作を描け! 以上!」と締めくくられています。
氏は自身のペンネームや同人サークル名を伏せられていますが、作品を見ている内に、
氏が誰であるのか作品「自分史」内に散りばめられた公開情報から十分特定が可能なことに気が付きました。

以下は、その検証の記録です。

<注意事項>
・以降の記述には、特定個人の個人情報に関する記述が含まれます。
・当該の個人情報は、当該の特定個人が作品として展示した公開情報であり、違法な手段によって収集したものではありません。
・また本記事は、当該の特定個人に対する誹謗中傷・攻撃の意図を有するものではなく、純粋な検証目的によって執筆されたものです。

まずは竹澤氏の名前で検索をしてみると、何件かの展覧会情報がヒットしました。
一つは、東京藝術大学大学院、もう一つは栃木県の文星芸術大学です。

このことから、氏が2016年時点で東藝大油画の第五研究室所属であったことが分かります。
そして、氏の出身大学が栃木の文星芸術大学である(と思われる)ことも分かりました。

「自分史」添付の診断書において竹澤氏は、自身の住所が栃木県日光市にあることを公開しており、
「自分史」文章①において、「所謂Fランクと呼ばれる美術大学に通っていた」ことを明言しています。

いわゆるFランクとは、一般には河合塾発表の偏差値35以下の大学を指しますが、
文星芸術大学の偏差値はBF(偏差値測定不能=ボーダーフリー)であり、氏の言とも一致するところです。

こういった作品の常として、作者による"一人称の語り"を信用してよいのか、という疑問がありますが、
少なくとも「竹澤慶人」氏という個人の実在と、彼の語る基底現実については、信用してよさそうです。
以下、作者の言を全面的に信頼した上で、論を進めます。

「自分史」に従って竹澤氏の軌跡をたどると、
氏は文章④において劇場版ガールズアンドパンツァー(2015年11月21日公開)と出会いました。
「100回以上は劇場に足を運び」、その「世界観に没入」した氏は、
「今まで挑戦したことのもなかった(原文ママ)「漫画」という世界で戦うようになりました」と綴っております。
そうして「累計で何万部と漫画は売れ、数千万円の売上も達成」したとも。

漫画の同人誌は通常、20〜30pほどの小冊子で頒布されており、一部あたりの頒布価格は500円〜1000円ほどです。

例えば、ガールズ&パンツァー界隈における人気サークル、
「リス小屋」(リスくん)の近刊「ガールズ&大学生ァー」の場合、

通販にかかる手数料が250円程度すると仮定すれば、一冊あたりの売上は521円。
1万9194部以上売れれば、1千万円の売上が計上されることになります。

同人誌即売会での会場頒布が大部分を占めていた平成年間前半とは異なり、
とらのあな(ユメノソラホールディングス)やメロンブックスなどによる通販網が整備された結果、
同人誌は家に居ながらにして手に入れられるものになりました。

人気サークルや大手サークルは、通販にも積極的に進出するところが多く、
同人誌即売会などのイベントで数千部を頒布できるサークルであれば、
通販分を加味すれば、累計数万部に達することも不思議ではありません。

竹澤氏の主宰するサークルも、そうした大手サークルの一つなのでしょう。

では、当該のサークルとは一体どこで、竹澤氏とは一体誰なのか。
それを検索する意味で大きなヒントと成るのが、前掲の即売会の写真(ツイートの写真パネルのうち上の一枚)です。

この写真に見えているのは、テーブルに積まれた大量の同人誌。
ブースに詰めかけた人々(一般参加者)と、拳を突き上げる竹澤氏らサークル参加者の後ろ姿が写っています。

服装から言って、季節は冬。
奥に見える建物は、東京ビッグサイト西展示棟(西ホール)です。

写真では東京ビッグサイト西展示棟を見上げており、写真が撮られたのは地上階(1階)で間違いありますまい。
同様の角度で西展示棟を見ることが出来る位置を逆算してみると、
東京ビッグサイト東展示棟、東1ホールの南西角シャッター前であることが分かります。
リンク先のグーグルマップ(ストリートビュー)の画像で言うところの、写真奥側のシャッター(三角形の突起がある箇所)です。

コミックマーケットなどの大規模な同人誌即売会では、数多くの一般参加者が来場する結果、人気サークルの同人誌頒布ブースには大変な行列が発生します。
そのため即売会の実行委員会では、行列の原因となる人気サークルをあえてホールの壁際に配置し、行列をホール中央からオフセットする体制をとります。
これを俗に「壁サークル」と呼ぶのですが、単に外周に配置しただけでは来場者を処理しきれない程の超人気サークルというものも存在します。
これに対しては行列そのものをホールの内から外へ出し、頒布場所自体もホールの出入口に接した、つまりは外側の、シャッターの前に設置するという対応策がとられます。
これが俗に「シャッター前」と呼ばれる人気サークルの究極形態です。

写真と(頒布部数ほかの)文章、その配置位置からすれば、竹澤氏のサークルとはまさしく「シャッター前」の大人気サークルなのです。

ここで東1ホール南西角の「シャッター前」を用いる同人誌即売会を調査してみると、
ガールズ&パンツァー関連では、コミックマーケット(コミケ)以外には存在しないことが分かりました。

ガールズ&パンツァー関連の同人誌出展が可能でかつ東京ビッグサイトで行われる同人誌即売会としては、
他にも専門即売会(オンリーイベント)の「ぱんつぁー☆ふぉー」や、
コミケと同じくオールジャンルイベントの「コミック1」や「Comic City」があるのですが、
「ぱんつぁー☆ふぉー」は例年西館開催であるため東展示棟とは関係がなく、
「コミック1」は東館での開催実績があるものの開催時期が写真とは異なり、「Comic City」も同様に時期が異なります。
そのため消去法により、写真の即売会はコミックマーケットに絞られるという訳です。

コミックマーケットは夏・冬の年二回開催。
写真はどう見ても冬であり、竹澤氏の「劇場版ガルパンを見てから漫画を描き始めた」という言葉を前提とすると、
映画公開以降、つまり2015年11月以降のイベントに絞り込むことができます。

すなわち2015年冬のC89、2016年冬のC91、2017年冬のC93、2018年冬のC95の四回です。

このうちC89については劇場版を見た時点では参加申し込みが締め切られており(冬コミの申込みは8月締切)、こちらも排除することが出来ます。
検証すべきはC91、C93、C95の三回です。

コミケの会期は、一回につき3日。
おおむね1日1万サークルが参加しますが、幸いチェックすべきは東1ホール南西角シャッター前に出展する6サークルのみです。
コミケの配置図を公開しているサイトを参照していただくと分かりやすいのですが、ここでいう6サークルとはA15、A16、A17の場所(ブース)に配置されるサークルのことです。
それぞれのブースはa、bのブースに分割されているため、1日あたり6サークルをチェックする必要があります。

とはいえガールズアンドパンツァーの場合、これを描いた同人誌が出展できる日は予め決まっており、C91は2日目、C93は2日目、C95は1日目でした。
そのため6サークル×3日、計18サークルを検証の対象としてチェックすれば足りることになります。
参加サークルについてはコミケカタログのほか、公開しているサイト(例えばC95ならこちら)がありますので、これを閲覧することで抽出可能です。

ここで竹澤氏の文章を読み直してみると、
・氏は2015年11月以降に同人活動を開始していること(文章④)
 ≒同人歴3年前後。古参の大手サークルやアニメーターではないこと
・氏は大洗に通っていること(文章④〜⑥)
 ≒高い蓋然性で同人誌にGIRLS und PANZER 大洗女子学園のキャラクターを登場させていること
・氏の作品に「泥臭くて告発的で生々しくて露悪的でグロテスクで賛否両論を生むような」要素が含まれていること(文章⑦)
 ≒基本的にはエロ(R-18)ではなく、一般向け同人誌を描いている。成年向けだとしてもエッジィなものであること
という諸要素を読み取ることが出来ます。

そして、18サークルについて公開されたポートフォリオやPixivを閲覧してみると、
やはりというべきか、すべての要件を満たすたった一人の該当者が浮かび上がりました。
ああ、貴方だったのか。

もちろん、この竹澤慶人氏の「自分史」自体が壮大な叙述トリックであり、
ある人気同人作家をモチーフとした偉大なフィクションである可能性も否定しきれません。
しかし、これら諸条件をすべて満たす人物がいた、ということも又事実です。

ここでその人物の名前を具体的に指摘することは差し控えますが、
最後に当該人物のツイートを引いて、この記事を締めくくりたいと思います。
「すっかりガルパンおじさんになってしまったな・・・」

by katukiemusubu | 2019-02-03 17:52 | ブックレビュー・映画評
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