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カール・ツァイスレンズ搭載の衝撃 SONY Xperia1のカメラユニットを考える

ソニーの最新スマートフォン Xperia 1(エクスペリア・ワン)に関するお話。



実機を触った感想はこちら
(カメラ機能を中心としたレビュー記事です)

2019年2月のMWCで発表されたSONYの最新鋭機「Xperia 1」。
CPUにクアルコムのSnapdragon 855を備え、メモリは6GB、リア3眼+フロント1眼のカメラを搭載した、まさに最新鋭の名に相応しいスマートフォンです。

久々に登場した「One SONY(ワンソニー)」の掛け声も高らかに、4K有機ELディスプレイをBRAVIA X1映像処理エンジンで駆動し、α(アルファ)のBIONZ X画像処理エンジンでもって光画を現像する。
21:9のシネマスコープに近いサイズ感はCinealta監修の動画撮影モードに対応し、オーディオ面ではウォークマン譲りの音質補完技術DSEE HXを搭載した上、Dolby Atomos(ドルビーアトモス)にまで対応。

事業部の垣根を飛び越えてソニーの技術が結集したフラッグシップらしいフラッグシップモデルです。
モデル名の「XZシリーズ」からの更改と連動して、デザイン言語も更新され、スマートフォンらしいスマートな外観となっています。

2019年4月16日には日本国内で単独のお披露目イベントが開かれ、製品の詳細のほか、パーツの展示も行われました。
各誌からこの発表会の詳細が公開されましたが、この記事掲載のカメラユニット画像をみてビックリ。
XPERIA1のカメラユニット、良い意味でとんでもない事になっています。

以下、このカメラユニットの構成を展示写真から読み解いて参りましょう。
c0124076_17140108.png
上掲の写真はリア(機体後側)の3眼カメラです。

上から順に26mm標準カメラ、52mm望遠カメラ、16mm超広角カメラという編成(いずれも35mmフルサイズカメラ換算)になっており、有効画素数はいずれも1200万画素と発表されています。

OIS(光学式手ぶれ補正機能)を備えた標準カメラと望遠カメラは、制振ユニットも搭載しているためサイズは大きめです。

超広角カメラの16mmという画角は割と驚異的で、視野角度に変換すると実に107°です。
人間の有効視野が約20°、周辺視野が概ね100°ですから、単眼として考えれば肉眼を超える性能を持っています。
同様の16mm超広角レンズ搭載スマートフォンとしてはHuawei P30proが挙げられます。

右側にユニット本体が、左側に接続子(コネクタ)が見えますが、ここで注目したいにはこの二つを結ぶFPCケーブル(フレキケーブル)の部分。
なにやらアルファベットと数字が印字されています。

これを読んで参りましょう。

まず一番下の広角ユニットに着目してみると、書かれているのは「A13S06A SUNNY ・・・」。
SUNNYというのは、中国の寧波にある舜宇光学科技(Sunny Optical Technology)のトレードマークで、こちらで作られたユニットであることが分かります。
A13…の数列は製品番号であり、中国の通販サイト・アリババのパーツコーナーを検索すると、広角単焦点ユニットにつける型番と思われます。
舜宇は自社センサーのほか、ソニーやサムスンからイメージセンサーを仕入れてアッセンブリを行っており、レンズの詳細やセンサーのメーカーなどは、この画像から読み解くことは出来ませんでした。

次に真ん中の望遠ユニットを見てみましょう。
こちらに書いてあるのは「S5K3M3 ・・・」。上の行は見切れています。
S5K3M3とは、韓国のサムスン・セミコンダクターのイメージセンサーです。製品ページによると総画素数は1300万画素。ピクセルサイズは1.0μmです。
有効画素数(1200万画素)に比して、総画素数が大きいことが気になりますが、望遠レンズの場合、センサーいっぱいに画素を使うと周辺部が暗くなることがあり、この周辺減光に対する余裕をもたせているものと考えられます。

一方、最も上の標準ユニットを見てみると、他のユニットに3行の印字があったのに対し、2行の印字しか見えていません。
これはソニーの自社向けユニットであると考えられます。

Gレンズを搭載したXperia Z1の分解記事などをみると、ソニーは自社向けユニットについては「IMX486」などのセンサーの商品名を印字せず、組み合わせるレンズの名前を印字している様です。
例えばZ3を紹介した記事のカメラユニットを接写した画像を見ていただくと「G2 ・・・」とGレンズの名称が記載されていることが分かります。

この様な経緯から言えば、最上部のユニットはSONYのExmor CMOSセンサー搭載と言うことができそうです。
海外のリーカー Zackbuks氏によれば「IMX445」という型番だとか。
→5月10日追記:
SoftBank版Xperia1の発表に伴い、ソニーモバイルコミュニケーションズのページで詳細な仕様が公表されました。
これによれば標準レンズユニットのセンサーは「メモリー積層型イメージセンサー」。
このタイプの携帯電話向けセンサーを製造できるのは世界でもソニーだけですから、Exmor CMOSで間違いなさそうです。
日本国内の発売日は6月中旬以降とのこと。グローバル版は5月30日発売とのことでした。

ところで印字がセンサーを表していないとなると、この印字の意味はレンズの名前と言う事が出来そうです。
書かれた文字は「MILVUS_WIDE_V15」。果たして、どういう意味でしょうか。

MILVUS(ミルバス)とはラテン語で鳶(とび、とんび)を意味する言葉です。
とはいえ、カメラ好きの間でMILVUSと言えば、鳥類の名前ではなく、あるレンズのシリーズ名として知られています。

カールツァイスがコシナと共同開発したデジタルカメラ向け高性能単焦点レンズのブランド名です。
焦点距離にもよりますが、概ね10万円〜25万円の価格帯に位置する比較的高級なレンズとして知られています。

Leica(ライカ)と並び立つドイツの光学機器メーカー、Carl Zeiss。
ライカがHuawei(ファーウェイ、中国)との協働を進める一方で、ツァイスはNOKIA(ノキア、フィンランド)との協働を再開しており(※1)、まさかソニーの製品内にツァイス商品の名前を発見するとは意外でした。

はじめは偶々(たまたま)製品名がかぶった可能性や、機械的な文字列の一致を疑ったのですが、機械的な文字列の一致にしては「MILVUS_WIDE(広角)」という印字は意味が取れすぎてしまいます。
そして、製品名・ブランド名についてはマドリッド協定議定書に基づく国際的な商標制度があり、その名称は保護されていますので、ツァイス以外の他社が商標登録を行っている等の事情が無い限り、名称がかぶることは許されません。

そこで、WIPO(国際知的所有権機関)の国際商標データベースに当たってみることにしました。
その結果は下記の通り。
text:milvus + goods/services:optical(光学)の検索では検索結果5件すべてがCarl Zeiss AG。
c0124076_18023777.png
goods/servies:camera(カメラ)の検索では検索結果3件のうちCarl Zeiss AGが2件。
c0124076_17464091.png
すなわち光学機器分野における「milvus」の検索結果はのべ8件で、うち7つはCarl Zeissでした。
もう一つの登録はフランスのSAT社によるものですが、すでに「status:inactive」になっています。
つまり現時点において光学機器分野で「MILVUS」の名を用いることが出来るのは世界でただ一社、ツァイスのみなのです。

カメラユニットの画像をもう一度よく見てみると、真ん中のSamsung製センサーを搭載したユニットの上部に見切れた文字も「MILVUS_TELE(望遠)」と読むことができます。
センサー名が別に印字されている以上、ここに言う「MILVUS」とはレンズ名と考えるのが自然な解釈です。
光学機器分野に限らなければ、アパレルや医療機器(眼鏡、コンタクトレンズ)の分野などで「MILVUS」の登録は存在するのですが「WIDE」に「TELE(telephoto)」という二つの言葉が結びつけられた単語を、しかもカメラユニットの内に記載されているという状況において、光学機器分野(とりわけカメラレンズ)ではないと理解することは困難です。

そのため結論的には「SONY Xperia 1は、かなり高い蓋然性でZeiss製(またはZeissのライセンス供与を受けた)カメラレンズを搭載している」という事ができます。

もう一つのあり得る可能性としては、「milvus」という名称がソニーの内部における(非商標的な)コードネームであることが考えられます。
たしかに開発用のコードネームであるとすれば商標制度とのコンフリクトは生じません。
しかし他社が長年用いている光学機器の名称を、同業分野における自社向けのコードネームとして利用することはナンセンスであり、あまり可能性は高くなさそうです。
従って、やはり上記の結論が導かれます。

かつてミノルタの一眼レフ部門を買収する前、ソニーがαを展開する前の話ですが、ソニーのデジカメ(Cyber-shot、サイバーショット)と言えばツァイスという時代がありました。
それは今もコンパクトデジタルカメラ RXシリーズの中で息づいておりますが、スマートフォンの分野からは見かけなくなって久しく、このタイミングでツァイス(※2)とソニーの協働が見られるとは驚きでした。

NOKIA9に搭載されたカメラユニットは1200万画素のイメージセンサー(こちらはソニー製と言われています)とZeiss製レンズを備え、35mm換算で27mm、F値はF1.82でしたが、今回の「MILVUS WIDE」は35mm換算で26mm、F値はF1.6と、より広くより明るくなっています。

そしてソニーの説明によれば標準カメラ(すなわち「MILVUS WIDE」)は望遠カメラ(すなわち「MILVUS TELE」)と連動し、26mmから52mmまでの画質を損なわないズームを実現。さらにデジタルズームにより、260mmまでの10倍望遠が可能となっています。

Zeissのレンズ風に言えば「MILVUS」(単焦点機)でありながら「VARIO」(可変ズーム機)でもある。2月の発表会の際に「レンズを交換して撮影する楽しさを味わえる」との言及があった様に、非常に面白い構成です。

おそらく商品開発の共同におけるNOKIA(HMD Global)との関係、および搭載を公表することによるライセンスフィーの増大を考えて「Xperia1はZeissレンズ搭載!」とは宣言されず、また今後も明言されないものと思いますが、発表会において関係を匂わせる様な展示を行うあたり、ソニーのマーケティング部門のしたたかさを感じさせられました。

もちろんソニーから明言がない以上、ここに書いた内容は推定に過ぎず、あくまでも想像です。
しかし、バラエティに富んだ四カ国共同のカメラユニットに思いを馳せながらXperia1を使う、ということも楽しからずやと思われます。

ということで、この記事の結論(まとめ画像)はこちら。
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お読みいただきありがとうございました。


【余話】
※1:ファーウェイとノキア
 スマートフォンにおけるカメラ機能の雄であるHuaweiとNokia(そのブランドを継承したHMD Global)ですが、海外サイトを巡っていたら興味深い記述を目にしました。この両社のカメラチームは元々は同じチームであったというのです。
 ノキア本体が携帯電話を手がけていた時代、ノキアはツァイスと組んで高性能カメラケータイ「Lumia シリーズ」を展開しておりました。例えばWindows Phone Lumia1020は1/1.5型の4100万画素 大型センサー、ツァイス テッサー(Zeiss Tessar)換算26mm F2.2レンズを搭載し、2013年の発売当時において超絶的なカメラ性能を誇っておりました。
 しかしノキアは2014年に携帯電話事業を解体、カメラチームもばらばらになってしまいます。これを再集結させたのがファーウェイであり、チームは新たなパートナー・ライカと共に2016年、Huawei P9を世に送り出しました。一方でフィンランドに残ったメンバーもおり、こちらは台湾のFoxconnの支援のもとHMD Globalとして再始動。NOKIAブランドを手に、かつてのパートナー・ツァイスと共に、欧州市場奪還に向けた動きを見せています。・・かつてのチームメイトが二つの勢力に別れ、覇を争う。実にドラマチックでそそられるお話です。

※2:ツァイスとコシナ
 MILVUS(ミルバス)の共同開発元であるドイツのツァイスと日本のコシナ。Cosinaは2004年からZeissと提携を開始し、2005年にレンジファインダー機「ツァイス・イコン」、2013年からはMilvusシリーズを市場に投入しています。Zeissの提携先の中でも屈指の連携密度を保っており、同社(ツァイス)の中核技術であるT*(Tスター)マルチコーティングも供与され、自社(コシナ)製のツァイスレンズに施しています。当然、MILVUS(ミルバス)には全点Tコートが実装されており、もし今回のXperia1向けレンズが正しく"MILVUS"であるとすれば、Tコーティングも付いているはずです。

by katukiemusubu | 2019-04-24 19:20 | 電子計算機 | Comments(0)
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